表面では笑っていても・・・


どこかで必ず影が指す・・・。


その時・・・1人なのだと強く感じる。















cry.8   〜 Don’t cry 〜















ガチャッ。










「遅くなってすまない」
「あっ・・・いえ」










扉を開けて手塚部長が現れると、不二先輩はスッと立ち上がった。










「じゃあまたね。 さん」
「あ、ありがとうございました・・・」










バタンッ。










扉が閉まった瞬間、私はドッと疲れを感じた。
なぜだろう・・・何だかとても緊張した。










「どうかしたか」
「えっ、いえ。あっ・・・これ、どうもすみませんでした」










昨日さりげなく渡してくれたハンカチを、私は鞄から取り出して渡した。










「あぁ。今日はこれを返すために?」
「それもあるんですけど・・・」










私はグッ!と拳を握りしめると顔を上げて、真っ直ぐ手塚部長に目を向けた。










「マネージャー・・・やらせていただけませんか?」










動きを止めた手塚部長は私を眼鏡越しにジッと観察した。










「・・・話しを聞こう」




















机を挟んで向かい合うように椅子に座る。
手塚部長が用紙に何かを書き込んでいるのを、私はただ見て待っていた。










「マネージャーの主な仕事は選手のサポートと備品の整理・・・
 そのほか雑用や時には必要物資の買い出しなどしてもらう」

「はい」

「地味で辛い仕事だ。途中で投げ出されたり、手を抜かれたりしては
 選手達にも迷惑をかけることになる」

「分かっています」










手塚部長は顔を動かさず、目だけを私に向けた。










「うちの越前と・・・あまり仲が良いとは言えないようだが?」










あうっ・・・。
覚悟はしていたが、いざこの質問をされると何と答えようか迷った。










「昨日はたいへんご迷惑を・・・」

「いや、構わないが・・・部員と何か問題を抱えたままなのであれば
 マネージャーは任せられない。話を聞くと・・・最初に言ったはずだ」










えっ?










私が顔を上げると手塚部長の真っ直ぐな瞳がとても近く感じた・・・。



あっ・・・やっぱりこの人は凄い人だ。
最初に出会った時も思ったことだが・・・この人は雰囲気やその場の空気を自分のものにすることが出来る。
主導権を握って雰囲気の中に相手を飲み込む。飲み込まれた相手は・・・流されるまま口を開く。










「越前君とはちゃんと仲直りしました。越前君はただ・・・私にチャンスをくれただけなんです」
「チャンス?」

「えっと・・・言いにくいんですけど私は今事情があって居候の身です。
 両親は・・・いないようなもので」

「・・・・・・・・・・・・・・・。」

「何かに夢中になることで自分自身を変えたいと思っていました。
 でも全然行動に移せなくて・・・いつも1人で悩んでて・・・見兼ねた越前君がマネージャーの話を」

「なるほど」
「昨日は・・・そんな越前君の気持ちに気付かないで「余計なお世話だ」と、思わず・・・」
「では・・・もう本当に問題はないんだな?」
「はい。大丈夫・・・なはずです」
「はず?」










今更、自信が無くなってきただなんて言えない。
私はごまかすために作り笑顔を浮かべて見せた。










ガチャッ!!










突然開いた扉に目を向けると目を丸くして驚いている越前が立っていた。










「遅かったな。越前」
「委員会っス・・・。それより」










越前の視線は真っ直ぐ私に向かっていて、私は「大丈夫」だという風に手を上げて応えた。










「越前。今ちょうどお前の話をしていた所だ」
「俺の?」
「部員との関係があまりよくないようならマネージャーは任せられないという話だ」










越前はそれを聞くとスタスタと私に歩み寄り、いきなり肩に腕を回してきた。










「なっ!?」










驚く私を横目に、越前はニヤッと悪戯な笑みを浮かべてみせた。










「問題ないっス。ね?」
「へっ!?えっ、あっ?うん!うん!!」
「・・・そうか」










正直、手塚部長がめちゃくちゃ呆れてたのは見てわかったが・・・。
私が引き攣った笑みを向けると手塚部長はパタンッと用紙をファイルに綴じ込んだ。










「マネージャーの詳しい仕事は明日説明する。今日の所は帰ってもらって構わない」
「えっ?じゃあ・・・」
「明日から、よろしく頼む」










バタンッ。










手塚部長が部室から出て行くと、私の体中の力が一気に抜けた。










「おめでとう」










顔を向けると、越前が相変わらずな笑みを浮かべながらそこにいた。










「どうも・・・」















〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

マネージャー就任決定!!

リョーマがずいぶん柔らかくなりましたね。

さてさてさて。あと考えなくてはならないのは

レギュラーメンバー1人1人との関係ですね。

どんな関係にしようかなー(ワクワク)







2009.6.6