全てが崩れ・・・


音は止まる・・・


瓦礫の下から現れたのは・・・


新たに輝く小さな光・・・








No.36
    『Fade』








「私は・・・」










部屋には、私の声だけが響いている。
視線は幸村が持ってきてくれたグラスから伝い落ちる水滴に向ける。



そんなに広くないこの部屋に、仁王と幸村とジャッカルは立ったまま壁に寄りかかり
真田と柳生とブン太は椅子に座り、赤也はベッドに座る私の隣に腰かけて、蓮二は私を見守るように背後で視線を向けていた。










「私は・・・昔からテニスが好きで、コーチをしていた両親に教わりながらプロを夢見てたの」










部屋にいる全員の瞳と耳と心すべてが私に向けられる。










「でも・・・そんな両親の心が私に向いたことは1度もなかった」










少しだけ笑って見せる。
それは、あまり深刻な顔をするとみんなが心配してしまうから。










「弟がいてね。私にとって可愛い弟で・・・両親にとって自慢の息子だった。
 大会ではいつも優勝するの。期待を裏切らない・・・自慢の息子。でも、それに比べて私はダメだった」

















――― お前の顔なんて見たくない。





――― 何で・・・何であんたじゃなくて直也なの!!?

















「声」がまた聞こえる。私は耳を塞ぎたいのをグッと我慢した。










「大会ではいつも2位で、優勝したことなんて1度もなくて、親の顔に泥ばかり塗って。
 そんな日・・・私は道路に飛び出したせいで車にひかれそうになったの」










「あの日」の光景が今でも鮮明に蘇る。カタカタと震える体を必死に隠した。










「でも・・・無事だった。弟がかばってくれたから。弟は・・・私の代わりに車に・・・」










全員が目を見開き・・・蓮二もが後ろで驚きを隠せない様子だった。










「弟の存在はあまりにも大きかった・・・私も両親も本当にショックを受けて
 いつしか両親は私の存在を恨み・・・私は自分を呪った」

















私のせいで直也は・・・


私が直也を・・・


両親から奪った・・・


私が・・・





殺したようなもの・・・。

















「だから・・・私は人殺しで、罪人。
 この罪を償いたいけれど、どうすればいいか分からない・・・。ただ、謝ることしかできなかった・・・」















シンッ・・・。と音が消えた空間。
私はうっすら浮かんできた涙を見られないように目を閉じた。















「意味わかんねぇんスけど・・・」



「えっ?」















振り返ると、隣に座っていた赤也が少し身を乗り出して真剣な顔で私を見つめていた。










「それおかしいっスよ。弟の直也って 先輩のこと助けたんでしょ?
 大好きだったから、かばったんじゃないんスか!?」

「だけど・・・そのせいで直也は」

先輩を恨んでるって言うんスか?だったら当ててやりますよ。
 直也は 先輩のこと少しも恨んでない!罪を償う?そんなこと絶対に望んでない!!」

「な、なんでそんなことハッキリ言えるの!」

「自分が危ないとわかっていても 先輩を助けた!
 生きてほしかったんスよ! 先輩には、自分がいなくなっても生きていてほしかった!!」










「っ!!」










「幸せになってほしかったんだよ!何でわかんねぇの!?
 大好きだったから・・・ずっと心から笑っていてほしかったから!!」















赤也は私の頬に優しく手をそえて、悲しそうに目を細めた。










「きっと謝ってほしいだなんて思ってないはず。
 泣きたい時は我慢しないで、辛いときは助けてもらって・・・
 笑いたいときは腹から笑って、幸せになってほしかったんだよ・・・。
 こんな作り笑いなんて、してほしくねぇんだよ・・・」










スーッと私の涙は頬を伝って赤也の手を濡らした。










「怖かった・・・いつか皆を傷付けるかもしれないって。
 いつか皆が私の話を聞いて離れていっちゃうかもしれないって・・・。
 皆のことが・・・本当に、大好きだったから・・・。失うのが怖かった・・・」

「それは僕達も一緒だよ」










幸村は目の前でしゃがむと、私の両手をギュッと包み込むように握った。










「言っただろ?全員大切な仲間だって・・・。
 僕達も を失うのは怖い。もう は・・・いなきゃいけない大切な存在なんだよ?」

「幸村・・・」










顔をあげると、みんなが優しい笑顔を私に向けてくれていた。















「よく・・・話してくれた」

のことだから、ずーっと1人で悩んでたんだろ?」

「これからは俺達に言えよ!内緒にされるって・・・結構ショックなんだぜぃ?」

さんがたまに見せる孤独な表情が気になっていました。やはり貴方には笑った顔が似合いますよ」

「もう無理矢理笑うことなかよ。やっと泣けるようになったきに泣きたい時は泣け」















私は涙が止まらなくて「ありがとう」っと何度も言いながら今まで我慢していた分、泣き続けた。



涙が溢れるたびに、重かった何かからどんどん解放されていくのがわかった。
重かった手錠も・・・苦しかった鎖も・・・ガチャン!と鈍い音を立てて外れた気がした。















「ありがとう・・・」















〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

ちょっと皆のセリフがクサイか・・・(汗)

もしかしたら直也の気持ちが1番理解できそうなのは

赤也かもしれませんよね。

・・・なんかヒロインに向ける姿勢が似てるから。







2008.2.11