心なんてものは、偽ろうと思えばいくらでもできる。


自分の意思でいくらでも騙すことができるもの・・・。








No.13    『Fade』








今日は朝練がない日。
それにも関わらずいつも通りに起きた私はわかっていながらも早く学校に向かい、まだ人の少ない門をくぐった。






涼しい風が髪をゆらす。
誰もいないテニスコートを通り過ぎると下駄箱へ向かった。








ガチャ・・・。



ドサドサッ!!








「うわぁ。今日はまた一段と・・・」






下駄箱の中から出てきた紙の山。
それはラブレターなんて可愛らしいものではなかった。






「マネージャーやめろ・死ね・ブス・・・やってる奴は暇だねぇ」






落ちてきたソレを拾い集めて立ち上がった。






もうずっと前からコレは続いている・・・ちょうど私がマネージャーになった時からずっと・・・。
下駄箱に大量の手紙、机の中にまた手紙、呼び出されたこともあった。






まぁどれも暇人の遊び、気にする事じゃない。











「あれ! 先輩じゃないっスか!!」
「えっ?あ、赤也!?」






後ろから聞こえてきた声に振り返ると嬉しそうに笑う赤也が立っていた。






「ん? 先輩、今なにか隠した?」
「別に!それよりどうしたの?赤也にしては早すぎ」
「いや、今日てっきり朝練あると思って・・・飛び起きて走って来たんスよ!」
「はぁ・・・」






起きた時に気付こうよ・・・。






溜息をつくと赤也を無視して歩き出す。
それと同時に赤也は身を屈め、床に落ちた1枚の紙を拾いあげた。






先輩?なんか紙落としましたよ」
「えっ?」
「手紙・・・?」








しまった・・・!!








「赤也!それは!!」






取り上げようとしたら赤也がそれをさせなかった。






「マネージャーやめろ・・・死ね?なんスかこれ!?」
「何でもないよ。私に届いたテニス部ファンからのラブレター」
「ラブレターなわけないじゃないっスか!!何でこんなもの!?」






心配そうな赤也にニッコリ笑みを向けるとゆっくりとその目を細めた。






「こんなの痛くも痒くもないよ。だから気にしないで?」
先輩・・・」
「それからこのことは他のみんなに内緒。いいね?」
「そんな!だって・・・!!」
「お願い。赤也」






俺は何か言おうとして止めた。






先輩が、今まで見たことないような・・・寂しい笑顔で笑ったから・・・。






「わかり・・・ました・・・」






思わずそう返していた。
次の瞬間にはいつもの明るい 先輩に戻っていて逆に
あの眼が、笑顔が・・・強く俺の脳裏に焼き付いた。































放課後。
やっと長い長い授業が終わった・・・って言ってもずっと寝てたんだけどね。






窓の外はちょっと怪しい曇り空・・・しかも雷が遠くから響いている。
私は鞄を手に廊下へ出た。






「やだなぁ・・・雷落ちなきゃいいけど」






「あの・・・ 先輩ですか?」






聞き慣れない声に振り返ると、おとなしげで可愛らしい女子生徒が
不安そうにこちらを見つめていた。
学校指定の靴を見てすぐに1年生だとわかった。






「なにか用?」
「あの、先輩にお話があるんです。お時間ありますか?」






お時間・・・ねぇ。
ありませんって言っても帰してくれないだろうな・・・。






「いいよ。どこで?」










着替えを終えて軽く体を動かす赤也はいつもはいるはずの人物の姿が見えないことに首をかしげた。






「・・・あれ?」
「どうした?」
「丸井先輩・・・ 先輩は?」
「そういや 遅ぇよな?」






いっつも1番で、コートの整備から何までやっちまう 先輩が・・・まだ来てない?






「珍しいですね。何かあったんでしょうか?」






『何かあった』・・・?






即座にポケットの中に手を入れ、1枚の紙の感触を確かめた。






「もしかして・・・」













ダッ!!








「赤也!?」
「すんません!用事思い出しましたー!!」






来た道を戻るように校舎に向かって走った。






まさか・・・まさか手紙の連中が 先輩を・・・?






校舎に向かう途中、部活に向かう仁王先輩と擦れ違った。






「赤也!?なに、どうしたん?」
「仁王先輩!あの・・・ 先輩見掛けなかったっスか!?」
・・・?」






それを聞いた仁王先輩は俯き・・・しばらくしてクイッと顎で空をさした。










「屋上・・・行ってみんしゃい」
















〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
お次は赤也との絡み前編でした!!

さぁ!どうする赤也!!

そしてどうなるヒロインちゃん!!!







2006.11.24