いつも聞こえるあの音色に・・・


いつしか僕は夢中になっていた。










雨垂れメロディー










あ、始まった。


スッと耳に入ってくる優しい演奏・・・あの子だ。






急いでシャツのボタンを閉めるとテニスバックを担いだ。






「じゃあ手塚。お先に」
「最近早いな。不二」
「うん。ちょっと行く所があるから」





着替えているみんなが不思議そうに見つめる中、
僕は部室を出て学校に入り、屋上への階段を駆け上がった。








「はぁ・・・間に合った」



屋上の分厚いドアの前で息を整えるとそっとそのドアを押し開けた。
するとそこには眩しいほどに青い空と1人の背中・・・そしてホルンの音色があった。








どこか歪だけど優しい演奏・・・僕はこの演奏が大好きだった。



















「ふぅ・・・」




パチパチパチッ。




「ん?不二!!!」
「おはよう」
「おはよう・・・もしかしてまた聞いてた?」
「うん♪」
「そんな笑顔で頷かないで。恥かしいんだから聞かないでって言ったでしょ!?」






彼女の名前は

同じクラスの吹奏楽部。楽器はホルン。

毎朝毎朝こうして屋上でホルンの練習をしている子。






「でも僕は素敵な演奏だと思うな・・・」
「不二ー。タダ聞きはいただけませんねー」
「じゃあ、お金とるの?」






僕の真面目な回答に は肩を揺らして笑った。


僕はそんな笑顔も好き。






「じゃあ、不二だからサービスしてあげる」
「ありがとう。






そもそも、僕と が出会えたのも実はこのホルンのおかげなんだよね。













その日は何だか気持ちが落ち着かなくて妙にイライラした日だった。
めずらしく授業にも出る気になれなくて、空を見ようとなんとなく屋上へ行ったんだ。







「・・・誰かいる?」







ドアの向こうから聞こえる音。
まるで引き寄せられるように僕は屋上のドアを開けた。










さん・・・?」
「おぉ!?びっくりしたぁ・・・どうしたの不二くん?今授業中じゃ・・・」
さんだって。もしかしてお互いサボりかな?」
「私はサボりじゃないよ?自主練習」
「自主練習っていうサボりじゃない?」





あ、バレた?と悪戯っぽく笑う を見て、なぜか少し胸が熱くなった。





「ホルンの練習?」
「そう!今練習中の曲!!」



「へぇ・・・聞いたいな」




























「クスッ・・・」
「なに笑ってるの?」
「なんでもない。思い出し笑いみたいな感じかな」
「変な不二ー。なに?教えて?」
「秘密」







今はもうこれが日課みたいなものになった。
屋上のドアを開ければ笑った がいる。それが当たり前だった。



























次の日の朝練が終わってすぐ・・・僕は聞こえない音に不安にさせられた。






「・・・あれ・・・?」
「どうしたの不二?」
「聞こえない・・・ のホルンが」





おかしい・・・。





「ゴメン英二。今日も先に行くね」
「えっ!不二ー!?」









英二の声なんて聞こえなかった。

なにかあったのかな・・・?











屋上への階段を数段飛ばしながら駆け上がり、少し乱暴にドアを開けた。






っ?」
「あ、不二!おはよ」






演奏するわけでもなく、ただホルンを持ちながら座っている
いつもの笑顔じゃなかった・・・。










「どうしたの慌てて?なにかあったの?不二・・・」
こそ」
「へっ?」
「何かあったの?そんな顔してるよ」






の隣に腰を下ろしながら乱れた息を整えた。






「ど、どうして?別になにも・・・」
「じゃあ何でホルン吹かないの?」






は気まずそうに俯くと、静かに口を開いた。






「・・・全国大会決まったんだってね・・・菊ちゃんから聞いた」
「えっ?うん・・・それが?」
「すごいなぁ・・って。不二は」
?」


「本当は『おめでとう』って言ってあげたかったんだけどね。聞いた瞬間、おいて行かれてる気がして
 ・・・不二はどんどん進んでいくのに。私は?って・・・」








なんだ・・・たったそれだけのことか。








はホルン頑張ってるじゃない」
「んー・・・」
「僕なんかよりずっと」











その音色が・・・どれだけ僕を助けてくれただろう。

焦ることなんかない。自分で決めた道なら・・・ゆっくり進んでいけばそれでいい。











「あ、 。今日は何の日だっけ?」
「へっ? だけど・・・なにかあったっけ?」
「当ててごらん」






テニスバックを開けて小さな箱を取り出すと、悩む の手の中に置いた。






「時間切れ」



「不二・・・これは?」



















「お誕生日おめでとう。



















気に入ってくれるかわからないけど・・・小さな蝶々のネックレスを贈るよ。

もうとっくに飛べる羽があるのに、それを弄んでる君にピッタリだね。














「不二。あ、ありがとう」
「お礼の言葉より・・・僕のわがまま、聞いてくれる?」
「えっ・・・なに?」










キョトンとした をフェンスとの間に挟むように手をかけて
動けないように・・・逃げられないようにした。



手をかけたフェンスの「カシャン」という音が聞こえて・・・
僕はお互いの息がかかるくらいまで顔を近づけた。






















「好きだよ。






















ダダダダダダッ・・・・・バタンッ!!!







「あー!!不二こんな所にいたにゃー!!!」



「英二?」
「菊ちゃん!!?」










ドアを勢いよく開けて現れたのは英二・・・と他のみんなまで。








「今日の不二様子おかしかったから心配だったんだー」
「でも大丈夫そうだね」
と一緒だったのか」

「安心したー。そろそろ授業始まるし、みんなで戻ろう♪」










ま、しょうがないか・・・。










「戻ろうか。
「は、はいっ!!?」






急いで立ち上がる の腕をつかんで、僕はそっと耳打ちした。















「返事・・・聞かせて?」

「えっ・・・あ」



















真っ赤な顔で俯く の返事は、澄み切った空に消えた・・・。























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親愛なる紫苑様へ。

まず、お誕生日おめでとうございます。

次に、すんませんでしたぁあ!!!(泣)

ちょっと・・・こうをね・・・入れたかったんですよ。
あ、石投げないで下さい。痛い。痛いです。
こんなヘボでよかったら貰ってやってください(ペコッ)

でわ。これからもよろしくお願いします。紫苑さんvv