歯車が狂いだす音は確かに聞こえていた。
だけど・・・私はそれでいいと、動き出した未来を待っていたんだ。
Act.19 × mission・2 ×
ガコンッ!!
「おっ。開いた」
「いや、開いたって言うより・・・壊した」
ひしゃげてしまったドアノブを見つめながら私は小さく息を吐いた。
拓が開けた扉は宝石店『アリス』の隣にある洋服店の裏口。私は拓の意図が分からず首を傾げた。
「アリスに行くんじゃないの?」
「直接行ったってセキュリティが反応して面倒なだけだろ?まずはセキュリティを止める」
素早く中に潜り込む拓を、私は必死に追いかけた。
「セキュリティを止めるって・・・じゃあ尚更なんでこの店に」
「もちろんアリスにも、それらの機能は付いてるだろうが・・・。だいたいフェイクだ」
「フェイク?」
「あぁ。簡単に言えば『アリス』を守ってるセキュリティと『鍵』を守ってるセキュリティは別ってことだ」
拓は頑丈そうな扉の前で座り込むと、先の曲がった針金のような物を取り出し鍵穴に突っ込んだ。
(おぉ。ピッキング・・・)
「だからまずは目立つことを極力避けるために『アリス』のセキュリティをぶっ壊す」
ガチャン!!
鍵が開いたことを音で確認すると、拓はゆっくりとその扉を開いた。
ギィイイー・・・。
「あったり♪」
「う、わぁ・・・」
そこには、いくつもの監視カメラからの映像が映しだされるモニターに・・・
コンピュータの類が所狭しと並び・・・訳の分からないボタンやレバーが鈍く光っていた。
「何ここ・・・」
「見てわかんだろ。『アリス』のセキュリティシステムの中心部ってやつだ」
拓はそれだけ言うと1番コンピュータが多く集まっている机の前に座った。
「アリスの!?だってここ隣のお店じゃ・・・」
「あぁ、だから怪しまれない。関係ないように思わせておいて・・・全ての情報はここで処理するってわけだ」
カタカタカタッ・・・。
軽快にキーボードを叩き始める拓は、ただただアルファベットが並ぶディスプレイを見つめていた。
・・・・・あれっ?
1番私の近くにあったモニターには『アリス』の内部が映し出されていたのだが・・・
どこかの廊下らしい映像を見つめていると、スッと何かが横切ったように見えた。
気のせい・・・だろうか?
「よしっ」
ピィー。という音と共に部屋中にあったコンピュータやモニターの画面がすべて真っ暗になった。
「うわっ!何したの!?」
「何って?ただ機能をストップさせただけだ。これで動きやすさは全然違うからな」
ニィッ。と悪戯っぽく笑うと、拓はまた小型マイクを口に寄せた。
「こっちは切った。いいぞ零時」
『任せときぃ!!』
「麗、聖・・・最上階の奥の部屋が1番守りが固かった。行ってくれ」
『分かったわ』
『了解です』
そして私達2人は店から出ると、今度こそアリスの前で立ち止まった。
アリスはまるで高級ホテルを抜き出したような雰囲気であり、暗闇の中でもそれは輝いて見えた。
「零時が今必要な情報を見つけてる頃だ。俺達は零時と合流する」
「わかった」
裏に回り鍵が空いている扉(たぶん零時さんの仕業)
から足を1歩踏み出すと私の体はゾワッ!!と震え立った。
「やっ・・・」
なに?この感覚・・・。
寒いわけじゃない。
怖いとはまた違う・・・。
「入って来るな」と誰かに押し返されるようなこの威圧感。
「
。どうした?」
拓は何も感じてない?だとしたら「殺気」とはまた違うんだ。
私は無理やりに笑顔を作って「なんでもないよ」と言った。
しばらく歩いていると、ショーケースに入った装飾品が並ぶ広いフロアに出た。
「拓。なんか変じゃない?」
「何が?」
「こんな高級ブランドの宝石店だったら警備員とかいてもいいのに・・・。
なんかアッサリ入れちゃったっていうか」
「警備員ならいるさ」
「えっ?」
「そこらの「人間」とは・・・段違いにイカレたのがな」
ダンッ!ダダダンッ!!
拓が言った矢先、天井から何かが降ってきて私達を囲むように落ちた。
私が状況を把握できない中、拓だけはニヤァと笑みを浮かべていた。
「出てきやがったな。『セキュリティ』どもがよ!!」
私達を囲むように降ってきた物は人だった。
スーツを着こなして髪型にも乱れがない・・・冷たくて、人形のように表情がない・・・ヒト。
× ―――――――――― ×
いや。俺のイメージで『組織の防犯』って
妙に暗い部屋にバァー!!ってパソコンが並んでて。
んで。意味不明なアルファベットを並べると
データが消えたり、機能が停止したりと・・・。
偏見でスミマセン。
2009.4.26