「私をスカウトした・・・理由?」

「そう。知りたいでしょ?」





深い漆黒色の瞳に、私は捕われて逃げられなかった・・・。










Act.17     × 記憶 ×










「君には力があるんだ」










社長は私の背後にまわると耳元で囁いた。










「魔の時計を動かす力が・・・」

「ど、どういう意味ですか?」










怖くて振り向くことができなかった。



だけど知りたかった・・・。
私が会社に呼ばれた理由・・・私と鍵の関係性を。










「君は忘れているだけだ。だから・・・思い出させてあげるよ










社長は私の持っていた時計を取り上げると、片手でそっと私に目隠しをした。
視界が真っ暗になる。










「10年前の君に起きたことを・・・」










ザァアァァ・・・!!










正面からの強い風。

足が地面から離れる感覚。

気持ち悪い浮遊感。















ー?行くわよー!」

「待ってぇー!!」













――― ハッ!!













目を開けた途端、喉の奥で息が詰まった。



あれは・・・お父さんと、お母さん?
10年前に交通事故で他界したお父さんとお母さんが小さな女の子の手を引いて家から出てきた。










「お母さん!今日のご飯は何?」










手を引かれている無邪気な女の子は10年前の・・・私?










「何にしよっかぁ。 は今日何が食べたい?」

「カレー!!」

「えー?カレーは昨日も食べたばかりだろ?」

「お父さんはカレー嫌だってぇ」










幸せな家族。特別なんて何もない。

ただの・・・幸せな家族。





家族全員が車に乗ったところで、視界が暗くなりグルッと場面が替わった。
今度は車の中?もう何が起こっているのかまったく分からない。

落ち着いて状況を把握すると・・・どうやら運転席と助手席にお父さんとお母さんが座り
自分は後部座席に座っているようだ。

幼い私は窓の外の動いていく景色を見てはしゃいでいる。
まるで夢の中だ。誰も私の存在に気付かない。

そうだ・・・夢以外の何でもない。





しかし の心臓は夢の中だというのにだんだんに激しさが増していった。










ドクンッ・・・ドクンッ・・・。





なに・・・?何か、すごく・・・嫌な予感がする。













「ん?何だあのトラック?フラフラしてるぞ」













ドクッ・・・!!










の背中は一気に凍り付き、心臓は爆発するのかと思うくらいに激しく、額からは汗が噴き出した。





そうだ・・・!この光景は・・・!!思い出した!!













『お父さん!ダメ!止まってぇ!!』








「あら本当ね、飲酒運転だったりして。気をつけてね?」

「あぁ。おいっ・・・?なんだ・・・。突っ込んでくるぞあのトラック!!?








『お母さん!お父さん!!』








「なんで!?待って、止まってぇ!!」

「うわぁあぁぁぁ!!!」











キィキィイィィィー!!!











『お父さ・・・!!イヤァアァァァ!!!
















――― バンッ!!
















!!?」










目を開けた瞬間・・・何が起こったのか全く理解できなかった。
思考が追い付いてこない・・・。

ただ・・・床の上に膝をついて涙を流しながら身体はガタガタと震えていた。










「なっ・・・!何をしたんだ!!話だけだと言ったろ!!!」

「そんな怖い顔しないでよ雪凪。ちょっと思い出させてあげただけなんだよ?」



「おいっ・・・










力無く振り返ると拓の顔が目の前にあって少し安心した。










「おいっ?」

「大丈夫・・・。大丈夫だよ・・・ごめん」





「・・・社長」

「なに?」

「話は・・・済んだんですよね」

「うん。2人とも下がっていいよ」










拓は私に肩をかすと社長室を出て、そのまま私の部屋の扉を開けた。
泣きじゃくる私をベッドに座らせるとポンッと頭の上に手を置いた。










「今、麗の奴を呼んでくるから。待ってろ」

「待っ・・・!!」










部屋を出ていこうと背を向けた拓のシャツを必死に掴んだ。










「言わないで・・・誰にも言わないで。大丈夫だから」










拓はシャツを握り締める私を見て、溜め息をついた。










「手・・・震えてんじゃんかよ」

「あっ・・・」

「何が大丈夫。だよ」










震えが止まらない手や身体を私は無理矢理にでも押さえ込むように丸くなった。










「言え。社長に何を見せられた」

「何でもない・・・何も見てない。何も・・・何も知らない!!

「だったら!!」










振り返った拓は私の顎に指を添えて上を向かせた。














「だったら何でお前は泣いてんだ・・・」













止まる事なく溢れ続ける涙は頬を伝って拓の指までも濡らした。










「泣かれるのには慣れてねぇんだ・・・」










拓がそっと手を離した。










「えっ・・・?」

「泣くなよ・・・。どうしたらいいか分からねぇ」










初めて見た拓の困ったような顔に、私は思わず笑みを浮かべた。










「ここにいて・・・拓。落ち着いたら、話すから」










その言葉に拓は、私の隣にストンッと腰を下ろした。










「・・・笑うなよ」

「だって・・・」










拓のあの必死な顔を見た瞬間、すごく嬉しかったから。










「ありがとう。拓」

「・・・礼を言われるのにも慣れてねぇ」










クスクス笑いながら拓と他愛もない話をしていると、いつの間にか身体の震えは止まり。





私は、ある決心をした・・・。















× ―――――――――― ×

蘇るヒロインの記憶。

記憶を呼び出すことも社長の力によるものです。


怖いです!!(だからお前が書いたんだって)







2009.1.30