例えば目の前に自分が望んでいた通りのものがあるとしよう。
あなたはそれを、みすみす逃しますか?











「おはようございます!」
「おぅ」
「おはようございます!跡部部長!!」
「あぁ」





ここは言わずと知れた氷帝学園のテニスコート。
そこに現れたのが200人もの部員の頂点に立つ男・・・跡部だ。






「おはよーさん跡部」
「なんだ・・・忍足かよ」
「なんだはあらへんやろ・・・お、岳人達がおんで」



レギュラー専用の部室の前に忍足とダブルスを組む向日と、
その隣で寝ているジロー・・・それに2年生の鳳と日吉、樺地もいた。









「あ。跡部さん!忍足さん!いいところに」
「なにかあったのか鳳?」


「どないしたん岳人?」
「侑士!部室が乗っ取られた!!」




「「はぁ!!?」」




跡部はわけもわからないまま、鳳や向日に急かされ仕方なくドアを開けた。











ガチャ(開けた)













バタンッ(閉めた)







「なっ?なっ?どーする跡部??」
「どーするって・・・なんであんなもんがこの部室にあるんだよ!!?」
「それがわからないんじゃないですか・・・」







「おーっス。何お前ら部室の前で集まってんの?」
「宍戸さん!!」



そこに現れたのは鳳とダブルスを組む3年の宍戸だった。
見てみろっと跡部が指で合図するのを見て、宍戸は首をかしげながらドアを開けた・・・。












「うぉおお!!?」






そこにはテニス部の部室にはミスマッチなグランドピアノが存在していた。
しかもその隣には音楽関係の雑誌や、楽譜がビッシリ詰まった本棚が並んでいる。







「なんだよコレ!?なんでこんなもんがここに!!?」


「あ、それね。私がお願いして置かせてもらったの」






後ろから聞こえた声に全員が振り返ると氷帝の制服を着た
小柄な少女がジュースを片手に立っていた。








「おまっ! !!」
!!?」
「えっ?宍戸と跡部知ってんのか?」



「あぁ。こいつ俺の幼馴染で ってんだ。たしか跡部と同じ生徒会で副会長やってて
 ・・・あと吹奏楽部の部長なんだよな・・・ってオイッ! !!これ何だよ!!?」
「グランドピアノ」
「見りゃわかるわ!!」








「しばらくここに置かせてもらうことになったの」
「あぁ?そんなの部長の俺が許さねぇに決まって・・・」
「うぃ!」



ピラッと は1枚の紙を取り出し残りのジュースを飲み干した。
跡部はその紙を受け取り目を通すとニコニコ笑う を睨み付けた。








「どないしたん?なんて書いてあったんや」


忍足は跡部の手から紙を受け取ると、全員に聞こえるように読み始めた。








「えーっと・・・『 の私物であるグランドピアノをテニス部の部室に
 置いておくことを許可する。テニス部顧問。榊太郎(43)』」






「と言うわけ♪」
「と言うわけ♪っじゃねぇよ!!」
「えっ?ってかこのピアノって私物!!?」
「しかもなんやねん監督の後ろについてる(43)って!!?」









「いやー。やっぱりテニス部は違うねぇ・・・それぞれがいろんな所を
 ツッコんでくるよ。さっすが跡部さん!こっちの方も仕込んでるね!!」
「仕込んでねぇ!!だいたいなんでテニス部なんだよ!!?」






「実は私、吹奏楽部の中でもソロ演奏しかやらないの。みんなと音を合わせるのが
 苦手でね・・・そこで練習場所に困ってたわけ」



っと言いながら は光沢が美しいピアノに背中を預けた。





「そっか。音楽室は他の部員が使うし・・・トランペットやフルートではなく
 グランドピアノだから」
「そう。ちょうどいい場所がないんだよ」





「そんなもん自分の家でやりゃいいじゃねぇか!」
「だって・・・これと同じやつ家にもう1台あるもん」




なんで2台も持ってんだよ!!?その時全員がそう思った。









「そこで太郎ちゃんに相談したところ、テニス部の部室を使えばいいって言われてね」
「太郎ちゃん!!?」
「だからなんでテニス部なんだよ!!」










「防音対策・ピアノの保管環境・練習時間の自由・・・・・あと」


ビシィ!っと は人差し指を天井に向かって突き立てた。














「レギュラーだけじゃ場所が有り余ってるこの広過ぎる部室!!」


レギュラー全員が固まったのを見て は満足そうに腕を組んだ。












「その条件をすべて満たしているのが・・・・・・・・男子テニス部」








と言うわけで! はパンッと手を叩いてほほ笑んだ。


「これから練習はここでやらせてもらうから。よろしくね?跡部部長サン☆」














2006.4.8