音も無くコートに落ちたテニスボールは・・・静かに転がり、結果を決めた。
「ゲームセット・・・か」
大石くんが静かに瞳を閉じる。
リョーマ・・・。
Story38. 葛藤
ガタンッゴトンッ・・・!!
「兄貴・・・どうして?」
電車の中で私は背後にいる兄貴に問い掛けた。
リョーマとの試合が終わってから、私達は1度も目を合わせていない。
「どうしてリョーマと試合したの。それに・・・肘」
キッ! と睨み付けると、兄貴は黙って瞳を閉じた。
「今無理して悪化でもしたら・・・!!」
「
ちゃん。少し落ち着いて」
「兄貴!!」
大石くんが私の腕を引いて制止する。
私は構わず兄貴を睨み続けた。
ガチャッ!!
「お帰りなさーい♪国光!
ちゃん!」
「ただいま帰りました」
「・・・ただいま・・・」
兄貴はサッサッと靴を脱ぐと自分の部屋へと消えて行く。
私はその様子を、険しい顔で見つめていた。
それを見たお母さんが、首を傾げる。
「あらら。喧嘩でもしたの?珍しい」
「別に・・・」
「何があったの?
ちゃん」
顔を上げて見ると、お母さんは優しい微笑みを浮かべていた。
ソファーに座ると奥から温かいコーヒーを持ったお母さんがやってきて、私の隣に座った。
「はい。
ちゃん」
「ありがと・・・」
「1年生と真剣試合かぁ。肘はまだ治療中なのに・・・国光ったら」
「私・・・止めたのに。兄貴は私の話なんて全然聞いてくれなかった」
「それは違うわ。
ちゃん」
お母さんは私をそっと引き寄せると、肩に乗った私の頭を優しく優しく撫でてくれた。
「国光はきっと、少しリスクがあっても試合をしなければならない理由があったのよ」
「理由・・・?」
「そういう子よ。国光は・・・それに」
「えっ?」
「試合をすること、
ちゃんに黙ってればよかったのに国光は教えた。
ちゃんに、見届けてほしかったんじゃない?」
私はその時、リョーマと試合をしていた時の兄貴の顔を思い出した。
真剣で、鋭い瞳・・・。
乱れた髪と、纏わり付く汗。
そして、敗者となったリョーマに言った言葉・・・。
――― 越前。お前は青学の柱になれ!
「お母さん・・・」
「大丈夫。あの子は大事な妹に心配をかけるような事はしないわ。信じてあげて?」
私はコーヒーをテーブルの上に置くと直ぐさま立ち上がった。
「ありがとう!お母さん!!」
そして廊下を走り兄貴の部屋の前で止まると、うるさい心臓を落ち着かせるために息を吐いた。
コンコンッ。
乾いた音が2度響く。私は扉に向かって語りかけた。
「兄貴?あの・・・さっきは、ごめん。
兄貴の肘、まだ不安だったから・・・本当はあんな試合やって欲しくなかった」
でも。っと私は俯いていた顔を上げた。
「私はマネージャーだから!選手のこと気にかけるのは当然だから!
また、あんな試合をする時があったら・・・言って?私はちゃんと最後まで見届ける。
もう逃げたり、見ないフリなんてしない・・・から」
私はゆっくり息を吸った。
「全国に・・・連れてってくれるって約束したもんね」
しかし、相変わらず返事が返ってこない扉に、私は若干不安を感じ始めた。
あれ? ねぇ・・・いるよね?中に。
だってこれで 実は部屋に誰もいませんでしたー☆
なんて私、恥ずかし過ぎないか?誰もいない部屋にずっと語りかけてた事になるんだぞ?
私は少し考えると、大きく息を吸い込んだ。
「もし約束破ったら大石君の所にお嫁に行っちゃうからねー!!」
バァンッ!!
「それだけはヤメロ!!」
いるじゃん!!(爆)
あと後で大石君に謝れ!!(お前もな)
兄貴は気まずそうに眉をひそめると、静かに口を開いた。
「
・・・今日は、悪かった」
「えっ?」
「心配、かけたな」
優しく髪を撫でる兄貴に、私は少しだけ笑みを浮かべた。
「バカ兄貴・・・」
「イッヤーンvv 今の
ちゃんの表情 キャワイイー!!
今よ国光!ガバッ といっちゃいなさい! グァバッと!!」
陰で何をやってるんだお母さん。
その片手に持っているビデオカメラは何だ。
「えっ?お母さん・・・?」
「いいわ!いいわ!兄妹の禁断の・・・恋。萌えるわね!!」
漢字が違うよママ!!(ツッコミ所そこじゃないよ娘)
「もぉー。ビデオがいっぱいね!今度整理しなくっちゃ☆
あっ!分からなくならないように名前書いておかなくちゃ!えっと・・・
【国光と
の禁断の愛劇場No.213】 っと☆」
ちょっと待てぇええ!!!
なんか今、めっちゃあったぞぉおお!!!
その後、兄貴と 【国光と
の禁断の愛劇場】 ビデオを大捜索した事は言うまでも無い。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
お母さんの登場・・・久しぶりか?
【国光とヒロインの禁断の愛劇場】ビデオには
幼い頃からの2人の様子が記録されています。
編集でお母さんの解説や翻訳(?)やテロップが
入っていれば尚いい(どんだけ)
2009.5.23