カウントダウンの音がする。


時は確かにやってくる。


カチカチカチカチッ・・・。


誰か時を止めてください・・・。








No.23    『Fade』








「・・・まだ来てないのは誰だ」
「丸井ブン太くんでーす」
「でーす」






「真田。眉間のシワが増えたぞ」






「あ、ブン太来たとよ」
「悪ぃ悪ぃ!お菓子選んでたら遅れちまったぜぃ!!」






「はい、真田。怒らない怒らない」










合宿出発日。
それぞれがまだ眠たそうに目を擦りながら大荷物を手に、集合場所である学校前に集まっていた。










「これから行くペンションって山奥なんスけど、めっちゃ景色いい所らしいっスよー!」
「本当に?楽しみだねぇ」
「あ。バス来ましたよ」











こちらに向かって走ってきたバスは、たかがテニス部を合宿先へ送り届けるという役割のくせに
観光バスのように見応えがあるものがやってきた。

席が有り余ってしまってしょうがないだろうに・・・。










「デカッ」
「じゃあ全員荷物をバスに積んで乗り込んでー。出発するよ」
「うぃーっス!」










天気は初夏らしいカラリとした晴れ。
全員の目はやる気に満ちていた・・・。

















「赤也!お前のお菓子くれぃ!!」
「あっ!勝手に食わないでくださいよ丸井先輩!!」

「うるさいなーあいつら・・・。あれ、仁王・・・それもしかして新発売のやつ?」
も食う?」
「いいの?やった!」










バスの中は賑やかで・・・。
これから遠足にでも行くのかという雰囲気だった。





走り始めてから数時間・・・。
毎日の練習に疲れていたのか・・・全員静かに寝息を立てていた。












「んぁ・・・。ふぁあー・・・」










例外なく眠っていたブン太はうっすら瞳を開けると、軽く周りを見渡した。








なんだ・・・全員寝ちまったのか・・・。








斜め後ろに座っていた に目を向ける。
スゥ・・・と閉じた瞳に、かすかに開いた唇。
普段見せない無防備すぎる寝顔にブン太は思わず視線を外した。












「ちょっと待てよ・・・」










なっ!意味わかんねぇ・・・!!
俺、何ドキドキしてんだよ!?












「ねぇ。柳・・・?そろそろ教えてくれてもいいんじゃない?」










エンジン音しか聞こえないバスの中、背後から聞こえた声にブン太は固まった。








幸村だ・・・。
その隣で柳が窓の外を見つめている。












「なんの話だ」
のこと。はぐらかすのは・・・もう無しだよ?」










柳の眉がピクッと動いたのを幸村は見逃さなかった。










「大丈夫・・・僕ら以外みんな寝てるさ」










ブン太は思わず息を止めて、2人の会話に聞耳を立てた。










は、本当によくやってくれてる。僕らはみんな に救われてる。でも・・・」








幸村はチラッと柳に視線を移した。










「僕らは柳以外「 自身」のことを何1つ知らない・・・」
「・・・・・・・・・・・・・・。」

「なぜ不登校になったのか。なぜ独り暮らしなのか。
 なぜ はあんなにも自分を大事にしないのか。そして・・・」

「幸村・・・」
「柳は一体、何から を守ろうとしているのか・・・」








柳はゆっくりと幸村と視線を交すと、静かに口を開いた。













「あの日から、あいつの笑顔が消えた・・・」





































合宿を行うペンションは丘の頂上に立っていて、見た目は可愛らしいログハウスだった。
中も広く、部屋数も文句無し。
テニスコートは丘をおりた施設にあるとのことだった。










「すっげー!!」
「いい所ですね」
「景色も最高だね!」
「ん?あぁ・・・」










全員がはしゃぐ中ブン太はただ1人、2階のベランダからボーッと景色を眺めていた。













―――





「あいつは、あの日から笑わなくなった・・・」

「あの日・・・?」

「時が来たら・・・話そう」





―――













「ブーンー太!!」

「うわっ!!」










驚きのあまり後ろに倒れそうになったブン太の隣で、 は首を傾げた。










「どうしたの?ずいぶん静かじゃない。気持ち悪い」
「悪かったな・・・」
「赤也達はかなりはしゃいでるよ。ブン太も中見て回ろ?」












――― あいつは、あの日から笑わなくなった・・・。













「ブン太?」

・・・」










お前・・・笑ってるよな?柳の奴、何言ってんだよ。こいつちゃんと笑って・・・。










「あのさ・・・」










まさか・・・嘘なんて言わねぇよな?

は笑うと綺麗だって・・・俺知ってんだぜ?












「・・・笑えよ」











あの笑顔が、嘘だったなんて言わねぇよな!?












「どうしたの、ブン太?」

「あっ・・・」










思わず の腕をきつく握っていたことに気付く。










「わ、悪ぃ」










何やってんだよ俺。いきなり「笑え」だなんて・・・。

ガキじゃん・・・。












「ねぇ。ブン太?」
「あっ?」










振り返ると は俺の口に何かを放り込んだ。
噛み締めるとそれがチョコレートだと気付く。










「笑ってるじゃん」
「へっ?」
「私笑ってるよ。だってブン太が言ってくれたんじゃない」









もう1つ同じものを取り出すと もそれを口に入れた。













「笑った方がいい顔だって・・・」













細められた瞳がブン太に向けられる。










「忘れたとは言わせないよ?」












その笑顔は本物か・・・それともやっぱり嘘なのか・・・。

わからないけど・・・もうそんな事はどうでもいい。
















「やっぱお前って、笑うといい顔すんのな」















〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

ブン太には甘いもの。

ヒロインもだんだん赤毛の扱いに

慣れてきたと思われる・・・・・。





2007.9.7