『 君は1人じゃない 』















真っ暗闇の中に私はいた。

上も下も、右も左も、前も後ろもわからない。

ただ暗闇が続く空間の中に、私はポツンッと立っていた。

私は・・・1人だ。

誰とも関わっちゃいけない。関わったら・・・その人が不幸になるから。

私は、関わった人をみんな不幸にしてしまうから。

尊敬していたあの人も・・・優しかったあの人も・・・大好きだったあの人も・・・みんな私が幸せを奪ったんだ。

暗闇の中で1人で生きていく。

そう決めた。そんな時、目の前が光輝き、誰かが私に手を差しのべた。










――― お前は変われる。










誰・・・・・?










――― お前は1人じゃない。










嘘だ。

私は1人だ。

誰も私のことなんか必要としていない。



私なんか・・・いないほうがいいんだ・・・。











――― なら確かめてみるといい。










暗闇ばかりだった空間に光が差し込み、思わず固く目を閉じた。































が俺達の前から消えて数年が経とうとしていた。

俺達はもう高校3年になり、季節は夏の暑さから解放されて過ごしやすい秋になろうとしていた。

制服もそろそろ冬物に変わるな・・・

そんなことを考えながら近くの店で花を買い、目的地に向かった。










「最近涼しくなってきたな。直也?」










それは・・・直也の眠る場所。

買ってきた花を飾り、直也の名前が彫られた堂々たる石に向かって話しかけた。










はどうしてるかな?連絡しろと言ったのに・・・」










あの日から・・・一切連絡はない。

こちらからしようにも、あいつは連絡先を誰にも教えずに行ってしまったから・・・

完璧に の様子がつかめない状態になってしまったと言うわけだ。










「お前が守ってやれよ?直也」










もちろん返事なんて返ってこない。

でも・・・得意そうな笑顔を浮かべて「任せとけ!」と言っている直也の姿が

なんだか妙にリアルに浮かんできて・・・思わず目を見開いた。













「まさか・・・な」













墓参りも済ませ帰ろうかと立ち上がった時、ある物に気付いた。

隅の方にポツンッと置いてある・・・金色に輝く優勝トロフィー。










「えっ・・・?」










手にとってよく見てみる。

まだ綺麗だ。汚れ、傷1つ見当たらない。

そして1番気になったこと・・・それは「期待」を「確信」に変えた。















「柳先輩遅いっスねー・・・。すぐだって言ったのに」










少し離れた公園に、あの夏の時よりだいぶ成長したテニス部メンバーが集まっていた。

制服はもちろん高校のものに変わっていたが・・・あとはそのままだ。










「墓参りくらいゆっくりさせなよ。それに・・・あ、ほら!来たよ」










走ってくる柳を見て全員が首を傾げた。










「なんだ?柳の奴なんで走ってんだ?」

「何かあったのでしょうか」










合流すると柳はハァハァと荒い呼吸を整えながら叫んだ。










「早く・・・早くあいつを探すぞ!」

「はっ?」

「何だよ、どうしたんだよ柳?」



「さっき・・・直也の墓にトロフィーがあった」

「トロフィー?なんでそんなもの・・・が」










ザァッ・・・!!








一瞬、時が止まり・・・強い風が背中に吹き付けた。










「まさか・・・」

「1人しか・・・いないだろ?」










何かに弾かれたように同時に走り出す。

詳しい場所は分からないはずだが、全員・・・どこに行けばいいのか自然と確信を持っていた。

1度も足を止めずに向かった先は高校ではなく、思い出が残る立海大附属中学校。

テニスコートが見えてきた所で、懐かしい後ろ姿が目に入った。










「本当に・・・いた」










彼女は大きな旅行鞄を無造作に置きながら、コートの真ん中で空を仰いでいる。

涼しい風に漆黒色の長い髪をなびかせながら・・・ゆっくりと、こちらを振り向いた。










「少し・・・背が伸びた?赤也」

「かなり伸びましたよ・・・。 先輩が、いない間に・・・」

「みんな大人っぽくなったね・・・でも全然変わってないや」





こそ・・・。おかえり」

「おかえりなさい」

「おかえりー。待ってたぜぃ」










照れ笑いをする者も、涙を浮かべる者も・・・帰ってきた仲間に手を指しのべた。













「「おかえり!! !!」」













は小さく頷くと涙が頬を伝って地面に落ちた。















――― ただいま・・・!! ―――




















ほらっ。目を開けて、立ち上がって?

大丈夫、怖くない。

1歩を自分から踏み出そう。道を自分で見つけよう。

それはかなりの勇気が必要かもしれない。

失敗することが怖いかもしれない。

でも・・・踏み出さなきゃ、何も変わらない。

転んだっていいんだよ。間違ったって構わないよ。

それが君の道ならば・・・。

何度も転んで間違えて。それにはきっと意味がある。

無駄じゃない。無駄な事なんてない。

今自分が立ってる道を・・・歩いている道を信じて。

もし君が迷ったり、泣いてしまうことがあったら・・・思い出して。

大丈夫。君は1人じゃない。

君は誰かを想い、誰かは君を想ってる。

見つけた光を追い掛けて。

そうすればきっと・・・。








最後は本気で笑えるはずだから。















『 Fade 』END





2008.2.16