「オイッ !」
「なにー?」





危機一髪





「これからどこ行こうってんだよ?」
「吹奏楽部の練習。」
「休め。」
「なんでよ!?」


今、私の目の前にいるのは、幼馴染の跡部景吾と、山積みにされた紙・・・。
なんか嫌な予感・・・・。



「生徒会の仕事が入った。生徒会室に行ってこれ全部やって来い。」
「やってこい・・・やってこいってね!何で生徒会長の景吾がバッチリ部活行く準備してて副会長の私が部活を休んで仕事をしなくちゃいけないの?!」
「しょうがねぇだろ・・・俺は今日ミーティングがあんだよ。」
「私だってソロパートの練習なの!!」



だいたい、いくら幼馴染でもその頼み方はないと思う・・・。
何で景吾はいつも私に命令口調なんだろう・・・?



「なんやまた喧嘩しとるんか?アカンで跡部! ちゃんをイジメんといてー。」


そんな中入ってきたのは2人もよく知る人物・・・忍足だった。


「違ぇよ。大体なんで忍足がここにいんだよ。」
「俺?ちょっと ちゃんに用事あってん!」
「なにー?」

ちゃん、今日帰り誰かと約束しとる?」
「へっ?ううん特には・・・どうして?」
「一緒に帰れへんかなぁと思ってな」
「うん。いいよー。」
「ホンマ!?嬉しいわ!なら部活終わったらむかえに行ったるわ!ほなまた後でな♪」
「うん。部活頑張ってね!あ、ついでに景吾も!」
「あぁ!?誰がついでだ?!」









2人が教室を出ると跡部は早足で忍足の前を歩き、忍足はそんな跡部の後ろを歩いた・・・。


「なに怒っとるん跡部?」
「別に怒ってねぇよ。」
「顔が怖いでー?なんや俺が ちゃんを誘ったんがそんなに気に入らないんか?」
「怒ってねぇって言ってんだろ!!」


すると急に忍足の声が低く真剣になった・・・。



「なぁ・・・跡部は ちゃんのとこどう思っとるん?」
「なんだよ急に・・・・?」
「好きやとか・・・そんな感情あるんやない?」
「・・・バーカ。あいつはただの幼馴染だ!」
「ホンマに?」


跡部は足を止めるとゆっくり振り返り、忍足を睨みつけた。
一方忍足はそんな反応を待っていたかのように笑みを浮かべた。




ちゃんは・・・・俺がもらってまうで・・・?」
「なっ・・・!?」



跡部は驚きを隠せない様子だった・・・。
しかし、忍足は構わず続けた。



「今まで跡部も ちゃんのこと好きなんやと思ってたから言わへんかったんや・・・。
でも、別に好きやないんやったらええやろ・・・?邪魔するんやないで?」
「誰がするかよ・・・。」



忍足は跡部に背を向けると真っ直ぐ教室へ向かった・・・残された跡部は舌打ちすると逆方向へ足を進めた。











ちゃん!」
「忍足!?」


教室のドアを開けると は仕事をしていた手を止めて忍足の方を振り向いた。



「どうしたの?部活は?」
「あんな、 ちゃんに話があるんや・・・ちょっとええ?」
「・・・うん?」



は様子がおかしい忍足を心配して立ち上がると、ゆっくり歩み寄った。



ちゃんは・・・跡部のことが好きなんやろ?」
「はぁ!?な、なに急に?!そんなわけないじゃん!!」
「自分では気づいてないだけやない?好きな人のことなんやから・・・それくらい分かるで・・。」
「忍足・・・?わっ!!」



忍足は を引き寄せると腕の中に治めた。



「忍足・・・!やだっ離して!」


は忍足の腕の中で暴れてみるが、力の違いは明らかだった。



「ホンマは跡部・・・ ちゃんのこと大切に思ってるんやで?」
「・・・えっ?」
「ただちょっと素直やないんや・・・。」




―――ガラッ!!!

「おいっ!忍足!!」
―――――っ?!」
「なんや跡部?邪魔するなって言ったやろ?」
「うるせぇ! が嫌がってんだよ!放せよ!!」
「・・・景吾。」



教室に入ってきたのはさっきまで一緒にいた跡部だった・・・。
息を切らしているところを見ると、走って戻ってきたらしい・・・。
忍足は素直に を放すと、ゆっくり跡部に近づき、声をひそめて言った。



「残念やけど、明らかに俺の負けやな・・・。でも諦めたわけやないで。
跡部が ちゃんを泣かせるようやったら今度は力ずくでもらうわ。」
「・・・やってみろよ。」
「フッ・・・ほな先行くわ。あんま遅くなるんやないで?」



忍足は跡部の横を通り過ぎると、教室のドアを閉めた・・・。
残された跡部はゆっくり に近づくと、そっと抱き寄せた・・・。
もその時は素直に跡部の腕の中に収まった。



「馬鹿かてめぇは・・・。好きでもねぇ男なんかと一緒に帰る約束なんてすんじゃねぇよ。相手が期待しちまうだろ。」
「でも・・・景吾はいつも私と帰ってるじゃん・・。」




どこまで鈍いんだよこいつは・・・。

跡部は心の中で呟くと抱きしめる腕を緩め、 の顔を見つめると、 も跡部の顔を見上げていた・・。




が好きだからに決まってんだろ・・・。ずっと俺から離れんな・・・。」




一番愛しい人を離さぬように・・・

跡部はもう一度強く抱きしめた。









END