「あー。またけぇ・・・」










俺が小さく毒付くとアイツはクルリと顔だけこちらに向けてきた。











薬・薬・











ダルい。ダルい。この季節は何もかもがダルくなる。
学校に行くのも、授業を受けるのも、誰かに会うのも・・・何もかも。
だから俺は授業をサボって屋上へ続く階段を上がっていく。

あそこはいい。俺が1番好きな場所。
重く冷たい扉を開ければ、青い空が広がり風が体を包み込む。





っと・・・ここまでは良かった。










「あー。またけぇ・・・」










屋上の1番気に入っている人目の少ない隅っこに、アイツは堂々と居座って本を読んでいた。










「あ、ニオ」
「何しちょるん?」
「読書」
「そこは俺の場所じゃきに」
「誰が決めたのよ。そんなこと」
「どきんしゃい」
「イヤだ」










そしてまた本に視線を戻すこの女。
隣のクラスの は最近よくこの屋上に顔を出すようになった。
理由はたぶん俺と同じ・・・。近くにいると似た空気を感じるから。










「どうしても、動く気なか?」
「うん。動く理由もないし」
「なら交換条件。嫌なら屋上から消えてもらうぜよ」
「はっ?なに勝手なこと言って・・・」










隣に寝っ転がると有無言わさずにその伸びきっている足の上に頭を置いた。










「ちょっ!ニオ!?」
「貸しんしゃい。交換条件って言っ・・・」










あまりの心地良さに襲いかかってくる睡魔。
ゆっくり瞼を閉じると速攻闇の中で意識を手放した。















「ニオ・・・って遅いか。もう、落ち着いて読書も出来ないじゃない」










突然、隣のクラスの仁王に膝枕をすることになってしまった私は
熱を帯てくる顔をブンブンと左右に振った。










「人の気も知らないで・・・」










視線を下げるとさっきまで毒付いていたヤツの無防備すぎる寝顔。
それはあまりにも美しく・・・妖艶で・・・。
触れるとサラリとした髪が指の間をすり抜けた。










「綺麗・・・」










思わず・・・溺れてしまいそうだ。





私はその時、本気でそう感じた。




















「屋上へ行けばアイツがいる」日を重ねるごとに2人の間にはそんな常識が出来上がっていた。





そんな日・・・。










「ん?」










屋上へ現れた仁王は首を傾げた。



いない・・・アイツが。読書に没頭しているはずの人物が今日はいない。
とりあえず1時間、授業が終わるまで待ってみたが来る気配は・・・ない。










「・・・・・・・・・・・・・・・。」










別に・・・どうでもいいのだけれど。



立ち上がると階段を降りてアイツのクラスへ向かった。










?あの子、気分悪いからって保健室で寝てるよ」
「あー。そうなん?」










別に・・・関係ないはずなのに。



足は勝手に保健室へ向かっていた。
この時、仁王は気付いていなかった。





すでに自分が・・・抜け出せない所まで溺れていることに。










ガラッ。










妙に白い部屋に薬品の匂い。見渡すと先生は外出中なのかどこにもいなく
カーテンが閉まっているベッドが1つ。
覗いてみると探していた人物が赤い顔をして寝息を立てていた。
近付いてそっと額に触れると、しっとりと汗が自分の手を温めた。





閉じられた瞳・・・薄く開かれた唇・・・熱のせいか赤い頬・・・。
麻薬・・・。そんな言葉がよぎった。

最初は興味で手を出して、気付いた時には中毒症状。
抜け出せない。ヤメラレナイ。魅惑の薬。










「おーい・・・」










どうやら俺が手を出した麻薬は・・・。










「のぅ、起きんしゃい」










かなりタチが悪いらしい・・・。



ソレは、麻薬であり・・・秘薬であり・・・媚薬。
その時やっと、自分がどれだけこの麻薬に溺れているのか気付いた。










「お前さんが悪いんぜよ。そんな無防備じゃから俺は・・・」










我慢がきかない。



指でスッと頬を撫でると「ん・・・」っと漏れてくる熱っぽい声。その瞬間、背中がゾクリとした。
頬に手を添えて吸い寄せられるように唇を重ねると、閉じられていた瞳がうっすらと開いた。










「ニ、オ・・・?」










チリッ・・・!!





思わず目を見開いた。熱い・・・唇が、胸が、顔が、目が・・・。
もっと声が聞きたい・・・。その熱っぽい声で・・・もっと名前を呼べ。



後頭部に手を回して引き寄せると、その細く白い首に噛みついた。










「ニオ・・・!何を!?」










抵抗なんてさせない。手首を掴むとベッドに押し付ける。
少し強く吸えば赤く残る「俺の」痕。










「ニオ!やめっ・・・」



が悪い・・・」
「えっ?」
が・・・」










俺を溺れさせたきに。俺は・・・もう止まれない。















「今度そんな顔してみんしゃい。もっと酷いことになるぜよ」

「なっ!?」










赤かった顔がさらに赤くなったのを見て・・・。
なんだか物凄く満足した気がした。















〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

ピィ―――――・・・・・。

( 恥ずかしさのあまり撃沈中 )



立ち直るまでに時間がかかりそうです。







2008.3.16