嘘は嫌いじゃない。


汚い現実をすべて隠してくれるから。








No.6    『Fade』








「っとまぁ・・・だいたい仕事はこんな感じかな!」
「うんうん」
「じゃあ外に出て練習をするみんなのサポートをお願いしてもいいかな?」
「わかった。練習の時間削ってもらっちゃって悪かったね」
「いいよ。僕の方こそ無理やりマネージャーやらせたことは謝るよ」
「気にしてないよ。マネージャーになった以上、私は自分の仕事をやるだけだから」

「ありがとう。あ・・・ちょっと待って!」



部室を出ようとした を呼び止めると幸村はゆっくり窓に近付き
練習をするレギュラー陣を見つめた。





さん は最初、僕に言ったよね?『あんたの笑顔って嘘だらけね』って・・・」
「それが?」
「君の笑顔こそ・・・本物じゃないんじゃない?」



に向き直ると幸村は真剣な顔をして見せた。
はそれに対しフワッとやわらかい笑顔を向けた。





「じゃあ・・・私もあんたの言葉を借りるよ。
 『言ってる意味がわからない』・・・あんたとは仲良くできないみたいね幸村?」








パタンッ・・・。








「そうかな?」



部室を出て行った を窓越しに目で追いかけながら呟いた。








「僕は仲良くできると思うけどなぁ。ますます興味が出てきたよ」





















先輩―!!」
「ん?あんたは確か・・・切原?」
「赤也!赤也でいいっス!!」



飛んできたのは2年の赤也。
その後ろから赤い髪のブン太が顔を出した。



「俺はブン太。シクヨロ!」
「赤也にブン太ね・・・今、休憩中?」
「そうっス!」
「俺の天才的なプレー見れなくて残念だったなぁ」



ブン太の言葉に は「ん?」と首をかしげた。



「天才的?あぁ・・・さっきチラッと見たけど、あのボレーのこと?
 でもあれはパートナーがいなければ難しいし、反対サイドを狙われたら終わりだね」

「うっ・・・!!そんなことねぇよ!」
「私がテニスを教えてあげようか?」
「「えっ?」」



2人は同時に聞き返した。



ってテニスできんの!?」
「まぁね。そこら辺の奴等より強いよ?私は」
「じゃあ試合しましょうよ!俺と!!」



赤也は嬉しそうに手を上げた。
それを見た は「いいよ」と短く返事をして後ろにいた柳の元へ向かった。











「蓮二。ラケット貸して」
「本気でやるのか?」
「当然でしょ。あのエース君がどれほど強いのか・・・見定めだよ」



悪戯っぽく片目をつむって見せると柳のラケットを手にコートに入った。











「赤也の奴、とんでもない女に試合を申し込んだな・・・」

「柳ー! がいくらテニスできるからって試合して大丈夫なのかよ?
 相手は赤也だぜぃ?」

「心配なのはむしろ赤也だ。あいつを・・・ を甘く見ない方がいい」















「じゃあサーブはそっちからでいいっスよー!」
「余裕だね。じゃあ遠慮なく行かせてもらうよ」



がサーブを打って試合は始まった。















パンッ!





バシッ・・・ビシィ!!








「0−1!!!」

「やりぃ!どーしたんスかぁ?こんなんじゃ試合最短記録できちゃいますよー?」



笑いながらラケットを回す赤也に、 はニコッと笑みを向けた。



「フーン・・・こんなもんか」
「はっ?」
「続けようか。試合はまだ終わってないからね」




















ビシッ!!!



・・・パンッ!!!








「くそ・・・しつけぇ」
「もうバテたのー?」
「まさか!!」





「なんだあいつ!!?」
「あの赤也について行ってるぜ?」
「いや、赤也が押されちょる」
「何者ですか・・・?彼女は」



「あいつは無駄に1ゲーム落とすことはしない。赤也の力量を計っていたんだろ」
「しかし、あのテクニックは・・・」








ギュン!!!








「あっ!!!」

「3−1!!」





「強ぇ・・・」
「今のショットはそう簡単にできるような技じゃねぇ」
「蓮二・・・あいつは何なんだ?」



真田の質問には答えず、柳はじっと試合を見つめた。





















「5−1!!!」

「くっ!」
「弱いねぇ・・・2年エースの実力ってこんなものなんだ?」

「弱くねぇ!俺は・・・俺は1番強くなるって決めたんだ!!
 こんなとこで女なんかに負けられっか!!!」

「えっ・・・」



赤也の言葉に の動きが一瞬止まった。



?」
「・・・どうしたんですか?」



はラケットを握り締めると大きく息を吸った。











「やーめた!」

「「「はぁ!?」」」





「もう試合やめよ!中止!!!」
「なんで・・・!!逃げるんスか!!?」
「逃げる?余裕で勝てる私がわざわざ逃げるわけないでしょ。やる気無くしちゃったの」
「なんスかそれ!試合を途中で放棄するんスか!!」



「違う。赤也がもっと強くなったらまた試合をやるの」
「はぁ?」
「それまでこの試合は保留ね」



コートに背を向けると は手に持っていたラケットを柳に返した。





「どうした?試合をやってるとき、昔の顔に戻ってたぞ」
「別に。蓮二んとこのエースが弱過ぎて呆れてるだけ」








コートの真ん中でポツンッと立っている赤也に向かって笑みを向けると
はあの言葉を頭に響かせた。















――― 1番強く・・・なるんだ ―――
















〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
ヒロインのテニススタイルは

1ゲームは相手と打ち合って力を計り
弱点を突いて一気に勝利。

データテニスに似てる・・・。







2006.7.13