+ 近 +
ガチャ・・・。
「っ!?長太郎!!」
閉じ込められていた部屋から呆気なく出てきた長太郎を見て
はすぐに駆け寄った。
「無事なの!?何もなかった?」
「はい!大丈夫ですよ。
先輩」
いつもと変わらない笑顔を浮かべる長太郎に
は安堵した。
「あっ・・・」
「えっ?」
しかし、長太郎の頬にできた切り傷から血が流れ出ているのを見つけると
はすぐさまハンカチを取り出し、そっと傷口を拭いた。
「あ、すみません。
せんぱ・・・」
「本当に・・・大丈夫?」
身長差から必然的に上目使いになった
の、全てを見通すような瞳に
長太郎は思わず言葉を詰まらせた。
「なぜ、ですか?大丈夫ですよ!」
「でも長太郎・・・なんか悲しそうだよ」
次の瞬間、長太郎の笑顔は消えて・・・自分の頬にある
の手に自分の手をそっと重ねた。
「長太郎・・・?」
「
先輩・・・俺は」
「おいっ。」
何かを言いかけて、そこで跡部の不機嫌そうな声が割り込んできた。
長太郎は顔を向けると、わざと跡部に見せ付けるようにギュッと
を抱き締めた。
「ちょ、長太郎っ!?」
「そんな恐い顔しないでくださいよ。跡部さん」
「この・・・心配して損したぜ」
口元を上げて笑う跡部に長太郎も笑顔を返した。
「あ、そうだ。跡部さん」
「あん?」
「宍戸さんの・・・幽霊に会いました」
バッ!と振り返る
に対して跡部は冷静に長太郎と向き合った。
「出たか。」
「はい。これで・・・忍足さんが幽霊だとしたら俺以外全員の幽霊が出たことになります」
「あと私の・・・」
「いや。たぶんお前の幽霊は出ねぇよ」
「えっ?なんで?」
「
先輩に会いたがっている人物・・・その人がピアノの演奏者だと考えていいでしょう」
「ピアノが聞こえる度に俺達の姿をした幽霊が増えていく。
憶測だが・・・ピアノの演奏者ってのが
の幽霊である確率が高い」
「あ、そうか・・・」
「わからないのが
先輩に会いたがる理由と、その正体」
「逃げてばかりじゃ同じことの繰り返しだ。どうする?こっちから攻めてみるか」
跡部の言葉に
と長太郎も頷いた。
「でも、どこへ行くの?」
「もちろん初めにピアノを聞いた場所・・・」
「2階の、まだ見ぬ部屋・・・だな」
■
「忍足。そっちはどうだ?」
「あかん。別に変わった所はなさそうや・・・岳人は?」
「こっちの部屋も異常なーし!」
「片っ端から部屋見て回るのは時間がかかりすぎるな・・・」
部屋の扉を閉めながら宍戸が悩むように呟いた。
「おいっジロー!いつまで写真見てんだよ?」
廊下の壁を背に座り込みながら宍戸達が持ってきた写真を食い入るように見つめるジロー。
3人が囲むように立つとジローはやっと写真から視線を上げた。
「んぁ!?ゴメーン!!」
「写真がそんなに気になるん?」
「うんー・・・」
曖昧な返事を返すとゆっくり腰を上げた。
「なーんか・・・引っ掛かるんだよねー」
「引っ掛かる?」
「うん。なんか重大な何かを見落としてるようなぁ・・・」
そして今度は4人で写真を見つめた。
満開の桜の木の下で笑う
。
手を繋いでもらって嬉しそうな少女。
は白いワンピースに身を包んでいて、手には楽譜。
「楽譜・・・?」
ジローは記憶をひっかき回した。
なんだ?何が引っ掛かってるんだ?
「お、おい!これ見ろ!!」
宍戸はジローから写真を奪うと裏を見せるように3人の顔に突き付けた。
そこには・・・ピンク色のペンで日付が記されていた。
おそらく、写真を撮影した日付だろう。
「ま、待てよ・・・これ、8年前の日付だぜ!?」
「けど写ってるんは間違いなく
やん!!」
「どうなって・・・」
もう1度写真に写る
に目を向ける。
・・・もしかして・・・。
「「あっ!!?」」
「わっ!?」
「ビビッたぁ・・・。いきなりなんやねん!?」
突然大声を出したジローと宍戸。
2人は顔を見合わせると興奮気味に考え込み始めた。
「いや・・・でも待てよ。そんなわけ・・・」
「ねぇ!宍戸と忍足が捕まってた部屋ってどこだったの!?」
「に、2階の・・・。あー、クソ!忍足!!」
「な、なんや!?」
「俺達が捕まってた部屋!あそこ2階のどこだった!?」
「つ、突き当たりや!確か・・・隣にシャワールームと書斎があった!!」
「そこ行くぞ!!」
宍戸が叫ぶと4人は2階へ向かって走り出した。
+ ―――――――――― +
複雑に絡んだ糸を解くには。
まずは緩めてみること。
焦ってもさらに絡まるだけ。
まずは緩めて・・・。
そこから1つ1つ丁寧に・・・。
2007.5.12