「亮・・・私って可愛いの?」
「あ?」










部室のソファーでテニス雑誌を読んでいた宍戸は思わず間抜けな声を上げた。
対して は複雑そうな表情をしながらピアノの椅子に座って宍戸に体を向けている。










「クラスのみんながね。私の事「可愛い」って言うの」
「あー・・・」










宍戸は納得したように頷いた。



目の前にいる は中学生にしては小さな身長、顔も小さく眼は大きい。
髪はサラサラしていてお人形のようだし、なにより行動や仕草そのものが幼い。
今だって椅子に座って首を傾げながら足をブラブラさせている。



が人に「可愛い」と思わせる原因・・・。



「母性本能」を擽る素質があるのだ。










「可愛いんじゃね?お前は」
「ど、どうしたの!?亮らしくない」
「別に?そう思っただけ」










雑誌に視線を戻したフリをして、チラッと の顔を盗み見ると
両手で頬を押さえながらカァッと顔を赤くした。





うん。可愛い。

これら全てが演技だったら相当な悪魔だ。










ガチャッ!!










「なんや 、宍戸。こんなとこにおったんか」
「何だよ忍足?」
「宍戸。ちょいダブルスの相手してほしいねんけど・・・頼めるか?」
「あぁ。いいぜ」










宍戸が準備を始めると、忍足は思い出したようにジャージのポケットから飴玉を1つ取り出した。










。飴ちゃんやるわ」
「えっ!いいの!?」
「えぇよ。ずっとピアノ練習しとったご褒美や」










の手の中にコロンッと飴を転がすと、 は忍足に満面の笑みを向けた。










「ありがとぉ!忍足♪」










ズキュン!!










「アカン・・・今の めっちゃ可愛エェ「それ以上近付くんじゃねぇよド変態が☆」










ドスッ!!ゴキッバキゴキッ!!



ぐあぁああ!! !アカン!これはほんまにアカンてぇー!!!」










言い忘れたので付け加えておこう。

は可愛い見た目と裏腹に凶暴で毒舌だということを・・・。










バンッ!!









「宍戸さん!日吉見ませんでしたか!?」
「日吉?見てねぇけど・・・。あっ、足元には気をつけろよ」
「へっ?うわぁー!!忍足さん!!?
「チョタ。日吉を捜してるの?」
「は、はい。練習付き合ってくれるって言ったんですけど・・・すぐどっか行っちゃって」










長太郎はチラチラと地面に沈んでいる忍足を気にしながらも、 の前まで駆け寄った。










「そっか。でもチョタ達はこれからダブルスの練習入るみたいだよ?」
「えっ!?そうなんですか宍戸さん!!」
「あぁ。忍足達の相手だとよ」










長太郎が悩んだような表情をすると、 はピョンッと椅子から飛び降りた。










「じゃあチョタはダブルスしておいでよ!私が日吉を捜してくるから」
「そ!そんな! 先輩に捜させるなんて失礼な事・・・」
「いーから!いーから!任せなさいって!!ね?」










キュン・・・。










身長差の関係上、上目使いになりながら首を傾げる に長太郎は思わず固まった。










「お、お願いします・・・」
「はいはーい♪」










笑顔を振り撒きながら部室を出ていく を見送り、宍戸は固まって動かない長太郎の肩に手を置いた。










「長太郎」
「へっ!?あ、はい!!?」
に・・・母性本能的なとこ擽られてねぇか?」










その言葉に長太郎の顔が一気に赤くなった。










「いや!あの・・・なんか・・・。 先輩って・・・守りたくなっちゃう時、ありませんか?」

「あー。分かるわ」
「や、やっぱり宍戸さんも!?」
「けどな長太郎・・・」










宍戸が扉を指差すと、外から の声がガンガンと響いてきた。










「日吉ぃー!!個人情報をネットに晒されたくなければ
無駄な抵抗はやめて大人しく部室前まで出てきなさーい!!











ダ ダ ダ ダ ダ ダ ダ ダ ダ ダ ダ ダ ダ ダ ダ ッ ! !










大声で脅さないで下さい!!おまけにそれ犯罪ですよ!!?」

はっ!(嘲笑)大方その辺で猫と戯れてたんだろ?そんな恥ずかしい姿見られたくないから隠れてた!違うか!!

「よっ!用件は何ですか!!」

「図星かよ!!アハハハハハハハッ!!!傑作だな!!!」

うるせぇなテメェら!!真面目に部活やれねぇのか。あーん?」

はぁーん?テメェこそ女の子達に注目されたい魂胆が見え見えなんだよ!!
 燃え尽きるような試合でもして真っ白な灰になりやがれ!!

「あっ。その時は2度と立ち上がらなくて結構ですよ










そんな声を聞きながら宍戸はそっと視線を外した。










「守りてぇか?あの女を・・・」

「いえ。遠慮します」




















2009.2.7