+ 罠 +















「ダメですね・・・動かない」








館の2階。廊下の突き当たりにある水彩画・・・描かれた満開の桜。

最後に・・・ラスト1つ残った桜。








この館に存在する桜の絵にはカラクリがある。

そう見抜いた日吉を先頭に、全員で桜の絵を囲んだ。










「赤く染まってないからか?」

「いや・・・。

「なに?」

「絵に触ってみろ」

「う、うん・・・」








日吉が絵の前からどき、 が立つ。
不安そうに後ろを振り返ると跡部を含めて全員が頷いた。








「大丈夫だ。俺達もいる」

「うん。」








絵に向き直り、フゥッと小さく息を吐くとそっと右手で絵に触れた・・・。













ガチャリ。






「へっ!!?」








思わず手を引っ込める。
鍵穴なんてどこにもないのに確かに聞こえた鍵が開く音。



は何もしていない・・・ただ絵に触れただけ。








「鍵・・・開きましたよね?」

「俺も、そう思う」








宍戸がゆっくり絵に手をかけた。










ガコッ!!



「あ?」








身長ほどある大きさの絵画は宍戸の手から逃げるように
突き当りだったはずの壁に新たな道を開いた。








「扉・・・ですよね?」

「扉だな」








絵画。

それがそのまま扉となり、 達の目の前には「まだ見ぬ部屋」が現れた。








「ここで間違いねぇんだな?」

「そのはずです」








跡部は扉に近付くとゆっくり手をかけた・・・。








「跡部・・・」








振り返ると跡部のシャツを握りながら が不安そうに眉を寄せていた。
それを見た跡部はもう一方の手で と手を繋いだ。








「しけた面してんじゃねーよ。全員いるんだ・・・何か不満か?あん?」

「せやで! !!」

「絶対みんなで帰ろうな!」

「そのためには・・・」

「まず全員でここを出なければ、ですね!」








全員いる。 の中から不安が消えた・・・。








「うん・・・行こう!跡部!!」








跡部は笑みを浮かべると、グッと力を込めて押し開けた・・・。













ギィー・・・。













軋む音が妙に響く。
全員部屋に入ると周りを見渡した。








「真っ暗やん・・・」








隣にいる者の顔すら窺えない中ではどこを見ても同じことだった。















バタンッ!!





「「「なっ!!?」」」










突然、背後の扉が閉まる。
しかもご丁寧にガチャリ。と鍵まで閉まってしまった。












「いらっしゃい・・・」












その声に全員が身構える。

すると、1つ・・・また1つと勝手にロウソクに火が灯もり、部屋の中がだんだん明るくなってきた。








ポッ・・・

   ポッ・・・。








最終的にはランプも光りを放ち、この館の中で1番明るい部屋へと変貌を遂げた。










「宍戸・・・」

「あぁ。間違いねぇ・・・この部屋だ」








忍足と宍戸は目だけをキョロキョロと動かして確認する。
どうやら監禁されていた部屋に間違いないらしい。








「せやけど・・・」








忍足の視線はある1点に止まった。
宍戸も同じく「それ」を見つめている。












「俺らが捕まっとった時は・・・あそこにピアノなんてなかったで?」












部屋の中心に・・・堂々と、ピアノは存在していた。













「いらっしゃい・・・」




「っ!!誰!?」








全員に緊張が走る。
しかし 達以外には人なんていない・・・アロマランプの香りだけが漂う静かな空間だった。








「待ってたわ・・・」








また聞こえた声。
水のように澄んでいて、それでいて耳にスゥッと入り込むような声だった。








「おいっ・・・あれ!!」








岳人が真っ直ぐ指をさす。

その先には壁に直接桜の木が描かれていて、その木の下には1人の女性の後ろ姿も描かれていた。






白いワンピースに身をつつみ、満開の桜を見上げている・・・。










「「あっ!!」」

「ど、どうしたの!?」








宍戸・忍足・ジロー・岳人が同時に叫ぶ。










「写真の、女・・・」








そう小さく呟いた・・・次の瞬間。










「やっと・・・会えた。 ・・・」






「っ!?絵が!!















描かれていた白いワンピースの女性は、その絵の中で、絵のまま・・・。





ゆっくりと・・・










こちらを振り返った・・・。















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天使は皆に幸せを。

悪魔は皆に不幸を。

天使は不幸を知らず・・・

悪魔は幸せを知らない・・・。





2007.7.22