どんなに心が冷たい人間でも・・・


握った手が冷たい人間でも・・・


流す涙はみんな同じ。


温かい・・・。










Act.23     × ニンギョウ ×










「ねぇ。何でこんなことするの?」










冷たい・・・コンクリート造りの部屋で私は目の前にいる背中に向かって問い掛けた。










「ん?だって面白そうだったんだもん。お前を捕まえれば、あいつらは絶対に俺を探すでしょ?」










振り向いた幼さの残る顔はチラッと白い歯を見せて笑った。





あれから、見るからに隠し通路としか言えない廊下を進み、たどり着いた一室に私は閉じ込められた。

閉じ込められた・・・と言っても、部屋はたくさんのロウソクの火で
案外明るいし少年は私を縛ったりせず自由にさせた。

拉致しておいていまいち考えが読めない・・・。










「もっと遊びてぇの!本物の悪魔を見たのも
 初めてだったし、他にも仲間がいるんでしょ?ワックワクすんじゃん!!」










クルッと向き直ると、少年はニッコリ笑いながら私を指差した。










「それに、呪われた女っていうのも何だかミステリアスじゃん?」
「呪われた女?誰が?」
「はっ?誰ってお前だよ」










私?驚いていると、少年は私の顔を覗き込みまじまじと見つめ始めた。










「な、なに」
「いんや?ずいぶん絡まった呪いだなぁー。と思って」
「えっ・・・」

「あー。そっかそっか。簡単に解かれないようにするための工夫かな?
 だとしたらスゲェ念の入れようだね」










そして再び背を向けると少年はキョロキョロと辺りを見渡した。










「まだかなー。悪魔」










チャンスだ。

私はそっとポケットに手を入れた。
拓がもしもの時にと私に渡してくれたスタンガン・・・。
使いたくはなかったけど・・・今なら。










そして手に触れた冷たい感触を確かめて、それを取り出した瞬間・・・ は目を見開いた。










「スタンガンが・・・!!」











真っ黒に焼け焦げていて、とてもじゃないが使い物にならなくなっていた。

一体いつの間に・・・!?










「あ。それねー。さっきからお前がチラチラ意識してたから焼いちゃった」










顔だけこちらに向けると、チロッと舌を出して不気味な笑みを浮かべた。










「ごめーんね?」





ゾクッ・・・!!










これで・・・私はあと拓の助けを待つ事しか出来なくなったわけだ。




















バァンッ!!





「えっ!?なに今の音!!?」

「どこかの扉が開いた・・・」
「えっ?」
「隠し通路が開かれた。悪魔がこっちに・・・後もう1人いる」










少年は目を閉じると独り言のように呟き始める。
まるで、人間の動きや心理を読んでいるように・・・。










「ねぇ、あなたの・・・その力。それは魔力なの?」
「ん?これ?」










そう言うと少年は ボッ! と自分の手を燃やして見せた。
その光景にまたビクッと体を震わせる。










「ううん。俺は悪魔じゃないし魔力もない。ただのニンギョウさんだよ」
「なら・・・」










何で?っと聞こうとした瞬間、言葉を飲み込んだ。



少年から・・・表情全てが消えたから。










「これはね。改造なの」
「かい・・・ぞう?」

「俺が死んで、ニンギョウにされるまでの過程である改造が行われたの。
 体が自由に発火出来るようになる・・・改造」










淡々と・・・簡単に・・・決められた台詞をただ読むように・・・。










「人間の動きを感じる事が出来るのは・・・俺に体温がないぶん、空気を伝わる温度の変化を感じやすいから」










微動だにせず・・・口だけを必要最低限に動かす・・・これではまるで。










「人間の動きを感知・理解し、覚えた戦闘テクニックで敵を討つ。
 全部ぜーんぶ。頭の中に打ち込まれたプログラムの通りに、俺達は戦う」










まるで・・・。










「これが、ニンギョウだよ」










ニンギョウ・・・。










「あなた・・・」





バァアン!!











鼓膜に響く大きな音に体を跳ねさせて驚いた。
振り向くとそこには、待ち望んでいたはずの人の姿が目に飛び込んできた。










「拓・・・零時さん!!」

!無事みたいやな!」











しかし私の中には、ある不安があった。





そして、拓に睨み付けられる少年の顔を見た瞬間・・・その理由を理解した。















× ―――――――――― ×

えっと・・・「ニンギョウ」が一体、どういった

存在なのか、お分かりいただけるでしょうか?

一応、俺の中で簡単にまとめると

「生きてはいないが、人間と同じ感情、心理はあるロボットに近しい存在」

って感じです。しかし、皆様が別の何かに感じるのであれば、そちらの

印象を優先していただいて構いません。







2009.10.8