+ 告 +
「それは私達の主人(あるじ)様が描かれた絵でございます」
「っ!!?」
後ろから聞こえたのは冷たい男の声・・・
は体が固まる感覚に襲われた。
「いらっしゃいませ・・・
様」
「日吉・・・?」
振り返ればそこには、跡部達と部屋に残っていたはずの日吉が立っていた。
「びっくりしたぁ・・・なんでここに?それに、いらっしゃいませって何のこと・・・」
「あぁ。この男は日吉というんですね?」
違う・・・!?
ドクンッと
の心臓が波打った。
この男は・・・日吉じゃない!!?
「あなた・・・誰?」
「
先輩?さっきから誰と話してるんですか?」
「えっ・・・?」
隣に顔を向けると心配そうな長太郎が目に入った。
は両手で長太郎のジャージをつかんだ。
「長太郎!日吉が変なの!!」
「えっ、日吉?どこに日吉がいるんですか?」
「なっ・・・」
長太郎はきょろきょろと辺りを見渡す。
「な・・・に言ってるの長太郎?いるじゃない、目の前に・・・」
「無駄です」
男がピシャリと言い放った。
「この男には私の姿どころか声も聞こえません」
「
先輩?」
「出直します。またお会いしましょう・・・」
男が足からスーッと消えてゆくとまた静かな部屋に戻った。
その瞬間、
の意識は切れる寸前。
足は力を失いガクンッと膝をついた。
「
先輩っ!!?」
――――― いらっしゃいませ・・・
様。
――――― 姿どころか声も聞こえません。
――――― またお会いしましょう・・・。
なんだったの・・・!!?
その時、
の背後にあった桜の絵が・・・
だんだん赤く染まっていく事に、2人は気が付かなかった。
■
バタバタバタッ・・・バタンッ!!
「跡部さん!!」
「あーん?」
「どうしたー?」
「
先輩が・・・!!」
長太郎の腕の中でグッタリしている
を見て、全員形相を変えて駆け寄った。
「
!?」
「おいっ!なにがあったんだ鳳!?」
「それが・・・俺にもよくわからないんです。
先輩は誰もいないのに「日吉がいる」って言って・・・」
「俺が?」
「日吉はどこにも行ってないよ?だってずっと俺と一緒にいたCー!」
ゆっくりとソファに下ろされた
を見て跡部がしゃがみ込んだ。
「
。何があったんだ言ってみろ」
「跡部・・・この館に誰かいる」
その言葉に岳人は忍足のジャージをギュッと握った。
「誰かって?誰がいるっつーんだよ・・・」
「わからない、でも人間じゃない」
「人間じゃ、ない・・・?」
は震える体を無理やり抑えながら、さっきのことを全て話した。
「日吉の幽霊?」
「勝手に人を殺さないで下さい」
「けど・・・長太郎には見えなかったんだろ?」
「はい・・・まったく」
「それに「いらっしゃいませ」って・・・なんだ?」
「俺ら歓迎されてるんじゃねーの?その幽霊達に」
「や、やめろよ宍戸!!」
「が、岳人!!?後ろや!!!」
「うわぁあー!!!!」
叫んで
に抱き付く岳人を見て忍足と宍戸は声を上げて爆笑した。
「なっ!何もねぇじゃねーか!!騙しやがったな!!」
「騙されるんが悪いー。」
「激ダサだな!!」
ギャーギャーと大騒ぎをする3人を見て跡部は呆れたように溜息をついた。
「ったく・・・緊迫感のかけらもねぇな」
「でも、私はそっちの方がいいな・・・」
振り返った跡部に向かって笑いかけると全員が
に向き直った。
「みんながいれば怖くないもん」
「・・・そーかよ」
「だよな!!」
「やっぱり怖かったんですか?向日さん」
「ガックン怖かったのー?恥ずかCー☆」
「うるせぇよジロー!!!」
は思わず吹き出す・・・いつの間にか体の震えは止まっていた。
「とにかく。なんで
にだけ幽霊が見えるのかは知らねぇが
・・・少人数で動くのは危険だ」
「で。結局全員で調理室に移動かい・・・最初っからこうすれば良かったんや」
「うるせぇ」
を真ん中に挟んで全員で廊下を歩き、調理室のドアを宍戸がゆっくり開けた。
すると別に変わった様子もない、ただ静かな部屋が広がった。
「じゃあ私、何かないか探してみるね」
「俺も手伝う!」
「あ、じゃあ俺もー!!」
「お前らはつまみ食い目的だろ!!」
全員で手分けして食事の用意を始めた。
そんな中、日吉と跡部は調理室全部を調べにかかった。
「チッ。やっぱり窓は開かねぇし割れねぇか・・・」
「別に変わった物もありませんね。イス、テーブル、花瓶に・・・絵画・・・?」
「どうした日吉?」
「見て下さい。この大きな絵・・・」
日吉の言葉に全員がそちらに目を移した。
「うわっ!」
「なんやこれ?」
「真っ赤じゃねーか」
壁に飾られていたのは真っ赤な絵具で彩られた大きな絵画。
長太郎はその絵を見ると目を見開いた。
「
先輩!!この絵!!」
「えっ・・・。なにこれ!!?」
「知ってんのか?」
「はい。さっき俺達で来たとき・・・
でも、その時はこんな絵じゃありませんでした」
「もっと綺麗な・・・桜の絵だった・・・」
「桜・・・?」
「これが・・・?」
ジローがスッと絵画に手を触れると桜の赤が手にベッタリとこびり付いた。
「なんや?乾いてないんか。絵具・・・」
「絵具?違うよ・・・忍足」
ジローは赤がついた自分の手を全員に向けながら鋭い視線を送った。
「これは・・・血だよ」
+ ―――――――――― +
動き出した小さな歯車。
それかカタカタと音を立てながら。
確実に貴方達に迫り来る。
2006.10.14