+ 狂 +















「あかん!どこにもおらんで跡部達!」






ドアを閉めながら忍足は自分の髪を乱暴にかいた。






「まいったなぁ・・・あっちも俺達のこと探し回ってるんやろか?」

「うーん・・・どこかの部屋にいるとき擦れ違っちゃったのかもしれないね」

「なぁ・・・」






足を止める岳人を見て忍足と も進むのをやめた。






「なんや?岳人」

「どうしたの?」

「もしかして跡部達・・・幽霊達に襲われたんじゃねぇの・・・?」






「えっ・・・?」






不意に聞き返すと岳人は必死の形相で叫んだ。






「だっておかしいじゃんか!
 俺達を探してくれてるんだったら声が聞こえてもいいんじゃねぇの!?
 俺達がずっと叫んでるのに返事もないんだぜ!?」

「そ、そう言われれば・・・」

「・・・・・・・・・・。」






いきなり不安が募る。
いつの間にピアノは演奏を終えたのか・・・廊下は張り詰めた空気で静まり返っていた。











「幽霊に襲われたんだ絶対!嫌だ・・・嫌だ逃げようぜ!」

「お、落ち着いてよガックン!!」

「俺達だけでも逃げよう!!」






「待ちぃや!!」






忍足が声を張り上げる。
するとシンッ・・・と冷たい空気が戻ってきた。
視線はずっと岳人に向いたままだ。








「忍足・・・?」

「なんだよ侑士?」

「お前は・・・岳人やない」






岳人は驚いた様子で目を見開いた。






「何・・・言ってんだよ侑士?俺だよ。侑士のパートナーの向日岳人だよ!」



「お前は、俺の知ってる岳人やない・・・
 岳人は、頼りなくて怖がりで、すぐキレる奴やけど・・・
 仲間置いて逃げ出すような腰抜けやない。跡部達が幽霊に襲われとると思ったら尚更や」



「忍足・・・うわっ!?」






無言で の腕をつかむと隠すように背中に回した。






「侑士・・・?」

「近付くんやない・・・」

「俺だよ・・・俺だよ!侑士!!」






涙をためる岳人を見て忍足は一瞬自分の言っていることに躊躇した・・・。






バタバタバタバタッ!!!!!






すると突然後ろから多数の足音が響いてきた。








「侑士ぃ! !!」






その声に3人が振り向く・・・。
すると岳人を先頭にして跡部達がこちらに駆け寄って来るのが見えた。






「ガ、ガックン!!?」






跡部達が到着すると全員目を見開いて「2人の岳人」を交互に見つめた。










一方の岳人は驚いた表情。



もう一方の岳人は・・・笑っていた・・・。










「だ、誰だお前!?」

「あーぁ。バレちったぁ・・・つまんねーの」

「おい!テメェは何者だって聞いてんだよ!!」

「俺?向日岳人だよん♪」

「て・・・めぇ!!」

「あ、跡部!?」






つかみかかりそうな跡部を必死に止めると、それを見ていた岳人の姿をした男は
ニヤニヤと笑みを浮かべた。






「なに笑ってんねん・・・」

「んー?何怖い顔してんだよ。どうしたんだよ?ゆ・う・し♪」

「っ・・・。気安く俺の名前を呼ぶんやない!腹立つわ!!」






おぉ怖っ!っと肩をすくめるとニッコリ笑顔を に向けた。








「なぁ。実はあんたを待ってる奴がいるんだ・・・」

「えっ・・・?」

「また迎えにくるからな。待ってろよ?お姫様」








片目をつむって見せると背を向けて、岳人の姿をした男はゆっくり・・・
静かに暗闇が続く廊下に消えていった・・・。


















「日吉や跡部に続いて今度は向日かよ」

「もう、こうなったら全員が2人ずついると考えた方が自然ですね」

「えぇ!じゃあ俺も2人いるんですか!?」

「俺も2人いるってこと!?マジマジすっげー!!」






騒ぐメンバーを背に、 は男が消えた廊下をじっと見つめていた。
そんな の頭を跡部はバシッと軽く叩いた。






「痛っ!?」

「余計な事考えてんじゃねーよ。バーカ」

「はぁ!?」

「また・・・自分のせいかも。とか自分が原因で迷惑が・・・とか考えてたんだろ?」

「な、んで・・・わかったの?」






目をパチクリと不思議そうにする を見て跡部はクックッと肩を揺らして笑った。








「お前の事だからな」















「侑士。」

「ん?なんや岳人?」

「あのさ。よく・・・本物の俺じゃねぇってわかったな?すっげぇ似てたのに」

「当たり前やん」






忍足はニィッと笑うと岳人の頭をガシガシと乱暴に撫でた。






「何年ダブルス組んでると思ってんねん」






呆然とする岳人を見て忍足は軽く眉をしかめた。






「なんやその顔?まさか俺の事信じられないんか?」

「えっ!?」

「そーかい。そーかい。岳人は俺を疑うんやなー。涙出てきたわぁ」

「そんなことねぇよ!俺だって侑士の偽者くらいすぐにわかるぜ!!」

「岳人ぉ!!」






「・・・多分・・・」

「自信ないんかい?!」






ガクッと膝をつく忍足。
そんな2人を見てまわりは爆笑しながら全員部屋に戻った。





前奏が終わり、独奏に入る準備が進んでいることに誰も気が付かないまま・・・。















+ ―――――――――― +

鏡に映った貴方の姿は。

裏の貴方。

陰の貴方。

隠れた貴方。

見落としがちな・・・醜い貴方。





2006.12.30