自分を騙すなと言った君・・・。
空っぽだった俺の中に入り込んできた君・・・。
貴方は本当は優しい人なんだよね。
No.18 『隙間と存在』
「えっ?仁王がいない?」
「えぇ。最近・・・どうも様子がおかしいんです」
柳生は小さく息を吐く。
表情から本気で仁王を心配しているようだった。
「様子がおかしいって?」
「元々、自分の事を多く語る方ではありませんが・・・
最近何かに悩んでいるようで。聞いても話してくれないんです」
「悩んでる・・・?」
「彼らしくありませんが」
窓の外に目を向けると、どんよりとした重たい雲が空を覆い隠していた。
「わかった。仁王を見かけたら「柳生が心配してた」って伝えておくよ。じゃあね!」
柳生に向かって軽く手を振ると、
は背を向けて一目散に屋上へ続く階段を駆け上がった。
ガチャ!!
「ハァーハァー」
息が上がる。まぁ、廊下から階段まで早足でくれば当たり前なのだが・・・。
屋上へ到着した
は、呼吸を整えながら辺りを見渡した。
「あれ・・・?ハズレだったか」
「いんや。当たりぜよ」
上から聞こえてきた声に驚いていると、仁王は笑いながら扉の屋根から飛び降りてきた。
「ようここが分かったのぅ?」
「仁王は太陽が苦手でしょ?曇りの今日は絶好のサボり日和じゃない」
「まぁー。50点ってところじゃな」
仁王の厳しい採点に
が首を傾げると、仁王はまたニヤッと笑った。
「
を待っちょった」
「はっ?私?」
「そ。柳生に頼んだ」
その瞬間、
の中で話の全てが繋がった。
「うわっ・・・ハメられた。まさか柳生がグルだったなんて」
「試合で俺になりすますくらいじゃからのぉ。柳生も演技が上手くなったもんよ」
「本気で心配してたのに・・・仁王が何かに悩んでるって柳生が言うから」
「えっ?」
その言葉に仁王は一瞬動きを止めた。
「どうしたの?仁王」
「あ、いや・・・何でもなか」
首を振ると仁王は
の手を握り、1番奥のフェンスまで引っ張り腰を下ろした。
「・・・座れって?」
「プリッ」
大人しく隣に座る
を見て、仁王は薄く笑みを浮かべた。
「あーぁ。授業サボったらまた蓮二に怒られちゃうじゃん」
「悪い子じゃなー。
チャン」
「仁王のせいだってば」
そよそよと髪を揺らす柔らかな風に、仁王と
は静かに目を閉じた。
「なぁ、
」
「ん?」
「柳生に何言われたんか知らんけど・・・何で俺を探した?」
「えっ?」
「俺が何かに悩んどるって柳生に聞いても、それが直接俺を探した理由にはならん。
聞き流して授業に出ればいい話じゃろ?」
「聞き流せなかったから、探したんだよ」
「?」
は仁王に顔を向けると優しげに目を細めた。
「嘘でも本当でも仁王が悩んでるって聞いて私はすごく心配した。
だから探した。理由なんてこんなもんだけど、何か問題でも?」
「いや・・・ない」
「まぁ結果、嘘だったのならそれはそれで安心したけどね。
騙したんだから今度何か奢ってもらうよ?」
「騙したのは柳生じゃけぇ、俺は関係ない」
「うっわ!最低!悪詐欺師!!」
「どーもありがとう」
「褒めてないって」
それから他愛もない話しばかりを延々として、少し風が肌寒く感じられるようになった頃・・・
授業終了を知らせるチャイムが鳴り響いた。
「あ、授業終わった」
「もう?まだ平気じゃろ」
「ダメダメ。次の授業までサボったら蓮二に殺される。それに・・・仁王も大丈夫そうだし」
「ん。
・・・」
「なに?」
「・・・あー。何でもなか」
「なにそれー?変な仁王。あ、いつものことか」
「オイッ」
あはははっ!と高く笑うと
は軽く手を振って屋上から去っていった。
「はぁ・・・」
軽く息を吐くと仁王は空を見上げて目を閉じた。
「意識せんように、すればするだけ・・・」
のことが・・・欲しくてたまらなくなる。
調子狂う・・・。
いつから・・・あいつは俺の中で、あんなにデッカイ存在になったんじゃろ?
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
揺れ動く詐欺師。
なんだかんだ柳生も結構詐欺師だと思う。
詐欺師な柳生か・・・・・。
いいっ!!(落ち着け )
2009.12.23