1人。


暗闇の中に閉じこもっていたとして。


その扉を開けて光を見せてくれる者が現れた時。


少し戸惑う・・・。


その手をとってもいいのか・・・と。








No.16    『Fade』








見据えたような眼。
嘲笑うような口許。
あの日、一目見て直感した。






こいつは「詐欺師」だと・・・。






詐欺師と言っても自分を騙す者と人を騙す者といるが・・・仁王は後者だ。
私は反射的にそんな仁王を他の奴等とは違う眼で見るようになっていた。






「最っ低!!」






バンッ!!






いきなり目の前のドアが開いたかと思えば、目に涙を浮かべた女子生徒が飛び出してきた。






「あ・・・」






一瞬目が合ったがそのまま階段を降りて行き、
残されたのは私と・・・仁王だけになった。










?」
「あ、お邪魔・・・だった?」
「いや、全然」






おいで。と手招きされ素直に仁王に近付くとフェンスに寄り掛かり隣り合うように座った。
空は快晴だった。






「今の彼女?」
「まさか。彼女になった気でいた女」






フッとあの時飛び出してきた女子生徒を思い出す。
可愛く見せようと化粧をした眼には涙があって、睨まれた・・・かもしれない。






「仁王って見るたび見るたび一緒にいる子違うよね」

「んー。あっちが勝手に寄ってくるんよ。
 付き合った覚えもないんに浮気だ何だ言いよる」

「それって言い寄ってくる子全員に優しくするから勘違いしちゃうんでしょ。
 本命とかいないの?」






「本命・・・ね」






ニヤッと笑ったかと思うと仁王の顔がグッと近付いた。






なら・・・本命にしてもよかよ?」



「・・・はっ?」






思わず間抜けな声を出してしまった。






「俺と付き合わん?今までの女全員別れるし」
「・・・バッカじゃない?」






ビシッ!と仁王の額にデコピンをくらわせると弁当を持って立ち上がった。






「生憎、私はそんな可愛い女じゃないの。仁王みたいな詐欺師とは付き合ってらんないよ」






目をパチクリさせている仁王に今度は私がグッと顔を近付けた。






「仁王。もう無理に自分を作るのやめたら?」
「はっ・・・?」
「疲れるでしょ。自分を偽って過ごしてると」
「作る・・・?偽る?何言っちょるんかわからんよ。
「あんたは顔が笑ってても・・・本心から笑ってない」
「っ!!?」






「人を騙すことは簡単でもね。自分を騙すことは難しいよ?詐欺師さん」






笑って・・・ は屋上から消えていった。










―― 自分を騙すことは難しいよ?詐欺師さん。










自分を騙す・・・?
あん時の 、顔は笑っとったんに冷たかった。
あれが・・・偽りの笑顔?















真上にあった太陽が傾いて放課後になると は鞄を手にテニスコートに向かった。






「結局裏庭で午後の授業サボっちゃったよ・・・あー!蓮二に怒られる!!」






よし。もしもの時はストーカー罪で警察に連絡を・・・。










ガンッ!!






「っ!!?」






後頭部に走る激しい痛み。

振り返ると、よく顔は見えなかったが立海の男子生徒が2人いて、
その中の1人が私の腹部に勢いよく拳を入れた。






ドスッ!!



「かはっ・・・!!」






体に力が入らない・・・
私の意識はそこで途切れた・・・。































ドサッ!!っと床に寝かせられる感覚に私は目を覚ました。






埃っぽい空気に、重ねられたマット。
野球のバットやボールが入った段ボール。



ここは・・・体育倉庫?






ズキッ。



「うっ・・・!!」






まだ頭が痛い。
それに、窓もない倉庫は真っ暗で心臓がドクッと嫌な音を立てた。

起き上がろうとしたが体が動かない・・・
驚き顔を上げるとさっき見た男が私の腕を押さえ付けていた。
そしてもう1人の男が私の上に馬乗りになると制服のボタンを1つずつ外していった。






「な、なにするの!?放して!!」






暴れてみたものの力じゃ敵わない。
シャツを脱がされながら、頭の中は恐怖で埋め尽くされた。










「いや・・・!いやぁあ!!!






バンッ!!






大きな音と共に暗闇に光が差し込む。
暗闇に慣れてしまった眼には眩しすぎて思わず固く目を閉じた。






バキッ!

ガタンッ!!






「な、何すんだよ!!」
「テメェ!!」






男達の叫び声が聞こえる。
だんだん光に慣れてきた眼に映ったのは・・・。








見据えたような眼。

それは鋭い刃のように、目の前にいる者達を突き刺していた。






「仁王・・・」



「うちのマネージャーに何しよるん・・・?なぁ、そこにいるんじゃろ?出てきんしゃい」






仁王の眼はある1点を見つめる。
そこには、あの屋上から飛び出してきた女子生徒が怯えるように立っていた。






「自分なにしたか分かっちょるん?」
「ご、めんなさ・・・だって、その子が・・・雅治の新しい彼女かなって、思った・・・から」
「だから?だから思い知らせてやろうとでも思ったんけぇ?こんな暇な奴等に頼んで?」






ビクッと女子生徒は体を震わせた。






「だ、だって!私まだ雅治のこと!!」
「黙りぃ」






仁王は背を向けると座り込む に近付き、その体を優しく抱き締めた。
あの眼が、今度は女子生徒を突き刺した。






「今度 に手ぇ出してみんしゃい・・・お前殺す・・・」
「ひっ・・・!!」






短く悲鳴を上げると女子生徒と男子生徒達はバタバタと体育倉庫から消えた。
仁王は から体を離すと乱れたシャツのボタンを直し始めた。






「に、仁王!いいよ!」
「少し静かにしんしゃい」






すべてのボタンを直し終えると仁王は眼を伏せ、コトンッと の肩に頭を置いた。










「初めて、だったんよ・・・」



「仁王?」



「無理すんなって、自分を騙すなって言われたんは・・・。
  に「もう無理に自分を作るな」って言われて
 なんか・・・楽になったんよ。気持ちが・・・それに」






顔を上げると仁王は眼を細めフッと小さく笑った。






「女にフラれたんも初めてやった。
 そのまんまの俺を見てくれた女は・・・
  が初めてじゃけん本気の本気で俺・・・ のこと好いとぉかもしれん」






人を騙し、自分をも騙し続けていた詐欺師は・・・
本心から笑顔を浮かべて1人のマネージャーを強く抱き締めた。















〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
はいはいはい。

詐欺師こと仁王との絡み後編です!!

な、長くない・・・?(汗)

書いといてなんですが・・・。

赤也と仁王よ・・・。

お前ら正義のヒーローかぁ!!!(えぇ!?)







2007.1.14