昔から・・・


人の気持ちを考えるということが苦手だった気がする。













No.7    『近い存在だから』













私の周りには、どうも考えが読めない奴らが多い。





例えばいきなりほっぺにキスをしてきた詐欺師。

例えば無表情のままノートに何かを書き続ける従兄妹。

例えば目の前に座ってムスッと膨れっ面の後輩。










「さっきから何なの?赤也」

「見張ってるんスよ」

「私を?何で」

「また襲われないか心配してるんです」

「何に襲われるっていうのよ。学校の・・・しかもテニス部の練習場の目の前にいるのに」










私は今、テニスコートのそばにあるベンチに座って見学をしている。
すると赤也が寄ってきて今の状況に至ったわけだ。










「そんなんだからダメなんスよ!!」










赤也はなぜか急に怒りだし私は目をパチクリさせるしかなかった。










「花火したあの日!仁王先輩に何されました!?」

「・・・ほっぺにキス?」

「それっスよ!危機感とか全くないんスか 先輩には!!」

「いや、キスっていってもほっぺだし・・・。危機感もなにも仁王はふざけてしただけだし・・・」

「ふざけて?そんなわけないじゃないっスか!あの人絶対に
 野放しにしてたらまた襲われますって!もう少し警戒心持ったらどうなんスか!?」










赤也の気迫に圧され、思わずウンウンっと頷いてしまった。










「なんじゃい。そこまで言われると心外じゃのぅ」

「仁王!」

「ゲッ!出た!!」

「どういう意味じゃい」










後ろの木の影から姿を表した仁王。いつからそこにいたんだ・・・。










「別に は嫌がってなかとよ?嫌じゃないんなら嬉しかったっちゅーことじゃろ?」

「そ、そんなわけ無いっスよ!ねぇ 先輩?」





パンッ!パンッ!










乾いた音が2つ響く。

蓮二が持っていたノートで赤也と仁王の頭を叩いた音だった。










「くだらない話をしてる暇があったら練習してこい。弦一郎が睨んでるぞ」

「ゲッ!やべっ!!」

「何で俺まで・・・」

「いいから行ってこい」










蓮二の一喝で2人は大急ぎでコートへ戻って行った。
溜息をついて私の隣に腰を下ろす蓮二を見て思わずクスッと吹き出してしまった。










「高校生になっても相変わらずだねぇ。あいつらって」

「あぁ、そうだな」

「ねぇ、蓮二。私決めたの」










ベンチから立ち上がってクルッと蓮二と向かい合うと、ずっと言おうと思っていた私の決断を伝えた。










「私・・・もう1度テニスをやる」



「・・・そうか」










蓮二は一瞬驚いたようだったけれど、すぐに笑って私の決意を受け入れてくれた。










「女子テニス部に入るのか?」

「いや、部活には入らない。スクールに入ろうと思ってるの」

「少し、残念だな」

「どうして?」

「お前がまたマネージャーをしてくれることを・・・実は期待していたんだ」










私を見上げながら笑う蓮二は、中学のときと比べてずっと大きく・・・ずっと温かかった。










「ありがとう。蓮二」



「・・・・・・・・・・・・・・・。」










バチコーン!!!



「いっ!!?」










いきなりデコピンをくらい、私は訳も分からずただただ蓮二を睨むばかりだった。










「成長したなぁ」

「は・・・はぁ?










私が間抜けな声をあげるとクックッと肩を揺らして笑い、しばらくしてからニヤッと口元を上げた。










「お前が「ありがとう」なんてな」

「えっ?」

「昔のお前だったら「ごめん」っと言ったな。それも苦しそうな顔で」

「あっ・・・」










相手の気持ちを考えようと緊張していて・・・

相手の気分を悪くしないように1歩引いていた昔の私。

謝罪の言葉より先に、感謝の言葉が自然と出てくる今の私。










、人の気持ちを考えるということは自分の気持ちを偽るのとは違う。
 誰かのために自分の感情を押さえ込むなんて間違ってる」



「それも、昔の私?」










フッと笑うと蓮二はラケットを持って立ち上がり、私の頭に
手を置くと何も言わずにコートへ戻っていった。










「蓮二・・・」










蓮二は昔からそうだった。

大切な事を言わない・・・大事な事には絶対触れさせない。

1番近いようで1番分からない・・・そんな存在。










「ん?」










コートを囲むフェンスの向こうで赤也が両手を広げて手を振っている。
そこへ蓮二がやってきて赤也の頭を1発殴ると、ジャージを引っ張ってズルズルと引きずって行った。



最後に・・・こちらを振り向いた蓮二が小さく手を振ったのが見えた。















〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

「ごめんね」から

「ありがとう」に。

えー。次回からあの学校が登場です。








2008.12.14