+ 偽 +















「終わっ・・・た?」

「あぁ。」






あの日吉の事件からピアノの演奏を聞くと体が震え出してしまうようになった
の肩を、跡部はしっかり抱き寄せていた。






「別に何も起こらなかったね?」

「こっちはな」

「飲み物を取りに行った2人は無事かなー?」

「宍戸さんと忍足さんですよ?どこかの誰かさんみたいに
 叫びまくってることはないと思いますけど?」

「それ誰の事言ってんだよ日吉!!(怒)」
「まぁまぁ。ガックン」






「あの・・・」






長太郎が遠慮気味に話に割り込む。






「さっき・・・遠くで誰かの叫び声が聞こえませんでしたか・・・?」

「えっ・・・」






長太郎の額には暑いわけでもないのに汗が滲み出ている。






「し・・・宍戸さん・・・のような」

「や、やめてよ長太郎ー!そんな不吉な事!あの2人なら大丈夫だって!!」

「でも!!」






バタンッ!!!






ビクッ!っと全員が突然開いた扉に目を向ける。






「忍足!?」






息を切らした忍足が扉に寄り掛かりながらしばらく膝に手を突いて
呼吸を整えるとキッ!と顔を上げた。










「宍戸が消えた!!」










その瞬間、全員が言葉を失う。
跡部と長太郎は勢いよく立ち上がると声を上げた。






「どういう事ですか!?宍戸さんが、消えた・・・?!」

「何があった!!」

「わから、へん・・・ちょ、待って?頭ん中グルグルしとんねん」






座り込む忍足に が慌てて駆け寄った。






「忍足。落ち着いて?ゆっくり話して?」

「調理場行ったら・・・ピアノが聞こえてきたんや。
 そん時、宍戸は先に廊下に出てて・・・」

「扉が、勝手に閉まった?」






ジローの言葉に忍足は少し驚いた表情を浮かべると
すぐにまた真剣な顔付きに戻った。






「ジローの言う通りや。勝手に閉まって・・・宍戸の声も、
 何も聞こえんようになって・・・やっと扉開いたと思うたら」

「宍戸さんが・・・消えていた」






コクンッと頷く忍足。
次の瞬間、部屋を飛び出そうとした長太郎を跡部が止めた。






「おいっ!鳳!!」

「放して下さい!宍戸さんが消えたんですよ!?捜さなきゃ!!」

「宍戸は捜す!けどテメェまで1人で動いたら同じじゃねぇか!!落ち着け!!!」






跡部の一喝に長太郎はシュン・・・っと小さくなってしまった。






「いいか。絶対に1人で動くな・・・
 また誰か消えたなんて事になったら洒落になんねぇ。必ず誰かと行動しろ」

「だったら。俺と岳人とジローと日吉チーム。 と跡部と鳳チームでどや?」

「いいな?鳳」

「・・・はい・・・」






全員廊下に出ると2つのグループに分かれた。






「気をつけろよ」

「そっちも気ぃつけてな」








ダッ!!








お互い背を向けると走り出し、宍戸を捜しに出た。















「宍戸ー!!」

「どこー!!?」

「宍戸さーん!!!」






捜しても捜しても見つからない・・・3人の心には不安が募るばかりだった。






「でも・・・幽霊達は私を狙ってたんじゃないの?何で宍戸を」






長太郎はしばらく考え込むと小さく口を開いた。






「まさか・・・」

「あん?」










先輩の側にいる人間を減らすため・・・?」















そのころ忍足チームも宍戸を捜してすべての部屋を回っていた。






「どこ行ったんだよー。宍戸ー!!」

「あー。実はもう手遅れで、幽霊達に」

「おいおいおいおい!!日吉!!!」

「冗談ですよ。」

「でも、冗談抜きで早く見つけないとヤバいCー」






「せやなぁ・・・。やっぱ日吉の言う通りもう手遅れなんちゃうか?
 ホンマにもう、あの幽霊達に・・・」






その言葉を聞くと岳人は忍足をジッと見つめた。
表情はかなり真剣だ。






「どないしたん?岳人」






「お前・・・本当に侑士?」






空間が凍る。
全員の視線が岳人に向けられた。










「何言ってん?当たり前やん!」

「でもなんか!なんか・・・違う気がする」

「なんや疑うんか・・・?俺が幽霊だとでも言うんか?」

「だってよ!なんか変じゃねーか!!宍戸の事、
 ダメかもとか弱音言うなんて侑士らしくねぇじゃんか!!」

「だったら宍戸が無事やって保証あるんか!?」

「ないけど・・・でも!俺がもし同じこと言ったら、絶対怒っただろ!?
 「なに弱音吐いてんねん!!まだわからんやろ!!?」って!!」

「こんな状況やったらそう思うのも無理ないやん!!」



「だ、だけど!!」








「もうやめなよ。」








今度はジローの冷たい声が空間を凍らせた。
岳人を庇うように隣に並ぶと日吉が1歩忍足に近付いた。






「向日さん。今回はあなたの意見に同意しますよ・・・
 あなたは本当に本物の忍足さんなんですか?」

「日吉まで・・・何言い出すん?」

「あなたは確か、俺達にこう言いましたね」





―― 扉が勝手に閉まって・・・宍戸の声も、何も聞こえんようになって・・・





「それが?」

「今、思い出したんですけどね。その時、一緒に部屋にいた鳳が
 宍戸さんのものらしき叫び声を聞いています」

「・・・・・・・・・・。」

「つまり、扉1枚しか距離がない忍足が宍戸の叫び声を聞いていないはずがないって事」

「しかもこのチーム分けをしたのは他でもないあなたでしたね?」

「もしかしてこうなるのも計算済み?お前は・・・本物の忍足じゃない。
 何かを狙って本物の忍足と入れ替わったね?」






ジローが岳人を庇うように、そんな2人を守るように日吉が身構える。
すると忍足はクックックッと肩を小刻みに揺らし笑って。






スッ・・・と、その顔を上げた。















「せいかーい♪」















+ ―――――――――― +

また1人・・・。

手遅れ。

すべてが手遅れ。

もう餌は撒いた。

迷うだけ迷いなさい・・・。





2007.1.14