もしも魔力を持った時計が誰かの手に渡ったら・・・。


世界を手に入れることだって難しくない・・・。










Act.6     × 闇に堕ちる ×










ちゃん・・・あれから10年も経ったんだね・・・。長かったよ」










ずっと・・・ずっと待っていたんだよ。

君を・・・。











ちゃん?ねぇ、こっちに来て一緒に食べない?」
「いえ・・・」










酒場の隅で座り込む を見かねて麗は笑顔で誘いかけた。
しかし、その は拓と話してから落ち込んでいる様子で話しかけても上の空。

麗は溜息をついてそっと隣に腰掛けた。










「家に・・・帰りたい?」










コクンッと は小さく頷いた。
目には静かに涙がたまる。










「魔力とか・・・時計とか願いとか・・・。もう、頭の中グチャグチャで・・・。
 こんな所にいたくない。家に・・・帰りたい」

「じゃあ帰れよ」










顔を上げると目の前に立っていたのは冷たい目をした拓だった。










「そんな泣き虫な根性なしはここにいるだけ邪魔なだけだ」
「ちょっと拓!何を言うの!?」
「帰れよ。表の世界に・・・自分の家に」















そう言い捨てると背を向けて賑やかな集団の中に消えていった・・・。































「こっちよ。ここからなら社長に見つからないで外に出られる」
「ありがとうございます。麗さん」










麗はニコッを笑みを向けると少し寂しそうに を見つめた。










「拓を・・・恨まないであげてね?」
「えっ?」


「あの子・・・自分の親の顔を知らないのよ」










狭い裏道を抜けるとそこには人一人歩いていない暗い町が広がっていた。
麗は星が輝く空を仰ぎ見た。










「うちの会社では1番の古株でね。私達が入ったときにはもう社員の中でトップに立ってた。
 どのくらい前からいるのかな?って思ってたら・・・あの子は物心ついたときからずっと会社にいたみたい」










麗の後ろ姿を追いながら は話に耳を傾けた。










「親の顔もわからない・・・自分の名前が本当なのかもわからない。名前や歳は社長から教えられたんですって。
 それだから人の温かさっていうのに触れたことなくて・・・酷い事ばかり言うけれど根はいい子なのよ?」















――― そいつを、放してくれませんか?





――― なぜ?















薄れていく意識の中、最後に聞いた拓のあの言葉。















――― 震えてるじゃないですか















あの時の力強い腕は・・・温かかった。




















「きっと表の世界にいて、両親に愛されていた ちゃんが羨ましかったのね。
 だから、あの子の代わりに謝るわ・・・ごめんなさい・・・」










目を細めると の頭を優しく撫でた。
その時の笑顔は、相変わらず寂しそうなものであった・・・。










「でもよかった・・・うまく逃がしてあげられそう」
「麗・・・さん?」

ちゃんは表の世界にいた人間だものね。表が1番似合ってるわ。
 こんな・・・こんな暗くて狭い闇の世界なんかにいてはダメよ」










麗の金色の髪が星の光を浴びて暗闇によく映えた。










「じゃあね。 ちゃん・・・バイバイ」















の髪から手を離すと、音もなく静かに暗闇に消えた。















「麗さん・・・」















闇に溶け込むように消えていった麗の背中を・・・
はずっと見送っていた。



























トボトボ歩いているうちに見覚えのある通りに出た。



まったく明かりのついていない自宅を前にポツンッと立っていると、
まるで世界にたった1人で生きているような感覚に襲われた。








「寂しい」








久しぶりにそんな気持ちになった・・・



なぜ?



さっきまで・・・寂しくなかったから?



どうして?















あの会社にいたから・・・?

























!!!」













バッと後ろを振り返ると苛立った様子の叔父が を睨みつけていた。
一瞬、頭が真っ白になる。










「なんで・・・」
「なにをやっていたんだ!こんな時間まで!!!」










言い終わらないうちに怒鳴りつけてくる。
は眉をしかめた。










「何度電話したと思っているんだ!!もう夜中だぞ!!?」
「なんで・・・またうちに?」
「学校から電話があったんだよ。お前・・・やめたんだってな?」
「・・・余計なことを・・・」

「今まで世話してやってた俺になんの相談も無しにそんな勝手なことするなんてな?
 それは何だ?家を売って働く気になったか?」

「っ!?待って!何でそんな話になるの!?この家は売らない!絶対に!!」
「いい加減にしろ!!1人で生きていけるなんて思うなよ!!!」










叔父の言葉に はギュッと唇を噛み締めた。










「私が1人で生きようが死のうが勝手でしょ!!ほっといて!!!」
「この・・・このガキがぁ!!」










手を振り上げる叔父。
次の瞬間バシィ!!っと乾いた音が響き渡った。



左頬に鋭い痛みが走る。










「この恩知らずが!! 家の恥さらしが!!!」










ドサッとその場に倒れ込むと、 は痛み続ける頬に手を当てながら
スーッと涙を流した。















タ ス ケ テ ・ ・ ・ 。















× ―――――――――― ×

帰って来たものの、この現実。

「助けて」なんて言っても誰もいない。

そんな時、頭を過ぎるのは・・・

社長のあの一言。

「蘇らせてあげるよ・・・」







2008.3.2