暗闇の中で光は1つでいい。


あまりにもたくさんな光を見つけると・・・


大切な1つを見失ってしまうから。















cry.11   〜 Don’t cry 〜















ちゃん、最近よく笑うようになったなぁ」










マネージャーを始めてから1週間。
の変化は周りから見ても明らかだった。










「えっ?」
「そういえば明るくなりましたよね。口数も増えてきましたし」










食事を取りながら南次郎と菜々子は、 とリョーマの2人に目を向けた。










「そ・・・うですか?」
「あぁ。いい感じだぜ?」










は一気に顔を赤らめながら俯いて「ありがとうございます・・・」と呟いた。
その隣でリョーマは口角を上げて笑った。










元々真面目な性格の は礼儀・言葉遣い、基礎的な仕事に気遣いと・・・
部員を驚かすほどの働きぶりを見せた。

自身もマネージャーの仕事を楽しんでいて、新しい仕事を教わったり
任されたりする度に嬉しそうにしていた。










?何してんの」
「あ、越前。あの・・・」










は黙ってロッカーの上を指差す。
そこには段ボールが1箱置かれていた。










「乾先輩が新しいボールが欲しいって・・・」
「あの箱なの?」
「うん。届かないし、ちょうどいい踏み台もなくて・・・」










リョーマが の隣に立ち、腕を思い切り伸ばす。
しかし指先はパタパタと空振りを繰り返すだけだった。










「・・・・・・・・・・・・・・・。」
・・・今笑ったでしょ」
「・・・いや」










小さく肩を揺らす に、リョーマは一瞬だけ顔が熱くなるのを感じた。










ガチャ!





、すまない。計算上お前の身長では・・・」










部室の扉を開けて現れた乾は、振り返った2人を交互に見つめるとクイッと眼鏡を押し上げた。










「残念だが、越前の身長をもってしても約20cm足りないだろう」
「言われなくても届かなかったっス・・・」

「・・・・・・・・・・・・・・・!!」










は必死に笑いを堪えたが、2人は完璧に気付いていた。










「じゃ、俺次の試合あるんで・・・」










バタンッ!と部室を出て行ってしまったリョーマを見て、 は「しまった」っという風に肩をすくめた。










「あ。そうだ、乾先輩。ボールが入った段ボールが・・・」
「よっと・・・」










楽々段ボールを取った乾に向かって、 は小さく歓声をあげた。










「乾先輩・・・大きいですね」
「ん?あぁ、平均よりは若干な」











若干? は眉を寄せて乾を見上げた。










「あ、すみません・・・。頼まれた仕事を結局やらせてしまって」
「いや、 の身長を計算に入れないで仕事を頼んだ俺のミスだ。気にしなくていい」










乾の腕の中にある箱を開けると、想像していた通り黄色いボールがギッシリ詰め込まれていた。










「持ちます」
「重いぞ?お前の力では、まず無理だ」
「・・・いけます」










真っ直ぐ目を見て訴えてくる に乾は困ったように眉を寄せると、段ボールを渡してそっと手を離してみた。










ズシッ・・・!!



「おっ・・・!?うっ!!」










予想以上の重さに の顔が一瞬歪む。










「ほぅ・・・。頑張るな」
「い、乾先輩。これをどこに持って行けば?」
「そうだな。コートのフェンス寄りの所に置いておいてくれ」
「はい・・・!!」










ヨロヨロと頼りない足取りで歩く の後ろに
ピッタリ付いて、乾は珍しいものを見るように を見下ろしていた。










ドサッ・・・!!



「ふぅ・・・」










指定された場所に段ボールを下ろすと、 は安堵の溜め息をついた。










「ありがとう。
「あ、いえ。マネージャーの仕事ですから」
「・・・手が」
「手?」










乾に言われ自分の両手を見てみると、重いものを持ったせいで圧迫され・・・
手の平は白く、指先は真っ赤になっていた。










「うわっ」
「やっぱり重いのを我慢していたんだな」










乾はそっと の両手を包み込むと、擦り合わせるように優しく撫で始めた。










「えっ・・・。あの」



「無理な仕事は無理と言ってもらって構わない。なにも1人で頑張らなくていい」










えっ・・・?顔を上げると、乾は静かに口角を上げて笑みを浮かべた。










「お前が出来る範囲の仕事は、全て俺が分かってる。事前にデータに出ているからな」
「あっ・・・」










次第に痛みが引いていき、温かくなっていく手の平を見つめながら、
は乾の言葉に心が震えているのを感じた。










「ありがとう・・・ございま・・・」

あー!! ちゃんが乾に迫られてる!! ちゃん危にゃーい!!










ガバッ!!



「うわっ!!?」










しかし、横から飛んできた菊丸のおかげでその後の仕事は全く捗らなかったという・・・。















〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

ヒロインと乾先輩との絡みでした。

うーん。乾先輩にこんなことされたら

顔がブワァー!!って赤くなっちゃいますね。

そんな2人を遠くで越前が睨んでいればいい。







2010.1.1