明るく振る舞っていればいい。


いずれそれが普通になって簡単に自分を騙すことができるから。








No.7    『Fade』








「うわっ・・・寝坊した」







テニス部の練習開始まで後10分。


・・・ただ今起床しました。










「やばい。間に合うかな・・・」






朝食は諦め、着替えを済ませると

「行ってきまーす!」

っと誰もいない家に向かって叫び鍵を閉めた。





そして悩んだ末、いつもは使わない自転車に乗り込んだ。










「ったくもー!昨日慣れない仕事したせいだ!!」






昨日は結局あれから赤也がしつこく試合を申し込んできて・・・
それから逃げるのに無駄な体力使ったんだった。










「やっぱり体鈍ってきてるのかな・・・?今日から筋トレ始めようかな」






悩みながら自転車を飛ばしていると見覚えのある後ろ姿を発見した。
向こうは向こうで自転車にも負けぬ早さで全力疾走している。










「赤也ー!!」
「えっ?あぁ! 先輩!!!」
「あんたも寝坊?」
「奇遇っスね!! 先輩もっスか?」

「誰かさんのおかげでね。じゃあ遅刻しないように頑張って・・・」

ちょっ!先輩だけ先に行くつもりっスか!?2人乗りしましょーよ!!」
「2人乗りは違反だからダメー。早く行かないと真田に怒鳴られるよー!」






赤也を追い越して腕時計を覗き込んだ。


うん。このまま突っ走ればなんとか間に合うかな。










先輩!!前っ!!!」


「えっ・・・!?」






ずっと腕時計に向けていた目を離し、前方に顔を向けると猫が1匹・・・
隣の公園から飛び出してきた。










「危ない!!」










キィイー!!!ガシャン!!!!!















「先輩!!?」
「いったー・・・赤也。猫は?」
「驚いて逃げて行ったっスよ。それより 先輩大丈夫っスか!?」
「平気平気。ちょっと転んだだけだし・・・」








ズキッ。








「あ・・・れぇ?」
「どうしたんスか?」
「赤也・・・やばい」
「へっ?」
「足動かない」
「えぇー!!?」






まいったなぁ・・・痛い。
転んだときにハデにくじいたかなぁ。






「まさか捻挫!?」
「あるかも。でも困ったなぁ・・・遅刻決定」
「そんなこと言ってる場合じゃないっスよ!!」
「えっ赤也?うわっ!!」






倒れた自転車を起こして赤也は座り込んでいた私を
軽々と抱き上げると自転車の後ろに乗せた。






「ちょっ!赤也!?」
「しっかりつかまってて下さいよ?飛ばしますからね!!」






ペダルに足をかけ、ものすごいスピードで自転車をこぐ赤也。
私は落ちないようにつかむ腕に力を込めた。






「赤也!私大丈夫だって!!」
「足怪我してるくせに1人で学校まで行くつもりっスか?
 本当はすっげー痛いんでしょ!俺も経験あるからわかるんスよー」






いや、にしても飛ばし過ぎじゃない!?


言ってやりたかったが落ちないように赤也にしがみつくのに必死だった。






「はい!学校到着ー!!」
「早っ!!もう着いたの!?」






駐輪場に自転車を止めて赤也は座っていた私をヒョイっと抱き上げた。






「ちょっと!赤也なにやってんの!?」
「このまま部室まで行きますよ」
「いいってばー!!!」








運良くテニスコートが近いせいで、誰にも見られずすぐに部室へ到着できた。


部活やる前から疲れたよ・・・もう。









バタンッ!!









「幸村部長ー!!」
「赤也!」
「あー! ー!?」
「なにしちょるん!!?」
「いや、ちょっとコケちゃってね・・・足が」






ストンッとイスに座らされると薬箱を持った幸村がそっと私の足に触れた。






・・・結構酷いよ?痛かったでしょ?」
「少しね」
「うわっ!少しって・・・めちゃくちゃ腫れてるじゃないっスか!!」
「痛そー・・・」
「平気だって」






丁寧に包帯を巻いてもらったら足の痛みなんて気にならなくなった。
幸村の手当てがうまいことがよくわかる。






「大丈夫なのか?」
「全然平気!問題なし!」
「でも一応病院に行ってみてね」
「わかった。ありがとう幸村」






どういたしまして。
そう言って幸村は薬箱を戻しに部屋の奥へ入っていった。










あぁ見ると幸村ってテニス部のお母さんみたいだなぁ。






「ちぇ・・・なんスかぁ?幸村部長にはお礼言ったのに
 ここまで運んでくれた俺には何もないんスか?」

「あれ。拗ねちゃったの赤也?」
「別に!」






プイッとそっぽを向く赤也。
子供っぽいとは思ったけど・・・こっちはまるで子供じゃん。
お母さんも手ぇ焼くね。






「赤也、ありがとう。おかげで助かったよ」


「・・・へへっ・・・」






照れながらも少し嬉しそうに。
赤也はニィッと笑顔を浮かべた。
















〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
赤也はワンコだと思う。

あ、赤毛のあいつもワンコだわ。







2006.8.17