心がフワリと浮いた時・・・


胸が少しだけ温かい時・・・


そんな時は、嫌な事も冷たい事も、


なにもかもが薄らいでいく。








No.17    『Fade』








。」
「うん?」






ここは部活を終えた部室。授業をサボった分のノートを写しながら は柳の顔を見上げた。






「なーに?」
「今日・・・」






柳が用件を述べると は笑ってOKサインを出した。






「いいよ!」
「悪いな。」






「何なにー?」
「なんの話っスかー?」






そこへ割り込んで来たのは真田の説教を受けたばかりのブン太と赤也だった。








「あ、お帰り。今日は何で怒られてたの?」
「えっ?ただ新技の練習してただけだよ。なぁ?」
「そしたら打ったボールが学校の窓ガラス割っちまっただけっスよ?」






と柳は同時に溜息をついた。






「で?で?何の話してたんだよ!教えろぃ!」
「別にたいした事じゃない」
「蓮二が今日うちに泊まることになったの」



「「へぇー。・・・えぇえー!!?」」








2人が同時に叫ぶ。
おかげでレギュラーはもちろん部員全員が 達に大注目した。



これは結構恥ずかしい・・・。








そんなことお構いなしといった様子で2人は続けた。








「嘘だろぃ!?」
「いや、本当だけど・・・」
「ズルイっスよ柳先輩!!」
「何がだ」



「何かあったんですか?」
「俺達も話に混ぜんしゃい」
「柳生に仁王!あのね、今日蓮二が私ん家に泊まるって言ったらこの2人がさ・・・」







しかしそれを聞いた柳生と仁王も動きを止めた。







「・・・泊まる?柳が ん家に?」
「いや、でも さんと柳君は従兄弟同士ですしね・・・」
「何の心配をしてたんだ」



「って言うか!従兄弟といえど 先輩の親は許すんスか!?」






バーンッ!と机を叩きながら身を乗り出す赤也。
柳はこれ以上赤也が詰め寄らないように同じ目線にある頭に手を置いて押し戻した。








「それは心配ない」
「なんで?」
「こいつは1人暮らしだ」















間。















「「「えぇえっ!!?」」」








「ひ、1人暮らし!?この歳で!!?」
「まさか・・・」
「本当だよ。」








は黙々と走らせていたシャーペンを止めるとノートを閉じて財布を柳に手渡した。








「じゃあ蓮二。夕飯の買い物お願いね?準備して待ってるから」
「あぁ。わかった」






はノートを返すと同時に帰り支度を始め1番に部室を出ていった・・・。































「柳ー!どういうことだよ!! が1人暮らしなんて聞いてねぇぞ!?」
「あぁ。言った事ないし聞かれた事もないからな」



「親はどうしたん?今どこにおる?」
「親?あいつの親・・・か」








柳は一瞬顔を伏せ足を止めた。








「聞いたら・・・あかんかった?」
「いや、悪いな。俺は何も知らないんだ・・・ところで」






柳はニンジンを手に取りながら振り返った。






「なんでお前達は買い物について来てるんだ?」
「まぁまぁ」
「気にしなさんな」
「気にするなと言われても・・・おいっ赤也、どこに電話してる」
「幸村部長と真田副部長っスよ!2人も今からこっちに来ます!!」






ボトッ。






柳の手からニンジンが離れた。




















ピンポーン。











バタバタッ・・・。






「はーい!」










ガチャッ!!










「お帰りなさ・・・」



「「「ただいまぁー!!」」」






バタンッ!!














ー!なんで閉めるんだよ!?」
先輩ー!!」






ドンドンドンッ!!!










「はぁ・・・」



激しくノックされる玄関の扉を背に は盛大に溜息をもらした。













の部屋はモノクロを基調にした家具が多く、
物を置きたがらないのかスッキリした部屋だった。






「ったく・・・なぁんで蓮二1人のはずが8人に増えたのかしら?」
「不可抗力だ」
。ゴメンネ急に押しかけちゃって」
「まぁ、来ちゃったもんは仕方ないか。すぐに夕飯作るから座って待ってて?」






柳が大量に買ってきた材料を使って が作ったのは大量のカレーライス。
普段は1人で座るテーブルには9人が囲むように座り、談笑しながら食べ始めた。













「うめー!」
「おかわりあるよー」
「俺おかわり!」
「ジャッカルは?」
「ん。もらおうかな」
ー」
「はいはーい!!」








多めに作ったはずのカレーは一気に無くなり、
全員夜中まで盛り上がるとプツンッと糸が切れたようにそこらへんで眠ってしまった・・・。















「はぁ・・・静かになったかと思ったら寝てるよ。こいつら」






1人1人に毛布をかけ終わると は溜息と共にソファに腰を下ろした。






「お疲れさん」






振り返ると柳がお茶を1つ に手渡し隣に座った。






「まったく。なんでテニス部全員集合しちゃうかなぁ?うちだって広くないんだから・・・」








言葉を止めると はフッと笑みを浮かべた。








「嬉しそうだな」
「えっ?」
「お前のそんな顔、久しぶりに見た」















いつもいつも見るのは作った笑顔。
心から笑っていない・・・偽造の笑顔。



こいつは本当に自分を隠すのが上手い。
でも今日改めて確認した。





こいつの本当の「顔」は・・・今のこの顔だ。















「そっちの方が可愛いんじゃないか?」
「はぁ?何言ってるんだか・・・」






俯き、顔を隠す を見て柳は肩を揺らして笑った。






次の朝・・・9人仲良く寝坊して大騒ぎになったのは・・・また別の話。















〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
柳が1番ヒロインに近い存在。

ヒロインの表情1つ見逃しません。

あぁ、さすが参謀(違うと思う)







2007.3.3