軽快なボールを打つ音が響くここは、青学男子テニス部。
今日も大会に向けての練習が行われていた。


そんな中テニスコートのフェンス付近で立っていた部長である手塚が、
さっきからチラチラと余所見をしていることに副部長の大石が気付いた。





「どうかしたのか手塚?さっきから落ち着きがないみたいだけど・・・」
「いや、そろそろだろうと思って・・・」
「えっ?何がそろそろなんだ・・・?」


大石が聞き返すと隣にいた乾がパタンッとノートを閉じて眼鏡を押し上げた。







「手塚、来たようだぞ」


不意に大石は乾に腕を引かれて手塚から距離をとらされた。











「手塚ーっ!!」





バシッ!!




顔目掛けて飛んできたテニスボールを手塚は難なくラケットの面で受け止めた。
あまりにも急な出来事に他の部員達も呆気にとられている。







「手荒が過ぎるぞ・・・
「だって叫んで呼ぶより早いじゃない。手塚ならサーブしても問題ないと思ったし・・・」






現れたのはラケットを持った髪の長い女子生徒だった。
大石はその女子生徒を見ると納得したように頷く。






「不二先輩・・・あの人誰っスか?」
「彼女は女子テニス部の部長で、行事会の委員長でもある さん」


「フシュー・・・あの手塚部長を呼び捨てに・・・」
「うん。まぁあの2人はいつもあんな感じだからね」








「見にきたよ。手塚ご自慢の1年ルーキー」
「・・・越前のことか」
「そう」




はテニスコートを見渡すと、お目当ての白いぼうしをかぶった少年を見つけた。





「んにゃ?おチビおチビ!! ちゃんがこっち来るよ!!」
「・・・知らないっス。菊丸先輩に用事じゃないっスか?」
「そうかにゃ?オーイ! ちゃーんw」




「菊ちゃんに用はない」




「(ガーンッ!!)」







喜んで飛び付こうとした菊丸はその場で撃沈。
大石が慌てて慰めに入る。






「フーン・・・」
「なんスか?」
「聞いた通りの子ね」



越前からヒョイっとぼうしを奪うと、二ッと悪戯な笑みを浮かべた。








「ねぇ。女子テニス部にこない?」


「「「「はぁ!!?」」」」


「手塚はいいわねー。部員に恵まれてて・・・」
「女子の方はどうなんだ?」
「もう最っ悪!!どいつもこいつも男子テニス部狙いで入ってくる奴等ばっかだし
 練習なんか休みがち。今までで1番の最弱チームね」




そこまで言うか?部員全員のツッコミが重なった瞬間だった。




「この子なら女装させてもバレなさそうだし・・・少し貸してくれない?」
「それは真面目に言っているのか?」
「大真面目よ」
「嫌っスよ」




越前と が睨み合う中、乾がノートを開いて2人の間に入った。





「まぁ・・・団体が最弱だとしても の実力なら個人で全国まで行けるんじゃないか?」
「えぇ!? 先輩ってそんなにテニス強いんスか!!?」
「クスッ・・・強いよ。僕は彼女の試合を見ただけだけどね。手塚と並ぶほどだよ」
「手塚部長と・・・!?」




「へぇ・・・あんたテニス強いんだ?」
「ん?どうかなー。それは君次第だね越前リョーマくん。
 君が私より弱ければ・・・私は君の中で強い存在になる」
「じゃあ、強いか弱いか・・・試合しようよ」
「いいよ。ただしシングルスで・・・私はシングルス専門なの。ダブルスは受け付けない」



そう言って は持っていたぼうしを越前の頭に返した。




「それから・・・私と試合がしたければ、私が試合してもいいと思うくらい強くなってからね・・・」
「・・・俺は勝つよ」
「どうかな?私から見ればまだまだ・・・私の方が強いよ?」



はそう言って不敵な笑みを越前に向けた。
その笑みは、その場にいた部員全員を魅了するには充分すぎるほどだった。






「はいはいはい!! 先輩!俺とも試合してください!!」



越前を押し退けて桃城が手を上げて叫んだ。



「ちょっ!桃先輩!!」
「君のことも聞いてるよ。2年の桃城武くん」
「はいっ!」


「でっ、その隣にいるバンダナくんが海堂薫くん」
「・・・フシュー」




「はぁ・・・本当に男子テニス部ってキャラ濃い連中ばっかり集まってるのね」




が大石にほほ笑みかけると、大石は頭をかきながら苦笑した。




「じゃ、今日はこの辺で戻るわ。練習の邪魔して悪かったね」
「構わないから、いつでも遊びにきてよ」
「ありがとうタカさん。じゃあね」




テニスコートを出て行く の後ろを手塚がついていく。
残されたレギュラー達はそれぞれが密かに、 と試合をするという目標を立てた。











「・・・面白そうな子ね。越前リョーマくん」
「・・・そうか」
「話で聞いたときよりずっと興味が出てきたわ。あと2年生の桃城くんや海堂くんにも」
「・・・
「なに?やきもちかな?手塚くん?」





ニヤッと、手塚にだけ向ける挑発的な笑顔に手塚は思わず言葉を失った。





「大丈夫。私が1番興味を持っているのはあなただから・・・」
「っ!! !!!」
「じゃあ私も部活あるから!!またねー」





手を振って歩いていく の後ろ姿を見て、手塚は鼓動が激しくなるのを必死に堪えるのだった。













2006.4.8