絶望を知っている天使と、幸せを想い願う悪魔・・・。


全ては時が進むままに・・・。










Act.15     × もう1人の(悪魔) ×










【拓side】










を抱き抱えていて両手が使えない。
少し迷ったあげく扉を足で乱暴に蹴り開けると腕の中で苦しそうに唸る をベッドへ寝かせた。










「あーぁ・・・」










分かってた。分かってたさ。
こいつの目の前で人殺しをすることがどういうことかなんて。



だから・・・そうしたんだ。










「なんでかねぇ・・・」










分かっていて尚やった事だ。
なのになぜ。



こんなにも・・・苦しいのか。










ベッドの上に腰をおろして の髪に手を伸ばす。
サラサラと指の間を滑る感触に少し感動した。



よく見るとこいつって・・・。








白い肌。

黒い髪。

少し捻れば折れてしまいそうな細い手首。

スラッと伸びた足。










「って、変態か俺は」










知らぬ間に に見とれていた自分に気付き頭をガシガシッと乱暴にひっかいて立ち上がった。










「戻るか・・・」










ベッドにも寝かせたし・・・こんなとこ誰かに見られたら後々面倒だ。
眠っている に向かって「じゃあな・・・」と呟くと背を向けて歩き出した。















――― クンッ。



「っと・・・?」










シャツが何かに引っ掛かり体が後ろに戻る。
振り返ると が寝惚けていながらもガッチリとシャツを握っていた。










・・・?」
「・・・・・・・・・・・・・・・。」
「おいっ。 ・・・」
「んっ・・・」










呼び掛けると は薄くその瞳を開いた。
少しウルんだその視線。










「拓・・・?」










口からかすかに漏れる声に思わず心臓が反応した。





いやいや。待て待て。

今のは無しだ。










「気分は・・・どうだ?」
「あっ、うん。平気・・・」










はゆっくり体を起こすとベッドに座るような体勢で俺と向き合った。










「拓・・・」
「ん?」










少し不安そうに は言った。










「拓は・・・なぜ悪魔になったの?」










その言葉は・・・俺の肩や背中を重くして。

その言葉は・・・俺の呼吸を一瞬止めた。





なぜ悪魔に・・・か。

そんなこと・・・。










「さぁな。覚えてねぇよ・・・気付いたらそう呼ばれてたからな」










そんなこと・・・俺が知りてぇよ。










「気付いたら?」
「物心ついたガキのころから・・・ずっと」










嘘じゃない。







俺が「雪凪拓」と呼ばれるようになったあの日にはもう・・・俺は悪魔だった。

指をさされながら悪魔悪魔と言われ続け・・・今はもう、悪魔そのものだ・・・。










「違う・・・」










がまるで自分に言い聞かせるように首を振った。










「違うよ」
「あ?」

「拓は・・・思い出せないんじゃない。思い出したくないんだよ」










は、俺の両肩辺りのシャツをギュッと力の限り握り締めた。










「なにを・・・」










言 っ て ん だ よ コ イ ツ ・ ・ ・ ?










「思い出したくない過去が拓にそんな顔させるんじゃないの?
 何か辛くて苦しいことから逃げるために記憶から消しちゃったんじゃないの!?」










その時、ズキッと痛む脳髄。

まるで俺がその言葉を聞くことを拒むかのように。

なぜか の言葉を聞かせないように・・・痛む。





ズキッズキッズキッ。










「な、なんで・・・なんでお前にそんなこと言われなくちゃいけねぇんだよ!!?」










突き返すように。跳ね飛ばすように。

俺は に怒鳴りつけた。

自分でも驚いているのに・・・ はキュッと唇を噛んで絞りだすように言った。










「似てるの!」
「はっ?」

「似てるの・・・。一緒なの。私と」










俺と・・・ が?




















物心ついた子供のころから1人だった俺。

物心ついた頃に事故で両親を亡くした

幼いころから会社の中でポツンッと生きてきた俺。

幼いころから血の繋がっていない他人の中にポツンッと存在した





似てる?





その の孤独な瞳も・・・

感情を丸呑みにしている唇も・・・

氷に包まれて見えない心も・・・

すべてが、俺と一致する・・・?




















「バカ言ってんじゃねぇよ。離せ」










俺の声は非情に冷たかったことだろう・・・。
力ずくでその細い腕を振り払うと即座に背を向けて歩き出した。





なぜだか、このまま といることが怖くなった。

の目が・・・一瞬だけ俺の全てを見透かそうとする目だったような気がしたから。










「待っ・・・。拓!」










後ろから の呼び止める声が聞こえる。
構わず出ていこうとした時、シャツがグッと引っ張られ同時にガタンッ!!と鈍い音が響いた。










・・・!?」










見ると は俺のシャツをつかんだまま派手に倒れ込んでいた。










「いったぁ!!」

「何やってんだよ!?立てねぇくせに無茶すんなって!!」










慌ててその華奢な体を支えると怪我がないかを確認した。
倒れ方は派手だったが、どうやら怪我はないようで安心した。










「拓は、違うよ?」

「えっ?」










よく聞き取れなかった。
マヌケな声で聞き返すと はキッ!とあの目を真っ直ぐ俺に向けた。















「悪魔じゃないよ。拓は」





ズキンッ・・・!!










脳髄が響いた。










「いきなり、何言ってんだよ。呪いは使える・・・
 
羽も黒いし、人間も消せる・・・これが悪魔じゃなくて何なんだよ」

「表があれば裏がある・・・」

「はっ?」

「周りが何と言おうと、私はそうは思わない。見えたの」










は真っ直ぐ・・・逃げずに真っ直ぐと・・・俺の目を見つめた。





まるで自分の中身を覗かれているような・・・

まるで自分の裏側を見られているような・・・恐怖










「拓は悪魔なんかじゃない。だって・・・」










の瞳が、そっと細められる。

優しさからか・・・それとも悲しさからか・・・。










「拓は・・・こんなに、温かい」










その瞳の意味が何かなんて分からない。
でも・・・ただ、俺は・・・。





フワッ。と、目の前にいる柔らかい存在を優しく包む。
しっかりと抱き寄せ、顔を見られないように の肩の上に顔をおいた。










「た、く・・・?」

「悪ぃ・・・。もうちょっと、このまま」















初めてだった。

俺にそんな言葉をくれた奴。

そんな瞳で見てくれた奴は・・・。





白くて、細くて、弱いこの存在は・・・冷めきった俺の体には温かすぎて。

思わず、このまま消えちまうんじゃねぇかと本気で思った。















「怖くないよ・・・」










静かに呟かれた言葉。
それが俺に向けての言葉なのか、自分自身に向けての言葉なのかは分からない。



どちらにせよ、俺の存在は許されないモノ。

こいつとは・・・違うイキモノ。










そっと首に手をそえてツーッと指を滑らせれば はクテンッと身体中の力を抜いて意識を手放した。















――― 拓は悪魔なんかじゃない。










「・・・言ってろよ・・・」















いつか時は来る。

必ず終わりの時というものはやってくる。

その時・・・。

壊れているのは俺か・・・

それとも、こいつか・・・。















× ―――――――――― ×

前作の拓視点でした。

うーん。今後のストーリーで少しずつ

色々繋がっていければいいな。っと思います。

み、皆さんも繋がっていけるように・・・

あの・・・願っていてください!!(ちょっ!?)







2008.10.11