+ 吉 +















「この上だな。」

「はい。この館に階段はここしかありません」








最初にこの館を見回った時に上った階段を下から見上げた。
暗すぎて奥がよく見えない。










ゾクッ・・・!!










「うっ・・・!?」

「だ、大丈夫ですか!? 先輩!」

「どうした?」

「な、なんでもないよ!!ちょっと寒気が・・・」








カタカタッと震える を見て、跡部は優しく肩を抱いた。








「どうした・・・?

「わからない・・・」








の震えは止まらない・・・。
跡部と長太郎が顔を見合わせた時、大声で名前を叫ぶ声が聞こえてきた。








「あ!跡部!?跡部だよアレ!!」

「鳳と も一緒や!!」

「跡部さん!見てください、みんな無事です!!」

「あぁ・・・。元気そうじゃねーか」








笑顔で駆け寄ってきた4人は全員たいした外傷もなく、さすがテニス部と言うべきか・・・
全員まだまだ元気そうな様子だった。








!大丈夫?」








ヒョコッと現れたジローが の顔を覗き込むと はパッと顔を上げた。








「あ、大丈夫だよ!気にしないで!!」

「うん・・・」

「おいっ、日吉はどうした?」








跡部の質問に4人の顔が一気に険しくなる。








「あっ、日吉は・・・」

「実は別行動しててん・・・」

「「「別行動!!?」」」








予想していた通りの答えが返ってくる。








「ひ、1人で?」

「あぁ・・・うん。まぁ(汗)」

「バカか・・・」








3人が頭を抱えた、その時。













――― ポロンッ・・・。












「っ・・・!!」

「ピアノ・・・!!」








もう何度も聴いた・・・不気味な調べ。
それは間違いなく、2階の奥から響いてきた。








「どうやら俺達の予想は的中したみてぇだな」

「行くぞ・・・」










コツッ・・・コツッ・・・。








1段1段、ゆっくり階段を上がる。
上がりきった所で は跡部のシャツをギュッと握り締めた。








・・・」








「あっ、この廊下の突き当たりやで。俺と宍戸が捕まってた・・・なっ!?」

「えっ!!?」








全員廊下の突き当たりに目を向けた。








しかし、そこには扉など・・・存在しなかった。
あるのは、ただ鮮やかに彩られた桜の水彩画だけ・・・。










「なんでや・・・?」

「おーしーたーりー」

「ほ、ほんまやって!ほんまにここに部屋が・・・」








もう1度絵画に目を向ける。
絵画は身長ほどある大きさでかなり見ごたえがあった。










ガチャ。








絵画と向き合って左手にあった扉を開ける跡部と岳人。
その部屋は何の変わりもないシャワールームだった。
タイルも乾ききっていて鏡にはくもり1つない。








「確か向かいの部屋は書斎だったね」








シャワールームと向かい合わせの扉に が近付きドアノブに手を伸ばした・・・。










ガチャ!!



「えっ・・・!?」








しかし扉は が触れるより早く開き、中にいる人物と目があった。










「待ってましたよ。お姫様・・・」










っ!!」

「跡部!!来ちゃダメ!!」








バタンッ!!








扉が開いたと同時に顔を出した男は、とっさに動けないでいた の体に腕を回すと
強引に部屋に引きずり込み・・・扉を閉めた。








長太郎と同じ顔をした男が・・・。










ドンッ!!



「クソッ・・・!!」










閉ざされた扉を殴りながら奥歯を噛み締める跡部・・・。








「待てよ・・・長太郎の幽霊だと?冗談じゃねぇ・・・
 このピアノで演奏は何回目だ?あの幽霊で・・・何人目だ?」










「7人だよ」










全員がその声に振り返る。








廊下の突き当たりにいた跡部達を閉じ込めるかのように・・・
ジローの姿をした幽霊は笑顔でそこに立っていた。
その後ろには忍足と岳人の幽霊も控えている。








「これで俺達も、やっと全員揃うことが出来たよ。やったね♪」








ニヤッと、あまりジローには似合わない笑顔で・・・その男は笑った。








「歓迎の仕方が手荒だね。 を返して!」

「んー。それはダメ!だって俺達の姫に怒られちゃうし」

「てめぇら・・・!!」

「心配せんでも・・・どうやら、あんたらの仲間の1人がこの部屋ん中入ったみたいやで?」

「マジで?あ、そーいや1人足んねぇー!!」








足りない・・・仲間?








「まさか・・・」































「離してぇ!!」








必死に抵抗する に長太郎の姿をした男は、力強く を壁に押し付けた。








「うっ・・・!!」

「初めまして・・・ですね。いきなりですみませんが、少しの間・・・眠っていて下さい」








両手首を押さえられ身動きが出来ない に長太郎は静かに唇を押し付けた。








「っ・・・!!」








ガシャンッ!!



「つっ!!?」








横から飛んできた花瓶が長太郎の頭部を直撃。
思わず を離すと、よろめきながら花瓶が飛んできた方向を睨んだ。










「本物の鳳の方がまだマシだな」



「ひ、よし・・・?」








ズズズッ・・・。








が倒れ込む前に日吉は駆け寄り、その両腕でしっかり受け止めた。








「日吉・・・」

「しっかりして下さいよ。 先輩」








少し苦笑すると日吉はすぐに長太郎にキツい瞳を向けた。








「消えろ・・・」

「恐いなぁ。こっちの日吉の方がまだ可愛げあったよ?」

「余計なお世話だ」








ゴトンッ・・・。








長太郎は頭部にヒットしたせいで真っ二つに割れた花瓶の片割れを手にすると
日吉と に向かって大きく振り上げた。








「くっ・・・!!」








日吉は舌打ちをするとガバッと を抱き締め長太郎に背を向けた。










まさか・・・自分の背中であの花瓶を受け止めるつもり?










「ダメ!日吉ぃー!!」















+ ―――――――――― +

震えなさい。

目の前で仲間が消えることに。

脅えなさい。

自分1人残される事実に。







2007.6.9