+ 幸 +















「あ、跡部!ねぇねぇ!!」

「なんだよ!?」

「ちょっとストップ!!」








階段を降りきったところでジローが足を止めた。








「なんだよジロー!?のんびりしてる場合じゃねぇんだぞ!!」

「ねぇ・・・。聴こえない?」

「あん?」








耳をすませてみる。
すると、炎の音とは別に確かに聴こえる美しい音色があった。








「ピアノ・・・だ。弾いてやがるんだ。あいつが」

「この曲は・・・「別れの曲」?」

「別れ・・・か。あいつは、やっと安心できたってことだろ」








その音色は今までで1番優しく・・・1番、美しかった・・・。










「うっ・・・ん」

「っ! ?」








跡部に抱き上げられていた はようやく目を覚ますと、目の前の出来事に唖然とした。








「な、にこれ?なんでこの館燃えてるの!?」

「詳しい話はあとだ。 、今は外へ!!」








走り出そうとした瞬間、 の耳にもあの演奏が届いた。








「お姉ちゃん・・・?跡部!お姉ちゃんがいない!!どこ!!?」

・・・もう風華には会えない。自分は残って俺達だけを逃がした」

「嘘・・・なんで!?いや!私も残る!!」

「跡部! を離すんやない!!」








跡部は を抱き締める形にすると階段が繋がっていた1階の部屋から再び廊下へ出た。








「ダ、ダメだ・・・!!」








岳人は玄関へ続く廊下が火の海になっているのを見るとガクッと膝をついた。








「もう外には出られねぇ・・・」

「バカ!諦めんな!!」








岳人の腕をつかんで無理矢理立たせる。
すると背後から誰かが近付いてくる気配を感じ、全員が振り返った。













「なにをモタモタしているんですか・・・。早くついて来てください」








そこには日吉の姿をした幽霊が、不機嫌そうに立っていた。










「お前っ・・・!?」

「話してる暇なんてありません。こちらへ」








有無言わさず背を向けて歩き出す男を見て、 は叫んだ。










「待って!お姉ちゃんは!?」

「主様は・・・」








一瞬寂しそうな表情を見せると、また背を向け歩みを早めた。








様。あの方は・・・風華様は、もう眠ります・・・」

「い、や・・・」















―――  は本当にピアノが好きね。










「嫌だ・・・」










――― じゃあ の好きな曲、弾いてあげる!










「嫌だよ・・・っ」















ガチャッ!!








案内された部屋は最初に と長太郎が桜の絵を見つけ
が日吉の姿をした幽霊に出会った場所・・・調理場だった。








先頭を歩いていた男は脇目も振らず絵に近付くと、真っ赤に染まった絵画に手を触れた。












ガチャッ!!








鍵の開く音。












それからギィィ・・・。っとそれはまるで扉のように開いて見せた。












「外だ!外に出られるぞ!!」








扉の向こうは、この館に来たときに見た生い茂る雑草と背の高い木々だった。












「さぁ早く。ここも間も無く消滅します」








メンバーが次々と外に飛び出す中、跡部と だけがなかなか出てこない。












「跡部! !!なにしてんねん!!?」








見ると、 が渦巻く炎の中へ戻ろうとしているのを跡部が必死に止めていた。












「バカ!死ぬぞ!!」

「離して!私はお姉ちゃんと一緒にいる!!」

!!」

「またお姉ちゃんを1人で死なせるなんてできない!私も一緒に・・・!!」













パァン!!










乾いた音が響いた。










跡部は震える手で の頬を軽く殴っていて

は殴られた頬に手を当てながら呆然と跡部に顔を向けた。















「バカ言ってんじゃねぇよ・・・。お前が、今ここで死んで風華が喜ぶとでも思ってんのか・・・!!」















―――  。私はね・・・。



    ピアノも桜も大好きだけど・・・。













「風華は・・・お前を愛してた」










――― あなたが1番大好きよ? ・・・。















「うっ・・・お姉ちゃ・・・」

「もう、安心させてやれよ・・・。お前は幸せになっていいんだよ。








涙で顔を濡らす を、跡部は優しく・・・しかし固くきつく抱き締めた。













「帰ろう・・・一緒に」













俺達は、ずっとお前のそばにいる・・・。


絶対に離したりなんかしない・・・。


1人になんかに絶対しない・・・!!















+ ―――――――――― +

どんな壁に塞がれたって

どんな雨に打たれたって

どうか負けないで

どうか笑顔でいて

幸せはきっと・・・その先にあるから。







2007.9.16