人によって優しさの「形」は違うもの。
貴方の優しさはどんな「形」ですか?
cry.13 〜 Don’t cry 〜
「・・・ふぅ」
息を1つ吐くと
は整備が整ったコートを見渡し「よし」と頷いた。
「やぁ!
さん。ずいぶん早いね?」
「大石先輩・・・。こんにちは」
「こんにちは。授業が早く終わったの?」
コクンッと頷くと大石は笑って「そっか」といった。
「うわー。もしかしてコート整備1人でやってくれたの?」
「えっ。あ、はい」
「大変だったろ?」
「いえ・・・マネージャーの仕事なので」
「そっか」
おもむろに
の頭に触れると、大石は優しい笑みを浮かべながらそっと髪を撫でた。
「いい子だね。
さん」
「えっ・・・?」
が聞き返すと大石は「あっ!?」と言って手を離した。
「ご、ごめん!嫌だったよね!?」
顔を真っ赤にしながら謝る大石に、
はフッと笑みを浮かべた。
「いいえ。ありがとうございます・・・大石先輩」
「えっ!あ、あはは」
顔を赤くしながら自分の頭をかいて照れている大石を見て、
はクスクスッと笑った。
「なんかね、ほっとけないんだ」
「えっ?」
「
さんのこと・・・何でだろうね?」
ニッコリ笑いながらそんなことをいう大石に
は目をしばたたかせた。
天然なんだろうか・・・この人は?
「英二が言ってたんだ。
さんは不思議だって」
「私が?」
「なんだかね・・・守ってあげたくなるんだって」
「はっ?」
間抜けな声を出すと、大石は顎に手を添えて唸った。
「うーん・・・違うなぁ。なんて言えばいいんだろう?手伝いたくなるんだ。仕事や作業を」
「えっと・・・どうして、ですか?」
大石は今度はニッコリ笑いながら言った。
「特に理由なんかないよ。一生懸命な人を見ると、自分に出来る事はしたくなるんだ。
優しい人が人に優しくされるように、きっとみんなも
さんの頑張ってる姿に
何か動かされるものがあるんだと思うよ」
は何も言えず、ただその場に立ち尽くした。
頭の中では、大石の言葉が何度も繰り返されている。
「
さん?」
「えっ?あ、はい」
「大丈夫?ボーッとしてたけど」
「いや、あの・・・初めてで」
「初めて?」
「そんな風に言われた事・・・なくって」
の反応の理由が分かった大石は、まるで何か愛おしいものを見るように目を細めた。
「じゃあ、これから分かっていくね」
「えっ?」
「
さん自身が、テニス部でどんなに存在になっているのかってこと。実感っていうのかな・・・」
「実感・・・ですか?」
「うん。きっとすると思うよ!」
はその瞬間、大石の優しさに納得した。
この人は本当に周りの人間をよく見ている・・・。
見ているだけじゃない。
周りの人間を自分よりも想ってる。
だとしたら・・・この人は誰から、自分の存在を認めてもらっていると感じるのだろう?
「大石」
「あ、手塚!」
振り返ると、今さっきやってきた手塚が部室の前で立っていた。
「今日のメニューと、次の大会に向けてのオーダーを決めたい」
「あぁ、わかったよ。部活が終わってから話し合おう。メンバーの調子も聞いておくよ」
「頼んだ」
「あぁ」
手塚と大石のやり取りを見つめながら
はフッと温かな気持ちになっていることに気付いた。
あ、この感じ・・・。
確か、越前の家で感じた気持ちと同じだ。そこから
は一気に理解した。
手塚は大石を頼り、大石は手塚の力になることを自ら望んでいる。
存在を認めてもらうため・・・そんなことで大石は行動を選んでいるのではないと。
全ては自分の意思・・・自分の喜び・・・。
「大石先輩」
「ん?なんだい?」
「私、探します。自分がテニス部にとってどんな存在になれるか・・・そして、自分の喜びを」
その言葉に、大石は優しく微笑んだ。
「あぁ、きっと見つかるよ」
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
ヒロインと大石先輩との絡みでした。
大石先輩はあんな感じですからね。きっとマネージャーの
様子にも気を配っているのではないかと。
温かいお母さん目線で見つめていればいい。
2010.1.29