+ あの日から・・・ +
バタバタバタッ!!!
慌ただしい足音が廊下に響きわたる。
ガチャ!!
「跡部ー!早く行こーよ!!」
「あん?まだ早ぇだろ」
「ジロー!お前その格好で行く気かい!!?」
「ジローさんのスーツもちゃんと用意してありますよ。ホラッ」
「日吉ー!俺のネクタイ知らねぇー?」
「はしゃぎ過ぎでしょう・・・」
「激ダサだな。跡部が予約席用意してくれてんだから慌てることねぇだろ」
ここは跡部宅。
元・氷帝学園のテニス部メンバーは真新しいスーツに身を包み、ソワソワと落ち着かない様子だった。
「あれから7年・・・か」
「なんやまだ夢見とった気分やなぁ」
あの不思議な一夜から7年が過ぎ、全員すっかり大人になった。
相変わらずな所もあるがこうして7年経った今でも・・・お互いを想い、自分を想うことを忘れていない。
「よしっ!じゃあ行くか」
「「「おぉー!!」」」
跡部が用意した車に乗り込むと目的地でもある会場に向かった。
そこにはカメラを持った者や、花束を抱えた者が
何十人も集まり跡部達は思わず口を開けて呆然としてしまった。
結局、係員に裏口を勧められ会場に入ると予約してあった席に座った。
「なんか俺達が緊張すんな!!」
「静かにしろ向日。始まるぜ?」
客席の光が消えていき真っ暗になるとステージにスポットライトが向けられる。
そこには光沢が美しいピアノを背に、真っ白なワンピースを着た髪の長い女性がゆっくりお辞儀をした。
(
だ!!)
(
、超キレー・・・!!)
静かにピアノへ向かうと、腰を下ろし・・・鍵盤に指を置いた。
――― ポロンッ・・・。
の奏でる調べは・・・優しく・・・儚く・・・優雅で・・・力強い・・・。
客席にいた大勢の人達が、感動と・・・光と・・・勇気と・・・希望を感じた・・・。
演奏した曲の中に見つけた思い入れのある曲・・・。
「月光だ・・・」
「別れの曲・・・か」
その瞬間、跡部達の心は演奏をしている
と1つになっていたに違いない。
演奏が終わり・・・会場は鳴り止まない拍手の渦に包まれた。
「演奏会も終わったっつーのに・・・何なんだよこいつら」
「全員
のファンやろなー」
演奏会が終わった会場の裏口は花束やプレゼントを抱えた者達が
の登場を今か今かと待ち構えていた。
「あ!みんなぁー!!」
「
!お疲れ様ー!!」
「待っててくれたの?」
「当たり前やん。ここからは俺らが
を送るボディーガードなんやから」
「じゃあ、行きましょうか」
長太郎が裏口の扉をそっと押し開けると、一気に歓声が沸き上がった。
は1人1人に「ありがとう」と言いながら跡部の用意した車へ向かっていく。
「あ、オイッ!!」
「
さん!!」
ドンッ!!
「わっ!?」
跡部達のガードを抜け、
に抱き付いてきたのは髪の長い小さな女の子・・・
しかし、その少女の姿を見て全員が目を見開いた。
「「「風華!!?」」」
「びっくりしたぁ・・・」
少女は幼い風華そのものだった。
顔も、目も、肌も、声も・・・。
あの夜出逢った・・・今は眠った、
の姉。
は同じ目線になるようにしゃがみ込むと、少女の目に涙が浮かんでいることに気付いた。
「あ、あの・・・私、今日・・・。
さんの演奏聴いて感動して・・・」
ポロポロと涙を流しながら
に花束を差し出した。
「わ、私もピアノ練習してて・・・頑張れば・・・。頑張れば
さんみたいになれますか!?」
は目を細めて笑うと、そっとその少女を抱き締めた。
「なれる。なれるよ・・・。夢を諦めないで、追い続ければ・・・きっと仲間ができる。
その仲間を大切にして・・・頑張って。私はそう教わったからここまでこれたの」
「誰に・・・ですか?」
「私の・・・大切な人」
花束を受け取ると
達はそのまま車に乗り込み、ある場所へ向かった。
「ここか?」
「うん!ここ!!」
着いた場所は桜の木が咲き乱れる広場だった。
溜め息が出るほど見事な桜の木々に全員が言葉を失った。
「今年も綺麗・・・。ここね!お姉ちゃんとよく遊びに来てたんだ!!」
は両手を広げて空を見上げた。
「今日のピアノ・・・お姉ちゃんに届いたかな?」
「決まってんだろ」
はさっき少女にもらった花束をギュッと抱き締めた。
「桜の花束か・・・」
「うん」
の瞳にうっすら涙が浮かんだのを、跡部は見逃さなかった。
「
・・・」
「うん?」
「今、幸せか?」
「・・・うん。わっ!!」
急に強い風がふいたかと思うと、ピンクが美しい桜の花びらが
の頭の上に降り注ぎ、全員で笑った。
ありがとう。
ありがとう。
いつまでも大好きだよ。
お姉ちゃん・・・。
あなたは、今。幸せですか・・・?
【血の涙・END】
2007.10.13