苦手とするものに襲われると


人は誰も自分を見失い冷静さを失う・・・。








No.14    『Fade』








『屋上・・・行ってみんしゃい』






なんで仁王先輩がそう言ってくれたのか分からない。
でも・・・俺は 先輩がどこにいるのかまったく見当がつかない。
だから仁王先輩の言葉をなんの疑いもなく聞き・・・今、屋上へ続く階段を駈け登っていた。





















「何も知らずに来るなんてね。 さん」
「・・・どーも」






連れてこられたのはやっぱりと言うか何と言うか・・・
告白やイジメには定番の場所、屋上だった。
雷の音がだんだん大きくなってきている。






屋上には7人の女子生徒が待っていて、私を連れて来た1年生の彼女は
リーダー格の女子に駆け寄ると制服をつかんだ。






「先輩やめましょう!こんなの!!」

「うるさいわね!1年のあんたは黙ってて!!」






バシッ!!






「っ!!?」






頬を殴られた彼女は私の方によろけてきた。






「大丈夫!?」
「・・・ごめんなさい」






涙ぐむ彼女にハンカチを渡すと私は女子生徒達を睨み付けた。






「殴る相手間違ってるんじゃない?」
さんがいけないのよ。忠告してあげたのにやめてくれないから」
「マネージャーのこと?」

「そうよ!テニス部のみんなとベタベタして!!どんな手使ったのか知らないけど
 あの柳君の推薦でマネージャーになっただなんて許さない!!」






「・・・それで?」






「あんなに忠告してあげたのにやめないんだったら仕方ないわ・・・。やめさせてあげる」








7人全員がポケットに手を入れると出てきたのはハサミとカッター。






「2度と学校に来られない姿にしようってわけ・・・?」
「いいえ。2度と外に出られない姿にしてあげるわ!」










バタンッ!!!










先輩っ!!」






勢いよく開いた扉と叫び声に全員驚いて目を向ける。
そこに立っていたのは荒く息をする・・・赤也だった。






「な、なんで赤也くんが!?」






赤也は女子生徒達が私に刃物を向けていることに気付いたのか・・・
怒りに満ちた顔で私の前に立ち塞がった。






「何してんだテメェら!!」






彼女達の体がビクッ!っと震えた。






「答えろよ・・・今、それで何しようとしてた・・・?」
「赤也っ!待って!」
「赤也くん・・・ご、ごめんなさ・・・」
「テメェら全員許さねぇ!!無事に済むと思うんじゃねぇぞ!!」
「赤也!!」






今にも飛び掛かりそうだった赤也にしがみついて暴れるのを止めると
女子生徒達は刃物をその場に落として泣きながらその場を去って行った。






「なんで止めるんスか 先輩!あんな奴ら!!」
「女の子殴ろうとするなんて最低だよ!頭を冷やしなさい!!」






怒鳴り返すと赤也はシュン・・・と静かになった。
まるで叱られて落ち込んでしまった子犬のような・・・。
「ちょっと言い過ぎたかな?」と思い、とりあえず赤也の頭を撫でておいた。



すると横からあの1年生の彼女が涙を浮かべながら頭を下げた。






「すみませんでした・・・ 先輩」
「気にしないで。慣れてるから」
「でもっ!」
「平気だから。あなたは何も責任感じることないよ」






柔らかく笑って言うと彼女は頷きながらゆっくり屋上を去って行った。






「赤也。」
「は、はい!?」
「部活行こっか!」






まるで何もなかったかのように・・・あの人は笑った。






先輩。こんなことされてもまだ他の先輩達には相談しないんスか?」






屋上から階段を降りる途中、雷の音を聞きながら 先輩はすぐに答えた。






「当たり前じゃん」
「・・・なんで?」
「みんなには・・・心配かけたくないし」






あんなことされたのに・・・



なんでこの人は笑ってられるんだよ?

腹立たねぇのかよ?

悔しくねぇのかよ!?















ゴロゴロゴロッ・・・!!






「雷近いねぇ」
「落ちるんじゃないっスかぁ?」
「まさか!落ちたら困るって!!」










ピシャーンッ!!



フッ・・・。










「っ!停電!?」






いきなり視界が真っ暗になった。
うっそ!?マジで落ちたよ雷!!やべぇ・・・何も見えねぇ。






「しょうがねぇな・・・復活するまで待つしか」










・・・・・ギュッ・・・・・!!










「えっ?」






急に背中に感じる温かさ・・・腹に回った両腕・・・
真っ暗で何も見えねぇけど、ここにいたのは俺と・・・。






「えっ、ちょっ! 先輩!?」
「・・・赤也・・・」






背中からギュッと俺を抱き締めてきた 先輩。






「ど、どうしたんスか?なんスか 先輩!?
 ヤバいっスよ!こんな誰もいないところでそんな!!」






って・・・何言ってんだ俺!?



1人で混乱していたその時・・・抱き付いていた腕が、体が、小さく震えていることに気付いた。






「あれ・・・? 先輩、まさか」
「・・・なに・・・?」
「暗いの・・・怖いんスか?」
「・・・・・・・・・・。」
「あ、あはは!冗談ですよ冗談!!まさかそんなわけないっスよねぇ!」





「・・・悪い・・・?」










・・・マジで?










「ダメ・・・なの。暗闇が怖いの。どうしても・・・だから」


「せんぱ・・・」










・・・やべぇ・・・。





可愛い・・・かも。










今まで強い姿しか見たことなかった・・・強くていつも笑ってて。
そんな 先輩が初めて俺に弱い所を見せた。






体の向きを変えて逆に俺から抱き締めてみた・・・
なんの抵抗もなく腕に収まる 先輩は見た目は背が高くても抱き締めてみると細くて
とても頼りない体だった。






「笑ってもいいよ・・・」
「いや、笑わない。別におかしくないし」
「えっ・・・?」






「怖いんだったらなにも1人で背負い込むことないっスよ。
 ダメな時はダメって誰かに助けてもらいましょうよ」






腕の力を緩めて、そっと顔に触れた。






先輩が助けてほしいときに「助けて」って言えば俺いつでも助けに行きますよ?
 それに他の先輩達だってきっと 先輩を助けてくれますよ!」






背中をポンポンッと叩いてあげると小さく笑う声が聞こえてきた。






「ありがとう。赤也」

「・・・どういたしまして」










誰にも聞こえないように、俺の胸が小さく高鳴った・・・。















〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
はい!赤也との絡み後編でした!!

大きいと思っていた存在が

チラッと弱いところを見せると

なんとか力になりたいと思うのが普通でしょうか?

私の場合「可愛い・・・」と思います(オイッ)







2006.12.9