崩壊が止まり動き出した別の音。
それは誰にも気付かれない。
別れを知らせるカウントダウン。
No.38 『Fade』
「次ー!この手持ち花火やりましょー!!」
「俺にもよこせー!!」
辺りが暗くなり始めると、買ってきた花火を広げて花火大会が行われた。
火をつけると先端から赤や黄色や緑やピンク・・・
色とりどりの火花が全員の顔を優しく浮かび上がらせる。
「わぁ・・・!!綺麗!!」
「花火なんて何年ぶりだろうな」
が持っている線香花火は小さな赤い塊を作り、小さくバチバチと弾け始める。
「ねぇ・・・蓮二。話があるの」
「なんだ?」
線香花火は徐々に大きくバチバチと弾け、
はそれから目を離さずに話し続けた。
「昨日・・・いろいろ考えたんだけど。やっぱり決着はつけないといけないと思うんだ・・・」
「何の話だ?お前は何に決着をつけようとしている」
「聞いて、蓮二。私ね・・・」
ポトンッ・・・。と線香花火は音もなく輝きを失い、地面に落ちた。
次の日、朝早くから荷物をまとめ私達はバスに乗り込んだ。
「あー。終わったっスねー・・・合宿」
「学校戻ってからまた部活だけどな」
「ゲッ!?聞いてねぇよ!!」
「昨日ちゃんと言いましたよ?」
「丸井が聞いちょらんかっただけじゃろ」
「たるんどる!もう全国大会まで日がないんだぞ!!」
「クスッ・・・しょうがないね」
「あぁ・・・。
?」
私は鞄の中から使い捨てカメラを取り出すと立ち上がった。
「みんな!これあと1枚なんだけど・・・今撮ろう!!」
「今まで撮ってたのかよ!いつの間に!?」
「はいはい。いーからいーから!!」
バスの中の通路に立つと私はカメラを構えた。
「
先輩も写りましょーよ!!」
「それじゃ誰かが写らないでしょ?いくよー!あ、そうだ・・・」
私がニヤッと笑うと全員が首を傾げた。
「真田。今年の大会の目標は?」
「無論、全国制覇だ」
「みんなわかったね!いくよー。立海大テニス部!目指すはー?」
「「「全国制覇ー!!」」」
カシャッ!!
私がシャッターを切ると笑い声が巻きおこった。
その中で1人、柳蓮二を除いては・・・。
学校に到着してすぐ、練習は行われた。
しかし私が強く意見し、ウォーミングアップ程度のラリーをしただけで終了となった。
「
さん」
「柳生!まだ帰ってなかったの?」
部室で荷物の整理をしていると柳生が現れ、仕事の手伝いをし始めた。
「や、柳生!いいよ!」
「お手伝いさせてください。その方が
さんも早く帰れるでしょう?」
「あ・・・じゃあ、お願いしちゃおうかな?」
「はい」
柳生はニッコリ笑うと手を動かし始めた。
「ごめんね・・・柳生」
「なにがですか?」
「あの時・・・。みんな雨の中私を探してくれたんでしょ?だから・・・」
「
さん・・・ちょっと」
「え?わっ!?」
振り向くと柳生は私の腕を引き寄せ、包み込むように抱き締めた。
「柳生・・・?」
「私は・・・
さんがフッとした瞬間に見せる孤独な表情に、いつしか惹かれ始めていました」
そこに自分しかいないような・・・
誰の助けも求めないような・・・
そんな表情・・・。
「私はずっと
さんに笑ってもらいたかった。
心から笑う
さんになってもらいたかった・・・」
柳生の胸に顔を埋めていたせいで柳生の表情はわからなかったが
スゥッと頭を撫でられ、なんだかとても安心できる気持ちになった。
「
さん・・・。あなたはもう心から笑うことができますか?」
「うん・・・」
「私達に・・・心を開いて下さいましたか?」
「うん・・・」
「今はもう・・・寂しくありませんか?」
「うん・・・。寂しくないよ。私は1人じゃなくなったから」
柳生は私を抱き締める腕を緩め、私は柳生の顔を見た。
優しい・・・本当に優しく微笑んでくれていた。
「
さん。私はあなたのことが好きです」
「えっ・・・?」
「ずっと・・・好きでした」
「柳生・・・ありがとう。だけど私は、今は柳生だけを好きにはなれない。みんな・・・大好きだから」
「わかっています。ただ気持ちを伝えたかっただけですから・・・これからも笑っていて下さい」
それが・・・私にとって1番の喜びですから。
「ありがとう。柳生」
「こちらこそ」
1つの終りは1つの始まり。
柳生の心は1つの区切りがついたことで清々しく、そして温かな気持ちに満ちていた。
「
さん。気付いていましたか?」
「なにを?」
「あの雨の日・・・傘を2つ持っていたのに
私はわざと1つの傘に
さんと2人で入って帰っていたんですよ?」
「えっ・・・。あ、あぁー!!」
柳生は勝ち誇ったように口に笑みを浮かべ、笑いを堪えきれずに肩を揺らした。
と柳生からあまり離れていない・・・部室側の木の陰に座り込んだ1人分の赤い髪。
「ちぇ・・・。ライバル多いぜぃ・・・」
ガシガシと髪をかき乱しながら吐き捨てるように呟いた・・・。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
柳生の恋・・・終わる。
いやー。好きだったんですけどね個人的に。
でも柳生は、寂しそうなヒロインが放っておけなかった。
ただそれだけなんです。
好きだけど、笑ってくれるならそれで嬉しい。
笑っていてくれるならそれで幸せ・・・。
好きだ柳生ー!!(落ち着け)
2008.2.13