私が最後に見たのは、悪魔から「人間」の表情になった・・・拓だった。










Act.22     × 隠し通路 ×










『なんやて!? がニンギョウにさらわれた!!?』

「うるっせ・・・」

『ちょっとどういうことよ拓!! ちゃんは守るって言ったのあんたでしょ!!』

『まぁまぁ2人とも。落ち着いて下さい』










イヤホンを通して耳に届く怒声、罵声に拓はキーンと頭痛を感じた。










「まぁ、大丈夫だろ。恐らくあのニンギョウは を殺しも傷付けもしない」

『何の根拠があってそんなこと言ってるのよ!
  ちゃんのトランシーバーの電波もキャッチ出来ない状態なのよ!?』

「あいつの居場所なら確認できる。発信機を持たせておいた」
『えっ?』
「とりあえず・・・零時。お前今3階にいるって言ったよな?」
『あ?あぁ・・・おるで』
「今からそっち行く。麗と聖はそのまま調査を続けてくれ」
『了解しました』
『ちょっと聖!!私は嫌よ! ちゃんを助けに・・・』

『麗。やめなさい』










音声だけの会話なので麗の表情は読めないが、どうやら聖の一喝が堪えたようだ。
何も反論せず黙ってしまった。










「頼む・・・麗。あいつは大丈夫だ。俺が絶対に助ける」

『・・・わかったわよ』










そして1度通信を切ると、拓は見つけた階段を数段飛ばしで駆け上がっていった。















3階もまた、かなり広く・・・拓は思わず呆気に取られた。
天井には数え切れないほどのシャンデリアがキラキラ光りを放っていて
その1つ1つが微妙に大きさやデザインが違う。

その中で、一際大きく豪華なシャンデリアの下に零時はいた。










「拓!こっちや!」










手を振っている緊張感の無さに、拓は思わず肩を落とした。










「何や知らんけど、ここにはニンギョウいてへんねん。ただし・・・仕掛けだらけやったけどな」










ニヒッ。と悪戯に笑う零時。周りを見渡すと確かに・・・
零時が破壊したのであろう罠や仕掛けの残骸の山が放置されていた。










「で?面白いものって何だよ」
「これや。見てみぃ」










零時はカウンターの上に座りながら壁を指差す。










「見た目は普通の壁掛け時計だな」
「せやけど・・・違和感、あるやろ」
「あぁ」










拓は顎に手を添えながら思考した。
短針も長針も綺麗に重なり合って6時30分を差している。










「んー?」
「気付いたみたいやな!」










そう。この時計の違和感。長針が30分を差していながら短針と重なっている点だ。
長針が30分を差している場合、短針は僅かにズレるはずなのだ。










「って、ことは?」
「これは時間を差しとる時計とちゃうっちゅーことやね」










恐らく何か、鍵かパスワードがあるはずだが・・・
それが分からない今は下手に触ることが出来ない。










ザザッ・・・ザッ・・・。










『雪凪くん?雪凪くん今どちらにいますか?』
「聖か。今は3階で零時と一緒だ。何かあったか?」
『えぇ。少し・・・まずい事になりました』










拓と零時はお互いに顔を見合わせると首を傾げた。










『拓!零時!今、私達は情報部に来てるんだけど・・・荒らされてるわ』
『この部屋にいるニンギョウは、すでに全滅させられていました』
「どういうことだ!?」
『私達の他に・・・しかも私達より前にここで暴れた奴がいるのね。しかもやり手よ』

『ほとんど破壊されていてデータは生きていないでしょうね。
 しかし、1台のパソコンだけ無事でした。ロックは・・・すでに解除されてますね』










拓はハッ!と顔を上げるとカウンターを飛び越えて、壁掛け時計に手を伸ばした。










「拓?なにするん?」
「もしかしたら・・・」










壁掛け時計のガラスを開けると、長針と短針が指し示す6の部分を親指で押し込んでみた。










ガコッ・・・!!





「あ?」










軽い音と共に突然外れた時計。すると時計で隠れていた壁から、手の平サイズの窪みが顔を出した。










「あー。なるほどな」
「何なん?何か見つけたんか」
「つまり、これが俺の探してた・・・」










ガコォオン・・・!!





「隠し通路ってわけだ」










窪みに手を差し込み、手前に思いっきり引くと壁は扉型に動き出し、もう1つの通路が飛び出した。










「はぁああ!?なんっやこれぇー!!」

はこの中にいる。そして・・・ニンギョウを全滅させたアイツも」















× ―――――――――― ×

今更、気付いたんですけど。

どうやら俺は「カラクリ」や「隠し通路」が好きなようです。

うん。いつまでも子供心を忘れちゃいけませんね。







2009.6.21