こんな話がある。

少しずつ少しずつ・・・気付かないくらいに少しずつ環境を変えていけば

いつの間にかそれが当たり前になってしまって・・・

以前とはまったく違う環境でも普通に生き続けてしまう・・・。










Act.12     × スイッチ ×










この会社に来て数日が経った。
「あの日」以来、拓の私に対する態度が変わった。

避けられてるのかな・・・。
話しかけても短く返事をして、逃げるように私の前から消えていく。










「どうしたの ちゃん。顔が暗いよ?」










振り返ると麗さんが笑いながら私の頬をプニッと突いた。










「麗さん」
「何かあったの?」
「えっと・・・。えへへ」

「聞いてあげるよ」










ニッコリと優しい笑顔を向けてくれる麗さん。
不思議とこの人には隠し事ができない。

そんな力が元々あるんだろうなぁ・・・。

そう気付くのに時間はかからなかった。










「拓のこと?」
「麗さん・・・。もしかして人の心とか読めるんですか?」
「まさかまさか。勘よ」
「私、真剣ですよ?」
「真剣にナイナイ」










手を引かれて連れられたのは聖さんのお店。またまた模様替えされていた。

真っ白で上品そうなテーブルの上にはキャンドルが。
どこから持ってきて、どうやって取りつけたのか分からないシャンデリアがキラキラと光を落としていて・・・。

ポカーンとその内装に驚いている私の目の前で麗さんが「どうしたの?」っと手をヒラヒラさせた。










「いらっしゃい。 さん」










カウンターに座るとスーツに似た制服を着こなした聖さんが、麗さんと同じ笑顔を浮かべた。










「いいところへ来ましたね。苺のシフォンケーキなどいかがですか?自信作です」
「じゃあ、それ2つ!」










麗さんが嬉しそうに注文すると聖さんは奥の扉へ消えていった。










「さて・・・っと」










麗さんは体をこちらに向けると優しい瞳に私を映した。










「拓と・・・何があったの?」









































「ハッ・・・ハッ・・・」










真っ暗な部屋に響きわたる荒い息遣い。
拓は壁に寄りかかるように座りながら額に汗を浮かべていた。










「クソッ・・・」










コンコンッ。





部屋の扉をノックする音。
その後すぐに扉は開き、眩しい光が部屋の中に差し込んだ。
あまりの眩しさに思わず目を閉じたが、すぐにその扉は閉じられ暗闇が戻った。










「また具合悪ぅなったんか?拓」










何も見えない世界から響く声。
その声の主はそっと拓の頬に触れた。










「水飲むか?楽になるんやろ」
「触るな・・・」
「めっさ冷たなっとるやん!今日の分の薬は・・・」

「触るなっつってんだよ!!」





パァンッ!!










頬に触れていた手を払い除けると「ハァー」という溜め息が聞こえてきた。










「何でそんなに機嫌悪いん。何かあったん?」
「うるせぇ・・・」
「しゃーないなぁ。とりあえずホレッ!薬や」










再び頬に手が添えられ、唇に固形物が触れた。
拓はそれを静かに口の中に入れるとコクンッと飲み込んだ。










「ちゃんと時間通りに飲まないからやで」
「うるせぇよ・・・」
「そんなんで体がもつわけないやん。どうせ飯も食ってへんのやろ?」










頬に添えられていた手が体を伝って腕まで行き着くと、声の主はグイッと腕を引きながら立ち上がった。










「ほな神姫兄ぃのとこ行こか。食べへんと体が参ってまうで」
「別にいらな・・・」

「あかん!」










さらに強く腕を引かれると拓は渋々立ち上がり、部屋を出た。










「眩し・・・」










目を細めながら苦しそうに言うと、やっと顔を見ることが出来た声の主・・・
零時はわざとらしい溜め息をついて見せた。










「あんな真っ暗な部屋にいるんが悪いー」










店に到着すると零時がカウンター席に座る2人分の後ろ姿を見て叫んだ。










「おー! に神姫姉ぇー!!2人も来とったんか」
「あっ、拓!体調はもういいの?」










麗さんの言葉に拓は「あぁ・・・」と短く返事をして私を見た。










「た、拓もご飯?」
「そうだけど」
「あっ、そっか・・・」










怒っているのか・・・声のトーンが低い。
カウンター席だったので隣に拓が座ってきた時は一瞬ドキッとした。










「おや?拓さんに零時さん。こんにちは」
「神姫兄ぃ!飯頼めるか?炭水化物系のめっさ栄養あるやつ!!このアホ栄養失調寸前やねん」
「うるせぇバカ」
「はい。では少々お待ちください」










聖さんは私と麗さんの分である苺のシフォンケーキを机に置くと再び調理場へ向かった。










「拓、ご飯食べてないの?」
「あぁ。まぁ・・・」










拓は私と目を合わせた後、チラッとシフォンケーキに目を向けた。










「何だそのピンクいの?」
「あっ、苺のシフォンケーキ。聖さんの自信作だって」
「あの人が作るモンは全部自信作だろ」
「えっ!そうなの!?」
「・・・・・・・・・・。うまいの?」










銀のフォークでケーキを一口サイズに切り分けると上に生クリームを少しつけて拓の口元まで持っていった。
まるで食べさせるようなその動作に拓も首を傾げた。










「何やってんの?」
「食べてみる?あ、甘いの嫌いかな」










だんだん自分のやっていることが恥ずかしく思えてきてフォークを引こうと思った瞬間。
拓が私の手をつかみ、ケーキを食べた。










「なっ!?」



「確かに甘ぇな・・・」










外から見ると完璧に「食べさせた」状態だった。
自分でやっておいて何だが、顔が熱くなってくるのを感じた。










あぁー!拓、今 に「あーん」してもらっとったやろ!!」
「はっ?味見に一口もらっただけだろ」
「ずるいやん! !俺にも「あーん」してく・・・だっ!?(痛)
「黙って待てねぇのかテメェは」










零時さんは殴られて、麗さんはそれを見て笑ってて・・・。
チラッと拓を見ると目があって、避けられるかと思ったらそのままフッと笑ってくれた。










・・・」

「えっ?」

「あのさ・・・」















ガッシャーン!!



キャアァァアァー!!!





「「「っ!!?」」」















突然の悲鳴、ガラスが割れる音。
見ると酒場の扉の前で黒い服に身を包んだ集団が銃を持ってお客を人質にとっている姿が目に飛び込んできた。










「時計を出せ!!持ってるんだろ!!」










中心に立つ男が怒鳴る。










「早く持って来い!じゃねぇと1人ずつぶっ放していくぞ!!」










男の怒鳴り声に人質の悲鳴。
私の体はもう恐怖でガタガタと震えていた。










「おいっ!聞いてんのか!!」



「黙れ」










その言葉に空気が一気に氷つく。
拓はバンッ!と机を叩きながら立ち上がると銃を持った黒い集団に歩み寄った。










「ハッ!そんなこと言ってるとテメェから消してやろうか?嫌だったら早く時計を持って来い!!」



「黙れってんだよ・・・」










その時、私は目を疑った。



黒い集団が持っていた銃から煙が出ている。



しかも尋常じゃないくらい・・・。
それには黒い集団も目を見開いて驚いていた。










「俺は短気なんだよ・・・」










拓の目は・・・尋常じゃないくらい人間とはかけ離れたものになっていた・・・。















「もう1度だけ言うぞ・・・黙れ















〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

ちょこーっと甘くできたような・・・。

できなかったような・・・。

あの、あれで・・・雰囲気d(いい加減にしろって)







2008.7.5