人の心とは不思議なモノで・・・


時に儚く・・・


時に凛々しく・・・


時に脆く崩れやすい・・・。








No.30
    『Fade』








「ハァ・・・ハァ・・・!!」








暗闇しか見えない道を危なっかしい足取りで走る。
もう、どれくらい走ったのかも・・・自分がどこへ向かっているのかも分からなくなっていた。
息が苦しくなってもその足は止まることなく・・・いつの間にか見知らぬ道へ出た。








「ハァ・・・ハァ・・・」








大通りだろうか・・・こんな時間でも明かりのついている店がいくつかある。
やっと走っていた足を止め、トボトボと歩いていると小さな公園が目に入った。








ポツッ・・・ポツッ・・・。



「雨・・・」








最初は頬に、次に鼻に・・・静かに降り出した雨はだんだんと本格的に私の体を濡らしていく。








「雨宿り・・・しなきゃ」








私は目の前にあった公園へ急ぐと雨をしのげる場所を探した。











「えっ・・・コート?」








奥へ進むと珍しいものが存在した。
粗末な作りだが・・・そこにはテニスコートが1面。
ネットも緩く、雑草が生い茂っていてとても整備が整っているとは言えなかった・・・。
しかしそれでもそのコートはどこか手作り感のある温かみを感じた。








「遊び場かな。きっと子供達の練習場なんだ・・・」








落ちていた使い込まれているボールを拾い上げると
このコートで楽しく練習をする子供達の姿が浮かび上がり、思わず笑みがこぼれた・・・。

周りは木々で囲まれていたが、その中でも一際大きな木の下にベンチを1つ見つけ、そこに腰を下ろした。
完璧にとは言えないが、頭上の大きな枝や葉が少しは雨を防いでくれているようだ。











ズキッ・・・!!



「うっ・・・!!」








急に走った頭痛に頭を抱えると、今度はガタガタと身体中が震えだした。








「うぅ・・・」








ベンチの上で、自分を抱き締めるようにして震えを抑えようとした。
頭の中に響くのは、悲鳴に似た声・・・。












――― お前が・・・お前が直也を!!


――― あんたのせいよ・・・!あんたがいなければ!!













「ごめんなさい・・・ごめ・・・」








震えは、止まらなかった・・・。































「どこ・・・行っちまったんだよ! 先輩!!」
「赤也!!」
「丸井先輩・・・ジャッカル先輩!?」
「お前だけで見つかるわけねぇだろぃ?」
「後から柳達も来る。手分けして捜そう」
「ウイッス!!」







3人同時に頷くと散々になって を見つけにかかった。








先輩ー!!」
ー!!」








ペンションから普段練習に使っていた施設までの道のりを探し続けた。








バキッ!!



「痛ぇ!!」








そこは人が歩くところ以外は茂みが深くなっていて
真っ暗で何も見えない今の状況では赤也も木の枝に顔面をぶつけるハメになってしまった。








「うー・・・クソッ!暗くて何も見えねぇじゃねぇか!!」













――― ・・・赤也・・・













「あっ・・・」













――― 暗闇が怖いの・・・どうしても・・・













「そうだ・・・何で気が付かなかったんだよ。 先輩はここにはいねぇ!いるとしたら・・・」








赤也は急いで辺りを見渡す。丘の上にいたので見晴らしは最高だった。








「あそこっきゃねぇ!!」















バタバタバタッ!!








「丸井!ジャッカル!!」
「柳!遅ぇよ」!」
「すまない・・・ は?」
「それが見つからねぇんだ!おまけに赤也も消えた!!」
「赤也も?」
「丘を駆け降りていくのは見たぜぃ?」
「丘を・・・?」








柳は丘の下に見えるものが目に入ると一直線にそこに足を向けた。








「や、柳?」
「おい。どうしたんだよ?」
「丘の下に はいる」
「えっ!?」
「どうして!?」
「付き合いが長いんでな・・・。あいつが無意識に光ある所を求めることくらいは想像つく」








全員で丘を降りながら幸村は静かに口を開いた。








「柳。もう少し のことを教えてくれないかな・・・?」








柳は無言だったが、全員が真剣な眼で見つめ続けると重々しく話を始めた。
















「直也がいなくなってから・・・あいつはまるで狂ったかのようにテニスの練習を始めた。

 体が悲鳴をあげようが肩を壊そうが関係ないように・・・。その時完成したのが「水月下」・・・

 あの時の は本当に見ていられなかった」













――― 私のことなんかどうでもいいの!!













「それは・・・やっぱり弟のために?」

「わからない・・・。しかし両親は直也を失った悲しみから暴力を続け、海外に飛んだ。
 それと同時に は心を閉ざして学校にも来なくなったんだ・・・」

「それから今まで・・・ずっと1人で」













――― ダメかな・・・一匹狼じゃ。













「幸村がマネージャーを募集したときはチャンスだとばかりに を推薦した。
 あいつには少しでも外に出て・・・人と関わってほしかった」

「なんとなく・・・。最初のころの のガチガチの顔や
 野良猫みたいな警戒心剥き出しの眼の理由がわかってきたのぅ」













―――  ・・・よろしく。













「マネージャーにして正解だった。昔に比べると・・・あいつは本当に元のあいつに戻りつつあった」













――― おいしいじゃん!これぇ。













「それが・・・こんなことに」



「なに落ち込んでるの。柳」








幸村が少し前を歩きながら空を仰いだ。







「これは・・・前進だよ。柳だっていつかはこうなると思ってたんでしょ?」

「確かに・・・そうかもしれませんね。
 現に私達は さんの話を聞いて、今こうして彼女を捜してる・・・」

「心を閉ざす・・・上等じゃけぇ。なら、こじ開けて踏み込んでわからせればいいんじゃろ?」










お前は1人じゃない・・・。










「じゃろ?参謀」
「あぁ・・・」















俺を囲むように共に歩くこいつらを見て感じた。

本当に・・・こいつらならやってくれるかもしれない。

俺や貞治じゃ助けてやれなかった の崩壊を止めてくれるかもしれない。

崩れたら・・・もう1度造ってくれるかもしれない。

そんな心強さが・・・確かにあった。















〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

全員の心は決まってる。

全員の気持ちが揺るぐことは無い。

あとはそれを分からせるだけ。



お前は1人じゃない・・・!!!





2007.12.30