雲は空を隠し、光を消す。


不安は心を隠し、感情を消す・・・。








No.19    『Fade』








「次の方。幸村さーん?」
「はい。」


















あれっ?








はキョロキョロと周りを見渡すと側にいた真田のジャージを引っ張った。








「真田。真田」
「なんだ ?」
「今日、幸村見てないけど・・・?」
「あぁ。今日はあいつ月に一度の検診の日だからな」
「検診?どこか悪いの!?」
「そんなに心配することない。明日になればまた部活にも顔を出す」



「そうなの?」
「だから心配するな。お前は仕事をしてこい!仕事を」
「うーん・・・」








どこか納得いかないように は唸ると握っていた真田のジャージを渋々放した。


















「では、今日の検診はここまでということで」
「はい。ありがとうございました」








軽く頭を下げると幸村は診察室と書かれた部屋を出て、待合室のソファにドサッと腰を下ろした。








「はぁ・・・」








真っ白な天井を見上げると思わず溜息がもれた。
待合室は、診察が終わるのを待っている家族や走り回る子供達で病院とは思えないほど賑やかだ。















「なんだろうなぁ・・・」








心が妙に重い。
イライラしてるわけでもないのに気持ちが沈む・・・。
病院にいるせいだろうか?






帰ろう。
ずっとここにいても意味は無いし。










自動ドアが開くとどんよりと重い雲が空を埋め尽していた。
まるで今の心みたいな・・・気持ち悪い。













「あ、幸村来た来た!!」








耳に届いたその声。
驚いてそちらに目を向けると部活を終えたはずの とみんなが集まって手を振っていた。










「なんで・・・」






ここに?と言おうとしたところで が言葉を遮った。










「幸村待ってたんだよ!お腹空かない?これからご飯行こーよ!!」









制服姿のまま来たところを見ると、どうやら部活が終わったその後すぐに来てくれたみたいだ。
嬉しくてか・・・それともおかしくてか・・・思わずフッと笑みを浮かべてしまった。













「うん。行こうか」































「あー!!仁王先輩!それ俺の!!」
「もーらい。」
「って、ブン太お前食うの早っ!!」
「おーかーわり♪」








「あいつらってさぁ・・・もっと静かにできないのかな?」








ファミレスに入った立海テニス部ご一行様は人数が多かった為2つの席をとって座った。








「フフッ・・・隣の席は賑やかなメンバーが集まっちゃったからね」








そう。

幸村達の隣の席では赤也・ブン太・仁王・ジャッカルが
他のお客の迷惑を考えずに大騒ぎをしていた。













「そう言えば・・・何で急に迎えに来てくれたの?」
が言い出したんだ。幸村迎えに行こう!ってな。俺達も賛成だったし」
が?」
「ん?そうそう。真田が病院の場所知ってたしね」
「そう・・・それにしても急に来るから驚いたよ」








ナポリタンをクルクルとフォークに巻き付けながら は幸村を見て笑みを浮かべた。








「だって最近幸村の楽しそうな顔見てなかったんだもん」
「・・・えっ?」








食べる手が止まった。








「何て言うのかな・・・。たまに幸村って無理に笑ってるように見えるんだ」
「僕が・・・?」

「幸村って何か悩んでても、辛くても・・・
 弱音は絶対吐かないし。顔にも出さないから心配なんだよね」

「同感だな。」








横から柳が の言葉に頷いた。








「だからご飯に誘ってくれたの・・・?」
「それもあるけど・・・」








巻き終えたナポリタンを頬張りながら は続けた。













「ただ、みんなでご飯食べたかっただけだよ。みんなでね」















フワッ・・・。















。口に入れたまましゃべるな」
「すみませんでしたー。蓮二さん」










さっきまで重かった気持ちの変化に気付いたのは・・・。










「フフッ・・・」










もう少したってからだった。




















「苦しいー・・・」
「あれだけ食べれば当たり前ですよ」
「えっ?俺はまだいけるぜぃ?」
「・・・・・・・・・・・・・・。」










「ねぇ。
「んー?」








君なら聞いてくれるだろうか?
行き場のなかった僕の本音を。








「病院にいるときから・・・心が重いって言うか。
 妙に曇ってて気持ち悪いの・・・。なんでかな?」








は少しも悩まずに即答した。








「それって「寂しい」んじゃないの?」
「寂しい・・・?」

「うん。悲しいわけでも辛いわけでもなくて「寂しい」。
 心に穴が空いちゃったような、曇りがかったような気持ちのこと」










それだ・・・。

僕が抱えていた気持ち悪さ。原因がわからない重い気持ち。










「じゃあ幸村に聞くよ?」
「なに?」















「今は・・・寂しい?」















空を見上げた。















「あっ・・・」











さっきまでの暗い曇り空は今は晴れわたり、さっぱりした青空がずっと続いていた。










「寂しく・・・ない」










重かった心が今は軽い。

冷たかった心が今は・・・温かい。










「そう。よかったね!」










笑った君の顔は、今までの中で1番輝いて見えた。










ってすごいね」
「えっ・・・?」








幸村は の腕を引くと、そっと抱き締めた。











「幸村・・・?」

・・・ありがとう」








離すと幸村は満足そうに微笑んだ。










空は青く澄みわたり、優しい風が2人の髪を揺らした。















〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

幸村との絡みパート2。

急に、フッ・・・と寂しくなるときってありませんか?

そんな時は誰かに側にいてもらったり

笑っててもらえると・・・平気になるんですよね。

はい。私事です。





2007.4.27