「おはようチョタ!」
「おはようございます。 先輩。」







。○シャンプー○。







あ・・・まただ。最近フッ・・・と甘い香りが俺の鼻をくすぐる・・・やわらかくて、甘い香り・・・。





「今日調理実習でクッキー作るんだ!上手く焼けたら部活の時にみんなに配るね♪」
「はい。楽しみにしてます。」




隣で嬉しそうに笑っているのは、俺達テニス部のマネージャー 先輩・・・みんなの信頼も厚いし優しいし・・・。
仕事も丁寧で早い(ちょっとドジだけど・・・・)




「じゃあまた部活のときにねチョタ!」
「はい。」





先輩と別れるともう一度香りの起因を探した。最近の俺はいつもこんな調子だ・・・起因のわからない香りを夢中になって探している・・・。
なにが俺をここまで虜にするのかはよく分からないけど・・なにか、凄く傍にあるような気がした。









ここは言わずと知れた氷帝学園・・・外装も清純でもちろん花なんか大量に植えてある。
俺は花壇の傍にしゃがみこみ、じっと花を見つめた。


「・・・違う。」



あの香りは花じゃない・・・なんて言ったらいいのかわからないけど、優しくてフワッと空気に溶け込むような・・・そんな香りだった・・・。



「何そんなとこでしゃがみこんでんだよ長太郎?」
「宍戸さん!!」
「な、なんだよ・・・?」


急に立ち上がった俺を見て宍戸さんはかなり驚いたようだった。



「最近・・・あ、いえ・・・やっぱりいいです。」
「あぁ?!」



危ない・・・『最近フッと甘い香りがすると思いません?』なんて聞いたら『何だこいつ?』って思われる・・・



「なんかあったのか?」
「い、いいえ!なにも!じゃあ、また部活で・・・。」



我ながらこの自分に行動はおかしいと思う・・・なんで俺はこんなにその香りに惹かれるんだろう?







「最近長太郎と何かあったか?」
「あぁ」


楽しみにしていた調理実習の時間に同じ班の宍戸にそんな事を聞かれた。


「いや・・・別になにも」
「少し考えろよ・・・原因は だろう?」
「だからわからないってば!あーー!!宍戸!クッキー見ててって言ったじゃん!」
「あ。やべえ!」



その後クッキーは何とか無事だったが、危うく丸焦げになるところだったので宍戸は皿洗いの罰を命ぜられた。











「こんにちわー!!」
来たー♪ねぇねぇ!今日調理実習だったって本当?」
「うん!だからみんなに食べてもらおうと思って持ってきました!!」


そう言うと はクッキーの入った紙袋を高々と上げた。


「本当!?マジマジすっげー嬉しい!早くちょーだい!」
「じゃあまずジローちゃんね。」


は紙袋の中から色とりどりにラッピングされたクッキーを取り出すと一人ずつ配っていった・・・
すると青いリボンでラッピングされたクッキーが1つが紙袋の中に残った・・・。


「あれ?そういえばチョタは?」
「あ?もうすぐ来るんじゃねぇの?」


全員がクッキーに夢中で、まともに答えてくれたのは宍戸だけだった。
そっと部室を抜け出すと、 は壁に寄りかかり小さく溜息をついた。


「あれ・・・ 先輩?」
「あ、チョター!あのね、今日調理実習で作ったクッキー!食べてくれる?」
「はい。もちろんです」


クッキーを受け取り中身を取り出すと甘い香りが広がった。



「どうかな・・・?」
「はい!凄く美味しいです!」
「良かった・・・。」
「先輩が一人で全員分作ったんですか?」


まさか!っと先輩は笑った・・・。


「みんなに配ったのはクラスの女子から頼まれたのだよ!あんなに作れないし・・・。」
「じゃあ・・・先輩が作ったのは・・・」
「これ。」


先輩はそう言うと俺の持っているクッキーを指さした。


「俺に・・・?」
「そう!チョタに!」

笑顔でそういわれてなんだか凄く嬉しい気持ちになった。


「ありがとうございます・・・。」
「じゃあ部室行こっか!そろそろ始まるし・・・。」



その時俺は・・・もう少し先輩と話していたい・・・そう思った。
そんな事を考えながら先輩の後を追うと足元にボールの入った籠があることに気づいた。


「先輩!!」
「へっ?・・・うわぁ!!」


名前を呼ばれて振り向いた先輩は案の定、籠に足をとられて体制を崩した。





―――ガシッ!!


「大丈夫ですか!!?」
「あ、うん・・・。」


長太郎は倒れそうになった の腕をつかむと、支えるように自分の方へ引き寄せた。


「すみません・・・俺が急に呼んだから・・・。」
「ううん。ありがとうチョタ!」


が離れようとしたら、長太郎がもう一度腕を引き、再び は長太郎の腕の中に収まった。


「チ、チョタ!?」

「先輩・・・なんだかいい香りがしますね・・・?」
「えっ?あ・・・シャンプー・・・・かな?」


見つけた・・・・長太郎は小さく呟いた。


やっと見つけた・・・ずっと俺を夢中にしてた香り・・・。
花でもない・・・お菓子でもない・・・優しい香り・・・。


「先輩だったんですね・・・。」


長太郎はガラス細工に触れるようにそっと の髪をなでた。


「なぜでしょうね・・・。俺が夢中になるものは全て先輩に繋がっているんです。」
「私に・・・?」
「はい。香りも・・・仕草も・・・俺の名前を呼ぶ声も・・・。」


俺は・・・・・自分で気づかないうちによっぽど 先輩のこと、好きになってたみたいです・・・。


に聞こえるように囁くともう一度・・・自分の中に閉じ込めるように、そっと抱きしめる腕に力を込めた・・・。





END