立ち止まっていた私の肩を、誰かがいきなりポンッと叩いた。










Act.11     × 2つの真実と顔 ×










「なぁあー!!?」
「な、何だよ!?」
「へっ?たたた、拓!!」










驚き、振り返ると部屋にいるはずの拓が私より驚いた様子でそこにいた。










「お前・・・こんな所で何して」
「えっ。私は今から部屋に帰る所で・・・そうだ、体!体は大丈夫なの?」










私が詰め寄ると拓は少し苦笑いしながら髪を乱すようにかいた。










「あぁ・・・ちょっと疲れただけだし、もう何でもない。それよか・・・」










拓は1度、目を合わせるとフイッと横に視線をそらした。










「拓?」
「あのさ。悪かったな・・・」
「えっ?」
「ハンカチ・・・」










最初は何を謝られているのか分からなかったが・・・。
恐らく廊下でハンカチを差し出した時に力強く払い除けられたことを謝っているのだろうと思った。










「あ、気にしないでよ。大丈夫だから」
「悪ぃ・・・」
「大丈夫だって!それより・・・」
「?」





「拓の体の方が心配だから。今こうして元気になってくれたなら・・・それでいい」










拓は一瞬驚いたように目を見開いたが、しばらくするとフッと微笑んだ。










「あっ・・・」










その時、私はその一瞬だけ・・・拓の「本当の顔」を見た気がした。



あぁ・・・そっか。麗さんが言ってた通りだ。
拓は誤解されるような態度をとるけれど本当は。





こんなにも・・・優しく笑える人間なんだ。










グゥー・・・。





「ん?」










今の雰囲気を壊すような低い音。
拓は自分のお腹を抱えながら辛そうに呟いた。










「あー。腹減ったぁ・・・」










どうやらさっきの音は拓の空腹からくるものだったらしい。
私はハッと思い付くと笑顔で拓を誘った。










「拓!今から私の部屋に来ない?」
「はぁ?なんで?」
「聖さんからお弁当もらったの。だから・・・ね?」
「いや、ね?って言われても。お・・・おい!!」










有無を言わさず手招きをしながら自分の部屋に向かう私を見て
拓は少し困った顔をしながらも結局は後をついてきた。










ガチャッ!!










「まだ何もないんだけど適当に座ってよ」
「普通よぉ・・・男を平気で部屋にあげるか?」
「だって私みたいなガキにやましいことする気なんかないんでしょ?」










拓が家に来たとき言われたセリフをそのまま返すと拓は笑いながら床に座った。










「さっきね・・・麗さんや聖さんや零時さんから、この会社のこと色々聞いたの」










机の上に聖さんからもらったお弁当を広げる。
2人分の皿やコップを準備しながら話を続けた。










「へぇー・・・。それで?」
「私は・・・。もしかして拓達が探してる「鍵」と何か関係があるの?」










拓の眉がピクンッと動いたのが見えた。










「なんでそう思う?」



「分からない・・・から。私がこの会社にスカウトされた理由が。
 私には戦いの経験もなければ、裏社会に関わったことのある人間でもない・・・
 普通なら、私の存在ですら拓達が知り得るはずがない」



「確かにそうだ。それで?」



「麗さん達の話だと・・・この会社は裏社会の中でも大きな存在。
 そんな会社じゃ、まず人手不足はありえない・・・。
 しかも社長は私が来たらすぐに「時計」という裏組織の最終目的でもある極秘事項を露にした」



「つまり?」










拓はどんどん嬉しそうに口元を吊り上げてゆく。










「さぁ、核心を言ってみろ」と言わんばかりの笑みだった。










「私の存在が・・・時計を動かす鍵への、唯一のルートなの?」










パチンッ!拓が指を鳴らすと部屋の電気がバチンッ!っといっせいに消えた。










「なっ!!」










目の前にかざした自分の手すら見えない真っ暗闇の中、拓の気配を探すと冷たい手が私の口を塞いだ。










「んっ!?」



「黙って聞け。いいこと教えてやるよ」










ゾクリッ・・・!!










身体中の血が冷たくなるような感覚に襲われた。
拓の声は低く・・・恐怖で体がカタカタッと震えた。















「間違っちゃいねぇ・・・上出来だ。だが1つ違う。
 お前はまだ「ルート」じゃねぇ・・・今はまだ「ヒント」の段階だ。
 ただ1つ言えることは、お前は「鍵」を手に入れられる可能性がある」















真っ暗だったせいで何も見えなかったが、気配で拓がいる方向へ顔を向けた。










「俺達が血眼になって探しても情報すら得られなかった「鍵」の尻尾を、お前なら掴めるかもしんねぇんだ」










口を塞いでいた手がそっと離れると、そのままその指は私の唇をゆっくりなぞった。










「お前が「ヒント」から「ルート」になるまで俺がお前を守ってやる。絶対に死なせやしない」










唇から手が離れるとスーッと拓の気配も静かに消えていった。










「待っ・・・拓!?」










チカッチカッ。っと電気に力が戻るとすでにそこには拓の姿はなかった。










「拓・・・?」










その時私は、拓に「もう1つの顔」があることを知った・・・。















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ヒロインちゃんがスカウトされた理由・・・。

わ、わかりますか?わかりませんか?(汗)

あの、あれで・・・雰囲気で!(殴るぞ)







2008.6.28