止まっていた各々の歯車が、カチリッという音と共に動き出した・・・。










Act.9     × 消えない亀裂 ×










ちゃん。ご飯食べに行かない?」
「あ、はい!」
「えぇな♪俺もー!!」










麗さんと零時さんに連れられて少しこの会社の中を見て回った。



寮のような造りになっている場所。麗さんや零時さんの部屋も教えてもらった。
そして賑やかな酒場。ここのマスターは料理上手で食事目的で来る人も多いらしい。










「酒場にいる人達は・・・みんな社員、なんですか?」










疑問だったことを聞いてみると麗さんは首を横に振った。










「確かに社員も何人かいるわ。でも・・・一般の人間もたまに来るの」
「あくまでも店の名前になっとる『Angel』ってのは「表の顔」やからなぁ」

「表の顔・・・?」










確か拓もそんなことを言っていた気がする。















――― 表があれば裏がある。















どういう意味?










「教えておいた方がいいわね」










そう言って私の方を見た麗さんは驚いた様子で足を止めた。










「拓っ!?」

「えっ?」
「拓!どないしたん!!」










振り返ると社長室に呼ばれていた拓が壁に寄りかかりながら倒れていた。
零時さんが拓の体を起こすと酷く顔色が悪く、息も荒れていた。










「なんでもねぇよ・・・」
「何でもないわけ無いでしょ!!」










見ると額から首まで大量の汗が伝っていた。
ちょうどハンカチを持ち合わせていた私は、取り出すと拓に近付いた。










「拓、すごい汗だよ・・・これで」

「っ!?さわるな!!」










パンっ!!










「痛っ・・・」

「あっ・・・」










私が差し出したハンカチは、拓に力強く払い除けられたせいでポトンッと廊下に落ちた。

払われた手はジンジンと痛んだが、それよりも私には自分がとった行動に驚いている拓の方が気になった。










「なにしてん拓!大丈夫か ちゃん?拓かて悪気ないんや。せやから・・・堪忍な?」
「あ、いえ・・・大丈夫です」
「このアホ、具合悪いみたいやから部屋連れてっとくわ。2人で先に飯にしとって?」
「よろしくね零時。じゃあ私達は先に行ってましょう? ちゃん」










零時さんは拓を支えながら部屋へ行き・・・。
私は麗さんと酒場へ向かった。















拓・・・すごく苦しそうだった。

具合が悪いからとかじゃなくて、もっと・・・。

心が苦しそうな感じがした・・・。















「拓なら大丈夫よ」










振り向くと麗さんが優しく笑って頭を撫でてくれた。










「はい」










なぜか私はその時、とても温かくて安心できる気持ちになった気がした。























「あれっ?」
「どうかした?」



「酒場の雰囲気が・・・」










酒場に足を踏み込んだ瞬間首を曲げた。



最初に私がここに来た時は、温かみのある木のテーブルやイス。
照明も柔らかいオレンジの光で、客がワイワイと賑やかな酒場だったはず。



しかし今はクリアで細く高いテーブルに、お揃いのイス。
照明は紫やピンクなど妙に色っぽく・・・客が飲んでいる酒もオシャレなカクテルが中心になっていた。










「あぁ。きっと聖がやったのよ」
「聖・・・?」










おいで。っと麗さんに連れられ、カウンター席に並んで座ると
目の前でカクテルを作っていたバーテンダーと目が合った。










「可愛いお客様ですね。麗」
「でしょ?今日から私の妹よ♪」
「ってことは僕の妹・・・っということにもなりますね?」
「ダメダメ!私だけの妹よ」










麗さんが私のことをギュッと抱き締めると、なんだかフワッといい香りがした。










「それは残念です」










クスクスッと笑いながらバーテンダーは私の前で小さく頭を下げた。



銀髪の美しい長い髪を1つに結い、色白で細くスラッとしたその容姿は
女性にも間違いそうなほど「美人」だった。










「神姫 聖(しんき せい)と申します。ここにいる麗の双子の兄です」



「はぁ・・・。えぇっ!!?

「双子でーす♪」










麗さんと聖さんは顔をくっつけるようにして並ぶと一緒にピースをして見せた。
こうして見ると髪の色以外は確かにそっくりだ。










「ねぇ聖。お腹すいたわ」
「はいはい。ちょっと待っていて下さいね」










笑うと聖さんはカウンターから離れて裏に消えていった。










「この裏が調理室になってるのよ」
「へぇー・・・。あ、そうだ」










私は重大な聞き忘れに気付き、麗さんに目を向けた。










「麗さん・・・この会社の「表の顔と裏の顔」ってなんですか?」
「あぁ、そうだったわね・・・」










カクテルを一口飲むと少しの間をおいて話し始めた。


















「誰が言い始めたかしら・・・「表は天使、裏の地獄」
 今この賑わってる酒場「Angel」は言わば表。でも裏では別の仕事をしているの」

「時計と鍵・・・ですか?」










麗さんは少し驚いた顔を見せたがすぐに笑みが戻った。










「拓に聞いたのね?そう・・・時計と鍵を求めて様々な会社が争い、たくさんの社員が殺し合う」

「殺し・・・!?」

「間違っても遊びじゃないの。この「宝探し」は・・・」










その時、なんだかいい香りが鼻をついた。










「時計と鍵、2つが揃えば願いが叶う・・・。
 僕達はただ、自分達の欲望のために醜い争いをしているにすぎないんですよ」










聖さんはスパゲッティの盛られた皿を2つカウンターに置きながら微笑んだ。










「さぁ。まずは食べましょう?気分が落ち込んでしまいますよ。ちなみに今回のは自信作です」
「そうね。話は食べてからにしましょう? ちゃん」
「はい・・・。いただきます」










正直、食欲なんてないのだが・・・。





スパゲッティをフォークでクルクルと巻き付けてゆっくり口に運ぶ。










「おいしい!!」










ここに来て初めての感動を言葉にすると、麗さんと聖さんは同時に
「「でしょ?」」っと言って笑った。















× ―――――――――― ×

新事実!麗は双子キャラだった!!

名前は「神姫 聖(しんき せい)」

皆さん。覚えて下さると嬉しいです。

聖は基本、丁寧語です。

そして容姿なんですけど、双子でありながら

麗は金色の髪。聖は銀色の髪をしています。

はい。俺の妄想の産物です(白状)







2008.4.29