+ 終 +















厳しい冬が終わり、春の訪れを感じさせるこの暖かい日。
何月だったか忘れたけど、お姉ちゃんのいる病院の桜の木がすごく綺麗だったことを覚えてる。



本当に綺麗でお姉ちゃんにも見せたくて、ちょっとした悪巧みをしたんだ。










ガラッ!!










「お姉ちゃーん!!」

「こら !病院では静かに入ってきなさいってあれほど」

「まぁまぁ♪」








早くお姉ちゃんの驚く顔が見たくてウズウズしていたんだろう・・・。
私の悪巧みはあっと言う間にバレてしまった。








「何か企んでる顔ね?

「えっ!なんで!?」

「顔がニヤニヤしてる。何を企んでるの?ん?」








バレてしまっては仕方がない。っと、後ろに隠し持っていた物を
思いっ切りお姉ちゃんの頭上に降らせた。








「ふわぁ!!?」

「プレゼントだよ!お姉ちゃん!!」








それはさっき私がせっせっと拾い集めた桜の花びら。
それを頭から被ったお姉ちゃんも、ベッドの白いシーツにもみんなピンクの模様が広がった。










「すごーい!アハハハハ!!」










あの時のお姉ちゃんは・・・本当に楽しそうに笑ってた・・・。















目を閉じてもう1度ゆっくり開いてみる。








すると、目の前には屋上から飛び降りた後のお姉ちゃんがいた・・・。










――― っ!!」










真っ白なお気に入りのワンピースは真っ赤に染まり・・・
体は全ての力を無くし、グッタリしていた。



震える手でお姉ちゃんの頬に触れると、スゥ・・・っと閉じていた瞳が開いた。








・・・」

「お姉ちゃん!何で!?」

「私はね・・・ピアノも、桜も・・・大好きだけど・・・」








苦しいはずなのに・・・痛いはずなのに・・・お姉ちゃんは、優しく笑って見せた。








「あなたが1番大好きよ・・・








閉じた瞳からツーッと真っ赤な涙が伝い、2度と開くことはなかった・・・。










「お姉ちゃん?ねぇ、ねぇ!いや・・・いやぁあー!!




















!!」










――― ハッ・・・!!










目を開けると最初に飛び込んできたのは真っ白な天井。
手や背中は嫌な汗でぐっしょり濡れていて、ハァ・・・ハァ・・・と荒い息遣いをしていた。



顔を横に向けると跡部が心配そうな表情で私の手を握っていた。








・・・。落ち着け、嫌な夢でも見たか」

「夢・・・?」








ガバッ!っと上半身だけ起き上がる。見てみるとここは誰かの部屋のようだ。
そして自分の頭や腕に白い包帯が巻かれていて、跡部の腕にも同じものがあった。








「ここは?」

「俺の別荘だ。2日前、俺達8人はこの別荘の前で全員倒れてたんだそうだ」

「2日前?」

「お前は2日間も目を覚まさなかったんだよ。心配かけんじゃねぇバカ」








跡部はハァ・・・っと大袈裟に溜め息をついて見せた。








「ジロー達もお前が起きねぇもんだから騒いで煩せぇしよ」

「ねぇ・・・跡部?」

「あん?」










「夢なんかじゃ・・・ないよね?」










見渡す限りの生い茂る木々・・・ホラー映画のようにそびえ立つ館・・・

自分達と同じ姿をした幽霊達・・・轟々と燃え広がった炎の海・・・






そして・・・お姉ちゃん・・・。










「夢じゃねぇよ。俺達は・・・確かにあの夜を過ごした」








跡部は の髪をゆっくり撫でると、クシャ!っと乱暴に乱し立ち上がった。








「目が覚めたら早く来い。今すぐ飯を用意させる」

「あっ!ちょっと待っ・・・」









ベッドから立ち上がり、フラフラした足取りで後を追うと
跡部は急に廊下で立ち止まり はその背中に顔面をぶつけた。








「うっわ・・・!!どうしたの跡部?」

「面倒な奴らが待ち伏せてたぜ?」

「へっ?」








跡部の背中からひょこっと顔を覗かせると前には・・・。













「あー! ー!!」

「起きたのか!!」








そこにはあの館で一緒に不思議な一夜を過ごした仲間。
忍足、宍戸、長太郎、岳人、ジロー、日吉がいた。



全員腕や頭に白い包帯が巻かれていたが、そんなこと気にしない様子で満面の笑みを浮かべていた。










だ!!」

・・・」

先輩!」








目の前にいた跡部も振り返り全員が並び、目を向け、声を揃えた。













「「「おかえり。 」」」













――― 俺達は、ずっとお前のそばにいる・・・。


――― 絶対に離したりなんかしない・・・。


――― 1人になんかに絶対しない・・・!!













は自然と最高の笑顔を返した。










「ただいま・・・みんな!!」













「俺達、 が帰ってきてくれてマジマジすっげー嬉しい!!」

「これからもずっと一緒ですよ? 先輩・・・」

「私も・・・すごく嬉しい。本当にありがとう」








そのとき、開けっぱなしだった窓から風が入り込み
達を包み込むように通り過ぎていった・・・。










「お姉ちゃんも・・・喜んでくれてるの?」










ザァ・・・!!










柔らかく頬を撫でる風を感じながら、 はクスッと小さく笑った・・・。















+ ―――――――――― +

どんなに遠く離れていても

私はいつも貴方のそばに

立ち止まったら目を閉じて

そっと背中を押してあげる



さぁ行きなさい。貴方の未来へ。





2007.9.29