タッタッタッタッタッタッ・・・!!
「ハァ・・・ハァ・・・」
No.3 『変わる瞬間』
バタンッ!!
「
先輩が立海受けるってマジっスか!!?」
部室の扉を勢いよく開けてやってきた赤也に全員が呆れた顔をしてみせた。
「誰だ。赤也に
のことを教えたのは」
「悪ぃ。俺ー」
「そんな騒ぐことでもないだろ。
ならここの編入テストくらい何てことはない」
「受かる受からないの心配なんて元々してないっスよ。じゃなくて!
何で俺には内緒だったんスか!?別に教えてくれたってよかったのに!」
「教えたら騒ぐじゃろ。赤也は何か?
コンか?」
「シスコンやブラコンみたいな言い方しないでくださいよ!!」
「まぁまぁ。とりあえず落ち着いたらどうですか?」
「だって仁王先輩が!!」
「プリッ」
柳生が2人の間に入って落ち着かせると、ブン太がパチンッと膨らませていたガム風船を破った。
「
・・・」
「そうっスよ!丸井先輩が教えてくれなかったら、俺ずっと知らないまま」
「じゃなくて!!」
ブン太が赤也の後ろを指差す。
ゆっくり後ろを振り返ると・・・。
腰に両手を当てて笑う
が立っていた。
「うわっ!
せんぱ・・・!?」
「ずいぶんな挨拶ねぇ?赤也は
コンだったのか。そうかそうか」
「なんでここに・・・!!」
「俺が呼んだ」
柳がサラリッと答えると
と目を合わせた。
フッとお互い笑みを浮かべ・・・まるで目だけで会話をしているように見えた。
「まずは・・・みんなに謝らなきゃ」
背負っていた鞄を下ろすと、小さく頭をさげた。
「勝手に消えて、長い間連絡もしないで、心配かけて・・・すみませんでした」
しばらくの沈黙の後・・・パッと顔をあげると、全員が懐かしい顔を揃えて笑った。
「ふざけんな!って怒鳴ってやりたいけど・・・」
「その顔見たら力抜けたわ」
「帰って来ただけよしとするよ」
別れ・・・そして再会。
あの夏の日の出来事を共に乗り越えたこのメンバーは、約束をずっと守ってくれていた。
――― 「ずっと、お前の帰りを待つ」
――― 「お前の居場所は、ずっと空けておく」
ずっと・・・ずっと待っていてくれた。
私が帰ってくるのを待っていてくれた。
だから私も約束を果たさなければならない。
「私・・・変わるから」
■
飛行機に乗って日付変更線を飛び越える。
そして到着したのは言葉がまったく通じない国。
一応これでも学校の必修科目で勉強していたかいもあって、人に聞きながら目的地までたどり着くことができた。
「ここ・・・か」
激しく波打つ心臓の音に焦りながら、深呼吸をしてチャイムを鳴らす。
ピンポーン。
「はーい!!」
ガチャ!!
笑顔で扉を開けた人物は、何年ぶりだろう・・・私のお母さんだった。
「えっ・・・」
「久しぶり・・・お母さん」
取り乱されるかと思ったけど、お母さんは案外落ち着いていて
無言で家の中に戻るとお父さんを連れて戻ってきた。
「
・・・」
「お久しぶりです。お父さん・・・」
少しの間を置いてからお父さんに家の中に招き入れられた。
「ここまで、何しに来た」
「あっ・・・。あの、私は・・・」
ドクンッドクンッと心臓が弾けそうになるのをグッと堪えた。
怖い・・・逃げたい・・・!!
服をギュッと握り締めた時に頭の中に響いてきた声・・・。
――― 「大丈夫っスよ!
先輩」
――― 「お前笑うとすっげぇいい顔すんのな!」
そうだ。私はもう・・・1人じゃないんだ。
震えが止まった。
背筋を伸ばして、胸を張って・・・
大きく息を吸い込んでゆっくり吐くと今まで抱えていた不安を一気に吐き出した気分になった。
「けじめを、つけに来ました」
「けじめ・・・?」
2人と向かい合うように座って話をする。
ただし漂う空気は正直、親子の雰囲気では無かったが。
「今まで私は自分を罪人として恨み続けてきました。ずっと・・・。
直也を殺したのは私だと・・・そう思い続けてきました。でも、ある人達に出会ったんです」
本気で私を見てくれる。本気で気持ちをぶつけてくれる。
本気で気持ちを受け止めてくれる。本気で私を救ってくれる。
そんな・・・人達。
「直也は私を助けてくれた。だから私は、もう自分を恨むのを止めます・・・。
直也の分も、楽しく笑って生きていきます」
いいよね・・・?
直也。
「お父さんとお母さんが私にしてきた事は恨みません。だから・・・私の事も、許してください」
目を閉じて頭を下げていると、お父さんの手が私の頭に触れた。
「私達も・・・悪かった」
想像していなかった言葉に思わず目を見開いた。
「直也が死んだ悲しさをお前にぶつけた事・・・そしてお前を1人残してしまった事。許してくれ」
「お父さん・・・」
お母さんは席を立つと私の隣に歩み寄り、その両手で優しく私を包んでくれた。
「ごめんなさい・・・
」
「お母さ・・・」
涙が溢れて止まらなかった。
全てが終わったような安心感からか・・・涙は流れ続け止まらなかった。
気のせいだろうか・・・。
直也がそばで嬉しそうに笑っている気がした・・・。
それから私がしたことは、ひたすらテニスの大会に参加すること。
どんなに小さな大会でも、参加できる大会には参加した。
数年後、優勝できたのはたった2つ。
その中の1つの優勝カップは両親に渡した。
昔は優勝なんてしなかったから、1度はテニスを教えてくれた恩返しを形にしたかった。
そして、もう1つの優勝カップを持って・・・私は帰って来た。
帰って来て1番最初に向かった場所・・・それは直也の眠る場所だった。
「見て。私の優勝カップだよ」
直也に見せるように優勝カップを置く。
私が持っていても仕方ないし・・・これはここに置いていこう。
「もう、手抜きなんてしないからね・・・」
これは、直也への「誓い」のような物だから。
こうして、あの人達と再会した私。
変わるよ。絶対に。
みんなが応援してくれたから・・・。
今度は自分から・・・自分の力で。
「変わるから・・・」
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
決着を付けに行ったお話しでした。
とんでもない親ですね。(お前が書いたんだっつーの)
そして学校の授業で英語を習ったくらいで
本場の国で人に道を聞いてそれを理解できるなんて・・・。
無理だと思いません!?(だからお前が書いたんだっつーの!!)
2008.8.26