自分のことが嫌いな人間が・・・
誰かに愛される資格なんてどこにある?
No.8 『Fade』
マネージャーになってから少したって、だんだん仕事にも慣れてきた。
「
さん。ちょっと手伝ってくれない?」
「あ、うん。すぐ行く」
「足・・・どう?」
「もうほとんど痛みはないよ。大丈夫」
「そっか。ならよかった」
数日前に挫いた足には今だに白い包帯が巻かれている。
はそんなこと気にせず幸村と学校に入り、新しいテニスボールを受け取りに職員室へ向かった。
「ねぇ幸村?」
「なに?」
「1つ・・・聞いてもいい?」
ピタッと2人の足が止まる。
「どうしたの
さん?顔が怖いよ?」
「なんで私をマネージャーにしたの?」
廊下には他に誰もいなかったせいで声が澄んだように聞こえた。
幸村はフッと口許に笑みを浮かべる。
「あんな面接でよく選んだなぁ・・・って思ってね」
「僕と似てたからだよ」
「・・・はっ?」
「本当の自分を隠して、嘘の笑顔を並べて・・・。表面だけでうまく付き合ってるけど
あと1歩は絶対に踏み込ませない・・・。どこか不自然だ。君は誰にも心を許していない」
開いていた窓から風が入り込み
と幸村の髪をゆらした。
「君はなにかを隠してるね・・・それは何?」
「さぁ・・・忘れたよ」
スッと横に並ぶと、笑みを浮かべて言った。
「幸村・・・人はなぜ嘘を付くと思う?」
「さぁ・・・なぜなの?」
「自分の居場所を守るためだよ。ありもしない嘘を並べて相手を騙して。
偽りの世界に自分を置くの」
「・・・やっぱり君はわからない人だ・・・」
ニッコリ笑った
に幸村が何も言わずに動かないでいると
は何事もなかったように職員室に向かって歩を進めた。
■
「重ぉーい!」
「大丈夫?
さん」
「だ、大丈夫!!このくらい何でもないから!!」
受け取りに行ったテニスボールは段ボール2箱分!!どんだけ買ってんだよ!!?
持てなくはないけど・・・これはかなり重い。集中してないと落としそうだ。
「本当に大丈夫?」
「大丈夫大丈夫!!心配いらないよ!!」
そう言って私は目の前に立ち塞がるような階段を上り始めた。
「くっ・・・!段ボールのせいで前が見えない」
おぼつかない足取りで階段をゆっくり上って行く・・・
すると下から同じ段ボールを抱えた幸村の声が聞こえた。
「あ、
さん?」
「なに幸・・・・・・っ!!」
「
さんっ!!?」
振り返った瞬間、足を滑らせ地面の感覚が消えると体が空(くう)に浮いた。
反射的に固く目を閉じる。
ドンッ。
「わっ・・・!!?」
思ったより感じない痛み・・・その変わりに、柔らかい感触を感じた私は
恐る恐る目を開けてみた。
「ふぅ・・・危なかったね」
「ゆ、幸村!!?」
幸村は私の下敷きになりながらいつもの笑顔を向けてきた。
廊下に倒れ込んでいる私達の周りには散乱した黄色いボールが大量に転がっている。
「な、なにやってるの!大丈夫!?」
「
さんこそ・・・怪我しなかった?」
自分も背中を打ったはずなのに・・・
その腕は今だに落ちてきた私の体をしっかり支えてくれていた。
「私なんかどうでもいいの!幸村が怪我したら・・・」
「どうでもいい?」
いきなり幸村の声が低く、鋭くなったことに私は驚きを隠せなかった。
私の腰に回っていた腕に力がこもる・・・。
「どうでもよくないよ!!
さんはどうしてそう自分を大事にしないんだ!!」
ハァ・・・っと溜息をつくと幸村は私の髪にフワッと指を絡ませた。
「マネージャーでも、大切な仲間なんだから・・・どうでもいい人なんて1人もいないんだよ」
人は必ず誰かに必要とされ、人は必ず誰かを必要とする。
どうでもいい人間なんか1人としていない。
幸村は立上りボールを拾い集めると私に向かって手を伸ばした。
「さ、行こう。
」
「
?」
「僕もこれから
さん、じゃなくて
って呼ぶよ。いいでしょ?」
本当に・・・この男もわからない奴。
はゆっくり幸村と手を重ねると、ぎこちない笑顔を向けた。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
幸村との絡みでしたー。
間違ってもうちの幸村は黒ではありません。
いや、いや黒っぽいけど黒じゃないよ!?(意味不明)
2006.8.26