打ち砕かれて・・・ボロボロで・・・
木っ端みじんで・・・粉々で・・・
それでもなぜか・・・嬉しくて・・・。
No.25 『Fade』
全員が自分の目を疑った。
赤也なんて呆然と自分の背後に転がるボールを見つめているばかりだった。
「み・・・見えたか?ジャッカル」
「いや、まったく・・・」
トンットンッ。と
は黄色いボールを弾ませて赤也に目を向けた。
「次。いくよ?」
の手からボールが離れる。
ありえねぇ・・・ありえねぇ!ありえねぇ!!
俺はこの再戦のために強くなったんだ・・・。
いくら
先輩の雰囲気が変わったところで、必殺技か何かが決まったところで俺は負けねぇ!!
見切ってやる。破ってやる。攻め続けてやる・・・!!
「勝つのは、俺だぁー!!!」
あっと言う間だった。
まるで水の流れに身をまかせるがごとく自然な流れで・・・勝敗は、決まった。
「ゲームセット。ウォンバイ・・・
」
「ち・・・くしょう・・・!!」
「赤也が1歩も動けなかったなんて」
「動けねぇだろぃ・・・あんなテニスされたら」
俺が・・・負けた?1歩も動けなかった。
俺が打ったボールはどれも水の上を転がるかのように、音もなくポトンッとコートに落ちた。
どんなに強いサーブも、どんなに速いショットでも・・・この人の前では関係無い。
「無」にしちまうんだ・・・。
「あれが
のテニス「水月下」だ。パワーもスピードも、あいつの前では無意味」
「赤也・・・」
俺はいつの間にか膝をついていた。
先輩が俺に近付いてきたのはわかったけど目を合わせることはしなかった。
「赤也・・・」
「俺は!!」
俺は今まで上に行くことだけを考えてた。
強い奴らをどんどん潰していって、いつか俺がトップになる!そう思ってたのに・・・!!
「くそっ!!」
バンッ!!
コートを拳で力一杯殴った。
もちろん地面が割れるなんて現象は起こるはずもなく・・・ジンジンと手に痛みが走っただけだった。
「赤也・・・。赤也は、何で強くなりたいの?」
「・・・えっ?」
顔をあげて、同じ視線になるようにしゃがみ込んだ
先輩と目を合わせた。
「何のために勝ちたいの?何のために私と・・・勝負したの?」
「そりゃ・・・上に行くためっスよ。そのためには強い奴と・・・」
「違う。そうじゃない」
「はっ?」
「上に行ってどうするの?って聞いたの」
「どうする・・・って」
「赤也はただ、自分の力を信じきって相手に挑んでるんだけでしょう?でもそんなんじゃ、私には勝てない」
視線を反らすことはできなかった。
何かを言おうとしても、喉の奥が詰まったように声が出なかった。
「負けるとただ悔しくて。勝っても喜ぶほどの理由がない。そんなの・・・寂しくない?」
「
・・・先輩?」
なんで・・・。なんで
先輩がそんな・・・。
「だから赤也。赤也は戦う理由を見つけなさい。
何でもいい・・・、何かのためにテニスで戦う。そんな理由を・・・見つけて?」
なんでそんな・・・寂しそうな顔、するんスか?
夕方。練習を終えてペンションに戻った俺達は、夕飯まで好きなことをして過ごしていた。
「赤也。こんなところにいたのか」
「柳先輩?」
ペンションのベランダで1人、夕日を見ていた俺の隣に柳先輩が現れた。
「何悩んだ顔してるんだ。赤也らしくない」
「そりゃ・・・俺だって悩みもしますよ。あんな顔見ちまったら・・・」
「あんな顔?」
「
先輩っスよ。俺に説教してきたとき・・・なんつーか、寂しそうな顔してて」
「・・・そうか」
しばらくの沈黙のあと、柳先輩は俺に背を向けながら言った。
「赤也。覚えておけ」
「はい?」
「その寂しそうな顔が・・・あいつの戦う理由だ」
その言葉に勢いよく振り返ると柳先輩は何も言わずに部屋を出て行こうとした。
「ちょっ!待って下さいよ!!
先輩の戦う理由って何なんスか!?
何であんなに悲しそうに笑うんスか!!?」
柳先輩は1度足を止めたが、振り返りもせずに部屋を出ていった。
思わず奥歯を噛み締めると拳を思いっ切り振り上げた。
「・・・畜生」
しかし固く握り締めた拳は、そのまま力なくゆっくり下ろしていった。
部屋を出ていった柳は、廊下の奥から聞こえる
の笑い声に
小さく笑みを浮かべながら壁に背を預けた。
「赤也もすでに気付いてる。終りの時が・・・近いのかもしれないな」
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
赤也の完全なる敗北。
ヒロインがここまで強い理由とは?
そして・・・柳が呟く「終わりの時」とは・・・?
2007.10.20