無茶はするなと怒った君・・・。


周りの仲間を見ろと言った君・・・。


どちらも貴方の強さなんだ。













No.13    『時間と瞬間』













「さーなだ!!」
「っ!?・・・ か」
だ」










は低めのフェンスを跨ぐと真田が座っているベンチに腰掛けた。










「女子がそんなはしたない事をするな」
「大丈夫だよ。真田だし!」










真田はハァ・・・。と溜め息をつくとまたパラパラと何やら資料のような物に視線を戻した。










「・・・何かあったのか?」

「はっ!?な、なんで?」
「お前が何も語らずに隣に座ってくる時は・・・何かあった時だ」
「・・・お父さんかよ」










は青い空を見上げると全身の力をベンチに預けた。










「真田の大切なモノって・・・何?」
「大切なモノ?」
「うん。私は・・・分からないんだ。自分が1番大切なモノ」










真田は資料を閉じて視線を真っ直ぐ に向けた。










「大切なモノってなんだろう・・・。失いたくないモノ?離れたくないモノ?
 思い入れがあるモノ?分かりそうで分からないの・・・幸村が言った、言葉の意味が」

「それは・・・そんなに難しい事なのか?」
「えっ?」










真田は資料が挟まれたファイルを横に置いて腕を組んだ。










「幸村が言うから難しく聞こえるのかもしれんが・・・そもそも理由が必要な物なのか?」
「理由・・・?」

「お前の話を聞いていると理由を探してるようにしか思えない。1番大切なモノは何なのか・・・
 それはなぜ大切なのか・・・それ以外は大切じゃないのか・・・。考えすぎて疲れた顔をしている」










パッと両手で顔を確認すると真田がフッと笑って私の頭に手を置いた。










「難しく考えることはない。今お前の目の前にあるモノ・・・
 無条件で愛せるモノ・・・それが大切なモノなんじゃないのか?」










真田・・・1人で戦ってきた彼は、今まで仲間との絆というものが何なのか気付いていなかった。
だからこそ、今は・・・誰よりも人を気遣う優しさを手に入れた。










タイミングよく学校にチャイムの音が響き、生徒全員に休み時間終了を知らせた。
あまりのそのタイミングのよさに、私は真田に向けた言葉を言えずそのまま飲み込んだ。










「じゃあな、 。たまには部活にも遊びに来るといい」
「う、ん・・・」










廊下に消えていく真田の背中を見つめながら、私はただ自分の鈍さに腹を立てた・・・。




















午前中の授業が終わり、男子にも負けない早さで購買へ駆け込むと
人気でなかなか手に入らないと噂だけ聞いていたデザートのプリンを購入した。

その接戦の中お目当ての物を手に入れたまでは良かったが
あまりの疲労感に2度と購買戦争に加わるものかと心に決めた。





スプーンも忘れずに貰ってから私は真田のクラスを覗き込んだ。










「あれ・・・。真田いない?」
「何をやっているんだ。
「のわっ!?」










背後から声をかけられ思わず叫びながら後退ると、そこには真田が私を見下ろしながら立っていた。










「何だそのリアクションは。お化けが出たわけでもあるまいし」
「いや、真田だったらお化け以上の恐怖を感じるよ」
「失礼な・・・」










私は冗談だよ。と笑って言ったが、赤也やブン太辺りなら
激しく同意してくれそうだなぁ・・・っと心の隅で思った。










「珍しいじゃないか。 がうちのクラスに来るなんて」
「あっ、これ渡しにきたの!」
「・・・プリン?」
「お礼だよ」
「なんのだ?」

「相談に乗ってくれた・・・」










真田は少し考えると「あぁ」と漏らした。










「別にたいした事など言っていない」
「うん。でも・・・真田のおかげで大切なモノ分かったし!気持ちもすごく軽くなったから・・・」
「ほぅ。分かったのか」
「うん。」










は優しく目を細めると真田にプリンを手渡した。










「真田の言う通り明確な答えなんて私にはなかった。私の1番大切なモノは・・・「時間」だったんだよ」

「時間・・・?」

「うん。今もこうして真田と話してる時間・・・赤也やブン太達とバカ話をしてる時間・・・
 仁王と悪戯して蓮二に怒られる時間・・・。何でもない時間だけど、私にはその一瞬一瞬がすごく濃くて・・・愛しいの」

「そうか・・・」










その瞬間、真田の優しく細められた目に は思わず見とれた。










「俺も・・・そうだ」

「えっ?」

「あいつらとテニスをしている瞬間・・・ とこうして話す瞬間・・・
 何でもない日常だが俺にとっては掛け替えのない時間だ」

「うん・・・」

「それにはまず、あいつらの存在が必要だ。そして ・・・お前も必要だ。お前も大切な、俺達の仲間だ」

「さな・・・」










その言葉・・・前にもどこかで・・・。










「忘れるなよ。お前にはいつでも頼れる奴らがいるってことを」










それだけ言うと真田はポンッ!と私の頭を1つ叩いて自分のクラスに戻っていった。










「忘れるわけないよ・・・」










小さくそう呟いてから私は顔が熱くなるのを必死に隠したのだった。










その後、真田が昼休みにプリンを食べていたという噂が
都市伝説並にテニス部内に広まったのは・・・また別の話である。















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真田さん。好きだー。

うちの真田さんは一期の最初の方から
なんだかキャラ変わりました。

柳が「兄」なら真田は「親父」にしたい。

頼れる親父にしたい・・・ごめん。真田。







2009.3.29