目の前にある壁を恐れないで・・・


どんなに高くても怖がらないで・・・。








No.28
    『Fade』








崩壊の音は、いつの間にか大きく響いていた・・・。











ガチャッ。








「待ってたよ。柳」








ミーティングルームとして使用している部屋に入ると、すでに入浴を済ませたメンバー。
幸村、真田、仁王、柳生、丸井、ジャッカル、赤也が好きな場所で好きなようにくつろいでいた。

そして は今、風呂に入っているはずだ。
俺は全員が見える真ん中の椅子に座ると、気持ちを落ち着かせるために大きく息を吐いた。








「で?話って何スかー?」
「ミーティングなら全員集まってからでも・・・」

のことで話がしたい」








空気が一瞬で氷ついたのを肌で感じた。
さっきまでとは全員表情が違う。








「どういう・・・意味かな?」
「全てを話すという意味だ。これから俺がする話を・・・どうか信じて欲しい」











あいつが笑わなくなった・・・あの日。











「まずはこれを見て欲しい」








俺は1冊のテニス雑誌を机の上に置き、あるページを開いた。








「なんスか?えっと・・・「天才! 姉弟」って、この ってまさか」

「そう、これは が幼いころ取り上げられた雑誌だ。
 あいつには・・・そんなに歳も離れない弟が1人いたんだ」

「弟?でもそんな話1度も・・・」
「あぁ、言わないだろうな。あいつの弟はもう・・・この世にはいない」
「えっ・・・?」

「死んだんだ。交通事故で、だいぶ前にな・・・」








全員が唖然としたように固まってしまったが、俺は話を続けた。








「弟の名前は直也。俺と青学の貞治は、あいつからの連絡を受けて病院へ急いだ。

でも・・・その時にはもう・・・」











―――  !!


―――  !直也・・・直也は!?


――― 蓮二・・・貞治・・・。私・・・。











「人殺し・・・?」
「あいつはそう言った・・・。自分が直也を殺したんだと」
「んなわけねぇだろ! がそんなことするはずねぇ!!」

「そんなことは分かってる!!」








部屋中に怒鳴り声が響いた。
俺の声に丸井は驚いた様子で退いてしまった。








「わかってる・・・ がそんな事するはずがないことは。
 何があったかは俺も知らないが、あの日からあいつは・・・笑うことを忘れた・・・」











輝きを失った虚ろな瞳。

全ての力を無くしたか細い身体。

冷たい氷で覆われてしまった・・・小さな心。











「昔・・・ に何があったのかは分かった。でも・・・それだけじゃないんでしょ?」
「あぁ・・・。 と直也は姉弟そろってテニスが強かった。それは の両親の影響によるものだったんだ」
「コーチか何かだったんですか?」
「そうだ。 達は幼いころからテニスの教育を受けていて地元の大会を総なめにしていた」








全員が机の上に広げた雑誌に目を向けた。








「しかし・・・直也が死んで、両親の悲しみは怒りに変わり・・・その矛先は に向いた!!」








直也の葬式で俺達の前に姿を見せた

その体には無数の痣や傷があった。








「なっ!まさかっ!?」
「あいつは・・・親から暴力を受けていたんだ。直也が死んだのは自分のせいだと言っていたしな・・・」

「そんなことって、あるのかよ・・・?だって!!
  だって可愛い娘じゃねぇのかよ!?なんで弟のことで が親からそんな・・・!!」

「両親とも、見ていてわかるくらい弟の直也の方を可愛がっていたからな。
  その後、両親は を置いて海外に飛んだ・・・」








シンッ・・・。と静けさが戻ってきた。
全員が喉に何かが詰まったかのように黙り込んでしまった。








「じゃあ・・・ 先輩が独り暮らしの理由って・・・」
「親に見捨てられたっつーことけぇ」
「そんな風には・・・見えませんでしたね」
「あいつは自分の感情を隠すのがうまい。泣きたいくせに笑うことなんて・・・当たり前だった」

「作り笑い・・・か」
「それに気付いてやれんかったんはショックじゃのぉ・・・」


















――― 今は・・・寂しい?幸村。



――― もっと心配してる人達を見てよ真田!!



――― 柳生・・・どうしてそんなに優しくするの?



――― 合宿は皆で楽しもうよ。ね?ジャッカル!



――― ブン太が笑った方がいいって言ってくれたんだよ?



――― 仁王・・・もう無理に自分を偽るのやめたら?



――― 戦う理由は何・・・?赤也。


















「俺らって・・・ 先輩のことちゃんと見てなかったんスかね?」
「恥ずかしいね。ずっと側にいたのに・・・」
「なぁ。その弟って交通事故・・・だったんだろぃ?何で が人殺しなんだよ」
「それは俺にもわからない。ただ、あいつは直也が事故に遭ったのは自分のせいだとずっと自身を責めていた」



先輩がその弟を事故に遭わせたってことっスか?」










ガッシャーン!!!



「「「っ!!?」」」










突然響いたガラスの割れる音。何事かと思い急いで扉を開いた。










バンッ!!



「なっ・・・」










廊下にいた人物を見て、部屋にいた全員の呼吸が一瞬にして止まった。

開け放った扉の向こうには・・・










・・・」










顔を真っ青にした・・・ が立っていた。















〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

柳が語る「あの日」

そして思わぬ展開に・・・!!


あ、想像してました?(汗)





2007.12.11