+ 願 +















「私の最後のお願い・・・聞いてください」








真剣な視線が跡部に向けられた。








「お願いの前に1つ聞きたい。跡部くんは・・・この子のこと、大切?」

「あぁ・・・」

「本当に?」








跡部はサラッと の髪に指を絡ませながら小さく笑った。








「俺だけじゃねぇ。ここにいる全員が同じ答えだ」








跡部の後ろでメンバー全員が頷いた。








「こいつは、マネージャーになる前から周りとは違った。
 くそ真面目で、曲がったことが嫌いで、いつも笑ってやがって」

「跡部相手に本気で言い合った初めての女やったなぁ」

「うるせぇよ・・・」

先輩は、俺達がどんな壁に立ち止まってても優しく手を引いて、道をくれました・・・」

「助けられてんだ。 にはいつも」

「だから、俺達はみんな 大好きなの」

は俺達の仲間だしな!」

「目を離すと何をしでかすかわかりませんしね」

「そら余計や日吉・・・」








「それに誰かを大切に思うのに理由なんていらねぇだろ。
 俺はただ・・・隣でこいつに笑っててほしいだけだ」








風華は微笑みながら目を細めると、眠っている の手を握った。








・・・よかった。もう1人じゃないのね・・・。
  の周りには、こんなに素敵な人達がいるのね・・・」








頬を伝った涙はポタッと握り締めた手に落ちた。








「お前が幽霊にまでなって の前に現れたのは・・・本当は恨みでも何でもねぇんだろ?」

「えっ・・・?」

「風華さんは・・・ 先輩のことが心配だったんですよね?
 自分が死んで、1人残された 先輩が・・・寂しくないか」








風華は を跡部に預けると、ゆっくり立ち上がり涙を拭いた。








「バレてたの?でも・・・安心した」













最後にフワッと笑った風華の笑顔は、今までで・・・1番、温かい笑顔だった。













「あ、跡部・・・」

「なんだ」

「なんか・・・暑くね?」








異変に最初に気付いたのは宍戸だった。








「言われてみれば・・・」

「なっ・・・、これって」








忍足が慌てて廊下へ出る扉を乱暴に開いた。













バァン!!





「なっ!!?」

「うわぁあ!!」













ゴォッ!!っという音と共に真っ赤に燃え上がる炎が目に飛び込んできた。













「なんだよコレ!!?」

「どうなってんだ!さっきまで別に・・・」








全員が一斉にピアノのイスに腰かけている風華に目を向けた。
風華は全員の視線に気付くと重く口を開いた。








「もう・・・私もこの館も、消えるみたい」

「消えるって・・・!?」

「仕方ないわ。もともとこの館は私と同じで存在しないものだし・・・」








跡部は を抱き上げると風華に歩み寄った。








「何をしてるの。早く外に逃げ」

「もう、心配すんなよ」

「えっ?」








はお前を恨んでねぇし、寂しくもねぇ・・・。
 俺達が絶対守ってやる。だから・・・もう、何も心配すんな」








跡部の言葉に風華はゆっくり、小さく頷いた。








「さぁ早く!今なら外に出してあげる」








その言葉にバタバタと部屋を出て行くメンバー。
跡部が をしっかり抱き上げて廊下に出ようとすると、風華が静かに呼び止めた。








「あ、跡部くん」








風華の表情は、これから消えてしまうというのに安らかで・・・
子供を見送る母親のような顔をしていた。












「その子を・・・。 をよろしく」



「あぁ。わかった」













飛び出した跡部達は、炎の広がる廊下をひたすら走った。

階段を目指して。










「階段を降りれば目の前に外に出られる扉があったはずです!!」

「っ!アカン!!」








忍足が叫ぶ。

階段にはたどり着いたが、下はすでに火の海と化し・・・
とても降りられるような状態ではなかった。








「ど、どうすんだよ!!?」

「このまま死ぬわけにはいかねぇぞ!!」

「こっちです!!」








後ろを振り返ると日吉が奥の扉を開けた。








「お、おい!日吉!?」










とりあえず部屋に逃げ込むとそこは食事をするための部屋らしく、
長いテーブルに椅子がいくつも置いてあり、天井には派手なシャンデリアがキラキラと輝いていた。



日吉はその長いテーブルを乱暴に倒すと、床に敷かれていた真っ赤な絨毯を指差した。










「ここを通って行きましょう!」

「はっ?ここって・・・」








日吉が絨毯をめくると下から隠し階段が現れた。








「ここを行けば1階の廊下に出られます」

「えぇー!!?」

「マジマジすっげー!隠し階段!!」

「別行動とらせたかいあったな!!」










そして全員その階段を使って1階へ向かった・・・。



炎はどんどん広がっていく。
































「主様・・・」

「よして。もう私は主なんて呼ばれる資格はない」

「なにを言って・・・絶望の中にいた私達霊をその優しい調べで救ってくださったのは・・・主様です」

「でも、あなた達には迷惑をかけたわ。今まで私の我儘を聞いてくれて・・・ありがとう」








「主様・・・」

「皆に出会えてよかった」








ピアノに向かって座る小さな背中を見つめ・・・腕を回すと、その流れる髪にそっと口付けた。















「好きです。私も・・・主様に出会えたことを幸せに思います。

 どうか、最後まであなたの演奏を」















鍵盤をしばらく見つめ・・・私の最後の演奏は、静かに始まった・・・。















+ ―――――――――― +

別れの言葉を音色に乗せて。

最後の曲と心を込めて。

笑顔で貴方を送り出す。

その人達と・・・生きなさい。





2007.9.2