忘れてた・・・。
私は・・・「幸せ」なんて。
感じてはいけないんだった・・・。
No.31 『Fade』
雨は次第に強さを増す・・・。
寒いなんて感覚はとっくに麻痺していた。
ただ・・・体をギュッと抱き締めるようにしてガタガタ震える自身を必死に抑え付けていた。
「私・・・私が・・・」
ただ静かに謝り続けた。
その度に
は心を潰されそうな感覚に呼吸が苦しくなった。
「直也・・・」
の脳裏にあの日の記憶が鮮明に蘇ってきた・・・。
■
「直也!また優勝ね。おめでとう!!」
「うん!ありがとう!」
「お父さんの教えたショットもよく出来てたぞ」
「本当!?」
優勝トロフィーと賞状を持った弟、直也を両親は笑顔で抱き締めていた。
その少し離れた場所で私は自分の腕の中にある「2位」のトロフィーをギュッと握った。
「直也はいい子ね。ちゃんと大会で1番をとってくるものね?それに比べて・・・」
ビクッ!っと体が震えた。
両親の視線が私に刺さる。
「
はまた2番?次からは頑張ってね?」
「教えたショットも・・・うまく出来なかったみたいだな」
「・・・ごめんなさい」
その日、直也の優勝を祝ってケーキを食べた。
私の「2位」のトロフィーは・・・ゴミ捨て場に捨てた・・・。
〜 1ヶ月後 〜
「お姉ちゃーん!」
「なーに?」
姉である私から見ても直也は本当に可愛かった。
素直だし・・・明るいし・・・テニスは上手いし・・・。
私は直也のことが大好きだった。
「お姉ちゃんも決勝進出でしょ?俺も決勝決まったよ!!」
「本当?」
「うん!だから今度は2人で優勝しような!!」
私は笑顔で「うん!」っと返事を返した。
男子の部と女子の部で別々に試合をするから直也の試合は見に行けない。
・・・っと言うことは直也が1位になったか2位になったか分からない。
もし・・・私が1位を獲得した後に直也が2位になってしまったら・・・?
両親は直也に対してどんな態度をとるだろう・・・?
そんな両親に直也はどれだけのショックを受けるだろう・・・?
だけど、私が2位になっておけば・・・。
直也が負けてしまっても両親の冷たい視線は向かない。
2人が一緒の順位なら何も言われない。
私はラケットを握るとコートに立った・・・。
「また直也は優勝!すごいわぁ!!」
「弟はこんなに親の期待に応えてくれるというのに・・・」
お父さんは私の持ってる2位の賞状にチラッと目を向けた。
「どうしてお前は俺達を裏切るような事をするんだ」
「ごめんなさい・・・」
「少しは直也を見習ったらどうなの?」
「はい・・・」
だんだん・・・心が冷たくなっていく感覚に襲われた。
頭の中がグルグルし始めて気分が悪くなっていく・・・
風を感じても、空を見上げても、テニスをしていても・・・
モヤモヤする気持ちが収まることはなかった・・・。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
心の闇の、その中心。
光の下での孤独な感情。
その鍵を握るのは今は亡き弟の存在。
ここからは過去に入ります。
2008.1.13